2019年度皮膚科専門医試験 第8問 脱毛症

皮膚科専門医試験

問題 8.脱毛症について正しいのはどれか.

1. 抜毛症は眉毛・睫毛ではみられない. 
2. 先天性三角形脱毛の病変部では軟毛はほとんどみられない.
3. 日本人における先天性乏毛症では LIPH 遺伝子変異の頻度が高い. 
4. 円形脱毛症ではダーモスコピー上 follicular microhemorrhage がよくみられる. 
5. 円形脱毛症に対するステロイドパルス療法後 は速やかにステロイド内服療法に移行する.

 脱毛症に関する一般問題です。

 先天性乏毛症、とくに縮毛woolly hairの乏毛症に関する出題は2015年度の第3問にも出題されており頻出問題です。

 「あたらしい皮膚科学」には記載されていない項目も多いので脱毛症は個別に対策する必要があると思います。

第8問 脱毛症【解答:3】

解答:3

 トリコチロマニア・先天性三角脱毛症・先天性乏毛症・円形脱毛症、と幅広い疾患の知識が求められています。

1. 抜毛症は眉毛・睫毛ではみられない. → ×

The scalp is the most frequent hair-pulling site, followed by the eyebrows, eyelashes, pubic area,

trunk, and extremities.

Hautmann, Giuseppe, Jana Hercogova, and Torello Lotti. “Trichotillomania.” Journal of the American Academy of Dermatology 46.6 (2002): 807-826.

 上記のように、「頭皮が最も多いが、眉毛や睫毛、陰部や体幹、四肢」でも抜毛がありますのでこの選択肢は誤りとなります。

 頭皮の中では、特に前頭頭頂部frontoparietal regionに多い(Rook 9th)と記載されていることも大切かも知れません。

2. 先天性三角形脱毛の病変部では軟毛はほとんどみられない. → ×

 先天性三角脱毛症congenital triangular alopeciaは、側頭部三角脱毛症temporal triangular alopeciaとも呼ばれており、2016年度の第4問でも出題されています。

 硬毛terminal hairを欠き、軟毛vellus hairのみを認める、限局性非瘢痕性非炎症性脱毛症ですのでこの選択肢は誤りです。通常は、前頭側頭部の境界部に生じます。(Yamazaki, Masashi, Ryokichi Irisawa, and Ryoji Tsuboi. “Temporal triangular alopecia and a review of 52 past cases.” The Journal of dermatology 37.4 (2010): 360-362.)

3. 日本人における先天性乏毛症では LIPH 遺伝子変異の頻度が高い. → 〇

 LIPH遺伝子変異を有する先天性脱毛症(常染色体劣性縮毛症ARWH autosomal recessive woolly hair)は山口大学の下村裕教授が初めて報告しており、2011年(日皮会誌:121(9),1841-1846,2011)と2016年(日皮会誌:126(12),2269-2274,2016)に日本皮膚科学会雑誌で総説があります。

 2015年度でも出題されている頻出問題です。

 上記総説ではARWHについて以下のように記載されています。

生下時は正常だが,2 歳頃より徐々に頭髪が細く縮れてくる症例が多い.現在までに2 種類のミスセンス変異が報告されており,日本人特有の創始者変異とみられる.さらに,両変異の保因者が高頻度で存在することも明らかになり,約1 万人から2 万人に1 人の頻度で,LIPH の変異による乏毛症の患者が本邦にいると推定される

日皮会誌:121(9),1841-1846,2011

日本人にはLIPH遺伝子の創始者変異によるARWH の患者が高頻度(約1 万人に1 人)に存在することが明らかになっており,本邦で先天性毛髪疾患の患者を診察する際に必ず知っておくべき情報と言っても過言ではない.

日皮会誌:126(12),2269-2274,2016

 と記載されており、「絶対知っとけよ!」の圧を感じますので今後も出題される可能性が高いと考えられます。

 先天性脱毛症のうち日本で頻度が高い、という記載は先天性脱毛全体のデータを出すことがなかなか難しいのでやや言い過ぎかとは思いますが、それだけ強調したいのだと思います。ですので、この選択肢が正解となります。

  • 縮毛症woolly hairは症候性/無症候性・常染色体優性/劣性で4つに分類される
  • 無症候性のものはARWHとADWH(autosomal dominant woolly hair)に分けられる
  • ARWHの遺伝子変異はLIPH・LPAR6・KRT25の3つの変異が報告されている
  • ADWHの遺伝子変異はKRT71/KRT74の2つの変異が報告されている
  • ARWHとADWHでの遺伝子変異はすべて内毛根鞘に発現している

 このあたりの内容は今後も出題の可能性があるのでおさえておくのがよいかもしれません。

 また、LIPH遺伝子変異のARWHで1-5%のミノキシジル外用が有効だったとの報告もあります。(Tanahashi, K., K. Sugiura, and M. Akiyama. “Topical minoxidil improves congenital hypotrichosis caused by LIPH mutations.” British Journal of Dermatology 173.3 (2015): 865-866.)

