在宅往診バイトの夜間呼ばれすぎ問題【ファストドクターってほんとにダメ?】

キャリア

寝当直だと思ってたのに結構呼ばれるんだよね。

なになに?どうしたの?

いやさー、在宅診療の当直バイト始めたんだよ。
そしたら、元気だけど熱が出たとかで真夜中に呼ばれてさ。
救急でのコンビニ受診の在宅版てやつ?
おかげで寝不足だわ。

在宅往診夜間呼ばれすぎ問題

在宅診療自体はめちゃ良い取り組み。(肌感)

なんだけど。

今回は「良い」「悪い」の意見が分かれる点を 2 つ考えてみます。

ひとつが「往診の必要性」もう一つが「死亡確認の即時性です。

往診ってどんな時にするのが妥当なの!?

「往診」の扱いは個人的には腑に落ちないんですよね。

診療報酬上は、

往診料は、患者又は家族等患者の看護等に当たる者が、保険医療機関に対し電話等で直接往診を求め、当該保険医療機関の医師が往診の必要性を認めた場合に、可及的速やかに患家に赴き診療を行った場合に算定できる

令和 4 年度診療報酬 C000 往診料 留意事項

とされています。

この「医師が往診の必要性を認めた場合」というのがクセ者です。

判断がすべて医師に丸投げされていますよね。医療提供側が OK なら、電話 1 本で医療がおうちに来るというスキームが成り立っています。

一般的な在宅医療は定期的な訪問です。
スポットの往診とは区別されています。
ちなみに定期的な訪問診療は「在宅患者訪問診療料」で算定されます。

こちらは要件として「同意書」が必要で「通院が困難な」ひとでしか算定することができません。

一方「往診料」は診療報酬上「通院が困難な」ひと以外でも算定可能となっています。

ファストドクターやコールドクターなど 2010 年代以降には往診をサポートする企業が現れました。SNS では医学的には軽症とも判断されうる症例で「往診を頼んで便利!」という投稿が取り上げられることもありました。

一応企業では往診の基準を公開しています。

例えば、ファストドクターでは「救急トリアージの基準に該当する例に絞って往診をおこなう」としています。
具体的には、総務省消防庁が救急医療の専門医師と協力して策定した「電話救急医療相談プロトコル」を使用しているようです。

しかし、救急トリアージの基準が各々の医師にとってみればあまり納得感がなく「医療のコンビニ利用だ」と評されるのかもしれません。
また緊急時しか往診できないという誤解があるのかもしれません。
診療報酬上は緊急時でなければならないのは「緊急往診加算」であり夜間休日往診加算や深夜往診加算には緊急時でなければならないという決まりはありません

別に厚生労働大臣が定める時間において入院中の患者以外の患者に対して診療に従事している場合に緊急に行う往診、夜間(深夜を除く。)又は休日の往診、 深夜の往診を行った場合には、在宅療養支援診療所、在宅療養支援病院(地域に おいて在宅療養を提供する診療所がないことにより、当該地域における退院後の患者に対する在宅療養の提供に主たる責任を有する病院であって、別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出たもの をいう。以下この表において同じ。)等の区分に従い、次に掲げる点数を、それぞれ所定点数に加算する。

令和 4 年度診療報酬 C000 往診料 注 1

もちろん、どんな場合でも往診料を算定できるわけではありません。

診療報酬の疑義照会では

「医師が往診の必要性を認めた場合に行う」とされており「往診の日時についても、依頼の詳細に応じて、医師の医学的判断による」

事務連絡 平成30年5月25日厚生労働省保険局医療課 疑義解釈資料の送付について(その4)

と回答されています。

この「医師」が具体的にだれかまでは明示されていません。

「管理医師(医療機関の責任者)」と解釈すればあらかじめ方針として決めておけばいつでも往診させることができます。
一方、「当直している医師本人」と解釈すれば、内容によっては夜間の往診を断ることもできるかもしれません。(スポットバイトの場合、今後採用されなくなる可能性があるのでご注意ください。)

