はじめに結論から。
「基本的に一度に2つの手術をしても片方しか算定できません」
検査料や処置料でも同様ですが、手術料の算定には「手術通則」とその「留意事項」が定められています。
これらは、手術料を算定する際のルールになります。
- 手術料に含まれるものってどんなものがあるの?
- 手術料と別に算定できるものにはどんなものがあるの?
- 1回の手術で2個以上算定できる場合はあるの?
- 手術料のHIV加算、感染症の加算って何?
- どうして文書で手術の説明をするの?
といった疑問をお持ちのかたへ!
この記事では、「手術通則」や「留意事項」に基づき、皮膚科の手術料の算定での注意点について解説しています。
<個々の手術料の算定についてはこちらで解説しています。>
皮膚科の「外来」手術の算定【専攻医1年目に必須の知識】
皮膚科の「入院」手術の算定【専攻医1年目に必須の知識】
手術料の算定で「手術料に含まれるもの」と「別に算定できるもの」
外来でも入院でも、手術料を算定する場合には「通則」といって手術料全般に関する決まりがあります。
まずは手術料に「含まれるもの」と「別に算定できるもの」についてみていきます。
手術料に含まれるもの【同時に行う処置や一部の検査は別に算定できません】
手術通則の留意事項5によると次のものは手術料に含まれます。
- 手術と同時におこなう処置や診断穿刺・検体採取(皮膚生検など)の費用
- 手術に関連しておこなう注射の手技料
- 手術で使用した特定保険医療材料「以外」の物品の費用
- 消毒薬(ポビドンヨードなど。正式には外皮用殺菌剤)
- 1回の手術で使用される総量価格が15円以下の薬剤の費用
炎症性粉瘤で切開するときに検体を病理に提出した経験はありませんか?
そのとき「皮膚切開術(手術料)」と「皮膚生検(診断穿刺・検体採取料)」は同時に算定できるでしょうか。
実は手術料を算定する場合には同じ手技でおこなったことを「処置料」や「診断穿刺・検体採取の検査料」として別に算定することはできません。(※診断穿刺・検体採取「以外」の検査料は算定可)
そのため、手術時の検体を病理に提出しても「皮膚生検」を別に算定することはできません。
また、ガーゼや縫合糸などの通常の物品(衛生材料や保険医療材料)も別に算定することができません。(後に説明する特定保険医療材料は別に算定可能)
皮膚科の物品の算定についてはこちらでまとめています。
→皮膚科の物品の算定【特定保険医療材料と衛生材料・保険医療材料】
そのほか、手術に関連して行われる注射の手技料、イソジン®などの消毒薬(外皮用殺菌剤)や1回の手術で使用する総量で15円以下の薬剤の費用は別に算定できません。
手術料とは別に算定できるもの【薬剤と特定保険医療材料は別に算定できます】
- 手術に使った薬剤(総量で15円以上のもの)や特定保険医療材料の費用
- 手術検体の培養検査などの検査料
- 診察料(初診料・再診料・外来診療料)
- 病理診断料
通常の物品は算定できませんが、使用した薬剤(総量で15円以上のもの)・特定保険医療材料については手術料とは別に算定することができます。
特定保険医療材料は、厚生労働省が指定した「保険算定ができる物品」を指します。
皮膚科の物品の算定についてはこちらでまとめています。
→皮膚科の物品の算定【特定保険医療材料と衛生材料・保険医療材料】
皮膚生検など「診断穿刺・検体採取」の検査料は算定できませんが、感染症などで培養検査をおこなう場合などはその検査料を別に算定することができます。(病理診断料も算定可能です。)
同一手術野・同一病巣で算定できる手術料【植皮術は併算定可・局所皮弁は低い方を半分にして算定】
基本的には、
同一手術野・同一病巣で算定できる手術料は1種類のみ(通則14)
という決まりがあります。
ただし、2種類同時に算定できる例外があります。
その例外が次の手術料です。
神経移植術、骨移植術、植皮術、動脈(皮)弁 術、筋(皮)弁術、遊離皮弁術(顕微鏡下血管柄付きのもの)、複合組織移植術、自家遊離複合組織移植術(顕微鏡下血管柄付きのもの)、粘膜移植術若しくは筋膜移植術
これらの手術を別の手術と同時に行う場合には、同一手術野・同一病巣でも2つの手術を同時に算定することができます。
皮膚科でよく登場するのは植皮術です。腫瘍の切除と植皮術はよく同じタイミングでしますよね。
腫瘍の切除と同じタイミングで植皮術を行った場合には「切除」・「植皮」の両方を算定することができます。
また、局所皮弁をおこなう際に算定する
「皮弁作成術、移動術、切断術、遷延皮弁術」
を別の手術と同時に行う場合には「点数の低いほうの手術料を半分にする」ことで2つの手術を同時に算定することができます。(【複数手術に係る費用の特例を定める件の一部を改正する件(告示)令和4年厚生労働省告示第74号】)
皮膚科の手術での併算定をまとめると次のようになります。
局所皮弁の算定は複雑なので例を示しておきます。
<手背の皮膚悪性腫瘍を切除して10cm2の欠損を局所皮弁で再建した場合>
K007 皮膚悪性腫瘍切除術 2 単純切除 | 11,000点 |
K015 皮弁作成術、移動術、切断術、遷延皮弁術 1 25平方センチメートル未満 |
単純に合計すれば、11,000+4,510点ですが、