4. 円形脱毛症ではダーモスコピー上 follicular microhemorrhage がよくみられる. → ×

The Journal of dermatology 41.6 (2014): 518-520.より

 follicular microhemorrhage(FMH)は2014年に日本から報告があり、トリコチロマニア(TT)の所見として記載されています。

 上図をみると、円形脱毛症(AA)の所見は特異的なものが少ないですね。ですので、この選択肢は誤りとなります。

 トリコチロマニアでのトリコスコピー(ダーモスコピー)所見は以下のような頻度との報告もされています。所見が多彩で今後の出題もあるかもしれませんね。

所見頻度
decreased hair density
hairs broken at different lengths
100%
Short hair with trichoptilosis (“split ends”)
irregular coiled hairs
upright re-growing hairs
80%
 black dots and flame hair
v-sign
follicular hemorrhages
30%
Tulip hair
hair powder patterns
10%
Ankad, Balachandra S., et al. “Trichoscopy in trichotillomania: a useful diagnostic tool.” International journal of trichology 6.4 (2014): 160.

5. 円形脱毛症に対するステロイドパルス療法後 は速やかにステロイド内服療法に移行する.→ ×

ステロイド内服療法

 成人の重症かつ進行性の AA に対して本療法を行ってもよい.ステロイドパルス療法を先に施行し無効の場合に本療法を選択してもよい.治療前にステロイドパルス療法と同様のスクリーニング検査を施行する.副作用を最小限とする観点から,初期量プレドニゾロン 0.5 mg/体重 kg,総投与期間 3 カ月以内を推奨する.初期量の投与期間は最長 1 カ月間とし,この時点で脱毛の停止あるいは発毛が認められなくても減量を開始する.1 カ月以内に脱毛の停止および発毛を認めれば,その時点で減量を開始する.減量は原則として10 mg/日までは 5 mg/週,それ以下では 2.5 mg/週で行い,総投与期間を 3 カ月以内となるよう計画する.減量中に再発した場合,増量はせずに速やかに減量・中止し,他の治療法(局所免疫療法など)に切り替える.中止後に再発した場合も本療法の適応はなく,他の治療法(局所免疫療法など)を試みる.

日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版

 上記のように記載され、ステロイドパルスが無効の場合に使用すると記載されていますので速やかに、という点でこの選択肢は誤りです。

 英国のガイドライン(Messenger, A. G., et al. “British Association of Dermatologists’ guidelines for the management of alopecia areata 2012.” British journal of dermatology 166.5 (2012): 916-926.)や

 JAADの総説(Strazzulla, Lauren C., et al. “Alopecia areata: an appraisal of new treatment approaches and overview of current therapies.” Journal of the American Academy of Dermatology 78.1 (2018): 15-24.)

 でもステロイドパルス後のステロイド内服についての記載はなく、「内服をやめると再発する」、「副作用を考慮すると長期間の使用は勧められない」と記載されています。

参考文献

 いかがでしたか?

 先天性脱毛症は、とくに臨床現場では目にする機会が少ないのでポイントを絞って対策するのが大切だと思います。

 正直、脱毛症の遺伝子変異とかしらなくてもえーやん(診療で困らない)、、ですが。。

  • Hautmann, Giuseppe, Jana Hercogova, and Torello Lotti. “Trichotillomania.” Journal of the American Academy of Dermatology 46.6 (2002): 807-826.
  • Yamazaki, Masashi, Ryokichi Irisawa, and Ryoji Tsuboi. “Temporal triangular alopecia and a review of 52 past cases.” The Journal of dermatology 37.4 (2010): 360-362.
  • 皮膚科セミナリウム第76 回 毛包・脂腺系疾患1 先天性毛髪異常 日皮会誌:121(9),1841-1846,2011
  • 新・皮膚科セミナリウム 角化症catch up~病態と診断2 毛髪角化異常症の病態と診断 日皮会誌:126(12),2269-2274,2016
  • Tanahashi, K., K. Sugiura, and M. Akiyama. “Topical minoxidil improves congenital hypotrichosis caused by LIPH mutations.” British Journal of Dermatology 173.3 (2015): 865-866.
  • Ise, Misaki, Masayuki Amagai, and Manabu Ohyama. “Follicular microhemorrhage: A unique dermoscopic sign for the detection of coexisting trichotillomania in alopecia areata.” The Journal of dermatology 41.6 (2014): 518-520.
  • Ankad, Balachandra S., et al. “Trichoscopy in trichotillomania: a useful diagnostic tool.” International journal of trichology 6.4 (2014): 160.
  • 日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版

最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。

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