定期的な訪問診療を受けている患者の往診は?【基準作りと情報共有でサプライズを防ぐ】

ここではファストドクター的な「定期的な在宅医療をおこなっていない」人の往診ではなく、通院が困難で在宅医療を受けているかたの往診がどんなときに必要なのかを考えてみます。

「通院ができないくらい ADL が下がっていて定期的な訪問診療を必要としている方」って基本的には予備能が乏しい(フレイルの状態)ことが多いですよね(肌感)。

そんな場合、症状はさておき、普段より ADL が下がっているという状態だけで sepsis や心筋虚血などを考慮しないといけないレベルで何があってもおかしくないと思います(肌感)。
そんな人に対して往診をしても「大きな病院に行きましょう」と言うことがせいぜいです。
医学的に価値のある処置を在宅で行うことは難しいというのが現実だと思います(肌感)。

もちろん、「在宅医療なら血液培養なしで広域抗生剤点滴してもよいじゃないか」とか「検査の精度が低い状態でも診察だけしてその情報をもとに救急搬送することに価値があるじゃないか」という意見はあるかもしれません。

ここは意見が分かれるところかと思っていて「在宅医療って本来どうあるべきなの?」という議論が抜け落ちた結果「とりあえず在宅で医療を受けられたらよいよね」という形式になっているように思います。

そのため「在宅医療の中身に対する考え方は医師によって異なるが許容される」という状況に落ち着いています。

さきほど述べた疑義照会の通り、「往診をするかは医師の判断」にゆだねられています。

複数のスタッフで在宅医療を行っている場合、往診の電話を直接受けるのは看護師などの他職種になることがあります。
往診をするかどうかの基準が医師によって変わると違和感を覚えるというのも理解できますよね。

あらかじめ往診をする基準を作り、共有することができれば、そのような違和感を生むこともなく働きやすい職場になるように思います。
慢性期病院の医療水準不安定問題で述べた、Google の re:Work で触れられている「明確な構造」に当てはまります。
もちろん、医師からすれば自分の自由で判断ができなくなってしまうので、医師があえて相手をコントロールする権利を捨てる仕組みづくりを医師側から働きかけが起きづらいという現状も理解はできます。

往診する基準だけでなく、往診した際にどうであれば救急要請するのか、といったすり合わせをおこなっておかないと現場の混乱を招きます。
ACP ができている場合、できていない場合など患者さんの事情はまちまちだとは思います。

それでも現場では意思決定が求められます。

急いでいるときに「さあ ACP 考えて!」なんてことは非現実的でしょう。

判断のよりどころをあらかじめ作り共有しておくことで「知らなかった!」というネガティブなサプライズを防ぐことができます。

往診料の診療報酬の変遷【在宅医療の医療費は割合は小さいが伸びがすごい】

そもそも、なぜ往診が議論を呼んでいるかというと、診療報酬がその原因のひとつになっているでしょう。

1981 年に 200 点になった往診料は年々増点され、2010 年には 720 点にまで増えています。(診療報酬点数表の一部改正等について 昭和五六年五月二九日 保発第三八号)

それ以降 2023 年に至るまで 720 点を維持していますが、在宅患者訪問診療料も含め増点傾向です。

とはいっても、令和 2 年度の NDB オープンデータで計算される在宅医療の医療費は 5300 億円(診療報酬の C で算定されたものの合計)で医療費全体が40 兆円超からみると数パーセントで、それほど多くを占めているとは言えません。

ちなみに平成 26 年度の 在宅医療の医療費は 4300 億円だったので、伸びとしては 6 年間で 1000 億円(+23 %)とかなりの伸びを見せています。
総量よりも変化量に注目がいきやすいので目立つ変化なのはやむを得ないかもしれませんね。(国民医療費全体は6 年間で+6 %)