局所皮弁の点数の方が低い(11,000点>4,510点)ため、局所皮弁の算定点数を2,255点と半分にして11,000+2,255点で算定されることになります。
手術料の感染症加算【HIV・MRSA・HBV・HCV・結核】
感染症をもつ患者さんの手術では、血液を介して医療者が感染してしまうリスクもあるため、普段以上に気をつかいますよね。
そのため、各種感染症患者さんの手術を行う際にはリスクに応じた加算が決められています。
ただし、どんな場合でも算定できるわけではありません。
算定条件を理解して、もれなく算定したいところです。
HIV加算【スクリーニングのみ陽性では算定不可】
手術通則10 | HIV加算 | 4,000点 |
算定する機会が少ないので意外と見逃されていることが多い加算かもしれません。
術前のスクリーニング検査でHIV抗体を調べる医療機関もあると思います。
ただし、通常のスクリーニング検査のみではこちらの加算を算定することはできません。
算定のために次の3つの検査(D012 46/49、D023 15)のうちいずれかで陽性を確認する必要があります。(手術通則の留意事項10)
- HIV-1抗体(ウエスタンブロット法)
- HIV-2抗体(ウエスタンブロット法)
- HIV-1核酸検査
これらの検査は、いきなり算定してしまうと査定されてしまうので注意が必要です。
いずれもHIV抗原/抗体の簡易検査(D012 16-18)のいずれかで陽性を確認した場合にのみ保険算定可能です。
そのため、手術前のHIV加算の確認は
D012 16-18でHIV抗原/抗体の簡易検査
↓陽性なら
D012 46/49(ウェスタンブロット法による抗体検査)
D023 15(PCRなどによる核酸検査)による確認検査
↓陽性なら
HIV加算を手術料に加算して算定
という手順を取る必要があります。
「手術前になって初めてHIV感染がわかる」というよりも「もともとHIV感染があると分かっている場患者さんの手術をする」ことのほうが多いとは思いますが、手術をする医療機関で確認検査ができていない場合には「検査忘れで算定できなかった」ということがないようにしたいところです。
MRSA・HBV・HCV・結核の加算【全身麻酔・硬膜外麻酔・脊椎麻酔で算定】
手術通則11 | MRSA・HBV・HCV・結核の加算 | 1,000点 |
HIVとは異なりすべての手術で算定できるわけではありません。
全身麻酔・硬膜外麻酔・脊椎麻酔でのみ算定可能であり、局所麻酔のみの手術では算定できません。
算定条件は次の通りです。
- MRSA感染症:知事への医師届出が義務づけられている場合(基幹定点医療機関)
- B型肝炎感染:HBs抗原 or HBe抗原が陽性の場合
- C型肝炎感染:HCV抗体陽性の場合
- 結核:結核菌を排菌している場合
B型肝炎の抗原が陽性、排菌している結核というケースは少ないかもしれませんが、MRSA感染症やHCV抗体が陽性というケースはそれなりにあるように思われます。
各種感染症を確認して、条件を満たしていれば忘れず算定したいですね。
(番外編)手術料の説明書・同意書【法令で根拠はあるの?】
話が逸れるので興味のない方は読み飛ばしていただいて構いません。
病院での手術ではどんなに小さなものでも同意書をとることに疑問を感じたことはありませんか?
診療報酬上では、同意書をとる必要性については記載されていません。
ただし、皮膚科以外の一部の手術料(例:食道悪性腫瘍手術など)を算定するための施設の条件として「施設で行われる全ての手術について文書で患者に説明すること」が挙げられています。(手術通則5)
どんなに小さな手術であっても十分な説明と患者さんの納得・理解が必要ですが「説明書が必要な理由は診療報酬に記載されている」という点は知っておいてもよいかもしれません。(どうせ文書で説明するなら同意書も取得しておく、という考えなのだと思います。)
まとめ
いかがでしたか?
手術の算定ルールを押さえておけば業務もスムーズになり余裕が出てくると思います。少しでも参考になればうれしいです。
- 手術料に含まれるもの
- 手術と同時におこなう処置や診断穿刺・検体採取(皮膚生検など)の費用
- 手術に関連しておこなう注射の手技料
- 手術で使用した特定保険医療材料「以外」の物品の費用
- 消毒薬(ポビドンヨードなど。正式には外皮用殺菌剤)
- 1回の手術で使用される総量価格が15円以下の薬剤の費用
- 手術料に含まれないもの
- 手術に使った薬剤(総量で15円以上のもの)や特定保険医療材料の費用
- 手術検体の培養検査などの検査料
- 診察料(初診料・再診料・外来診療料)
- 病理診断料
- 基本的には、一度に2種類以上の手術をしても一つしか算定できない
- 植皮術は例外として、ほかの手術と併算定可能
- 局所皮弁は、点数が低い方を半分にして他の手術と算定可能
- 感染症の手術加算
- HIV/MRSA/HBV/HCV/結核で算定可能(条件付き)
- HIV:ウェスタンブロット法での抗体の確認・核酸検査での感染の確認
- MRSA感染症:知事への医師届出が義務づけられている場合(基幹定点医療機関)
- B型肝炎感染:HBs抗原 or HBe抗原が陽性
- C型肝炎感染:HCV抗体陽性
- 結核:結核菌を排菌している
コメント