とはいえ、イチ医療機関からすれば、これは喉から手が出るほど欲しい診療報酬です。
入院・外来に加えて新しい収入の経路ができるわけです。
入院や外来も改善の余地はあります。
が、あたらしく始めるほうが分かりやすくてそこに飛びつくのもうなづけます。

とりあえず、始めさえすれば診療報酬は入ってきます。
入院診療や外来診療と同じように人を割り当てれば始められます。

しかし、より高い診療報酬を得るために 24 時間対応(在宅療養支援診療所・病院)をおこなうとスタッフの割り当て体制に無理が生じます。
訪問看護ステーションこそ常勤換算 2.5 人という看護師の基準があります(24 時間対応体制加算算定が多い中、2.5 人で 24 時間 365 日カバーするというのはかなり無理がある)が、病院にはそのような在宅診療における人員配置の基準は見当たりません。

「医療機関としてもどれくらいが妥当な数なのか」で判断、というより「病棟の看護師で余った数を在宅に充填する」のが実情かもしれません。

在宅医療ってそもそもなんであるの?

中央社会保険医療協議会 総会(第549回)在宅について(その1)

診療報酬が上がって、医療機関としては在宅医療に手を出したい状況が作られています。

軽症に見える患者への往診が目立ち始めたのもそのような背景があるように思われます。

では、そもそも在宅医療は何を目指しているのでしょう?

行政としては在宅医療に 4 つの機能を求めています。(第 8 次医療計画)

  1. 退院支援
  2. 日常の療養支援
  3. 急変時の対応
  4. 看取り

なかでも、国民が明確な「急変時の対応・看取り」にフォーカスされています。

「急変時の対応」については、ACP を含めた患者本人の意思決定支援が含まれます。国民自身の理解が進まないとなかなか診療報酬に反映しづらく、炎上した「人生会議」など行政側の苦労が見えます。

一方、「看取り」については診療報酬に反映しやすいのか、順調に進んでいそうです。

自宅で最期を迎えたい人は多い

中央社会保険医療協議会 総会(第549回)在宅について(その1)

人生の「最期をどこで迎えたいか」という調査では自宅という回答が 15-40 % と比較的多くあります。現在、自宅での看取りは増加傾向で 10 % 台後半です。病院での医療費がかさむというのも行政側の本心としてはあるのかもしれませんが、国民のニーズを満たすのが行政の役割だとすれば、数字的には「看取り」目的の在宅医療を増やすことはニーズにかなっていそうです。

なくなる直前までは病院で過ごし、最期は自宅で過ごしたいというニーズがあるようです。

というわけで、「看取り」は診療報酬的にもしっかり評価しようという流れになっています。

「看取り」は診療報酬がお高い

中央社会保険医療協議会 総会(第549回)在宅について(その1)

スポットの往診だけでは算定できず、
定期的に訪問診療をおこなっていた患者限定ですが、
看取り関連の加算は合計すると 10,000 点弱(6,500 + 3,000 点)になる場合もあります。

往診(スポットだけで定期的なかかわりがない往診)だけで死亡診断をしても死亡診断加算の 200 点のみなのでそれとは雲泥の差です。

1 回の看取りで 10 万円になるなら、当直バイトを雇っても確かにペイしそうです。

ちなみに、この「看取り」の定義として「患者が息を引き取るまさにその瞬間に立ち会っている必要があるかどうか」という疑問がありますが、こちらは「立ち会っていなくても 算定 OK」という解釈になっています。(疑義解釈資料の送付について(その7)平成30年7月30日)

とはいえ、死亡確認の即時性は必要!?

ここで話をもとに戻しましょう。

在宅往診バイトの夜間呼ばれすぎ問題です。

自宅の場合、通常は家族も夜間は寝てますから夜間に死亡確認に呼ばれることは稀かもしれません。

問題は有料老人ホームなどの施設入所のかたです。

定期的に訪室しますし、場合によってはモニターをつけています。
なので、心停止時には真夜中だろうがすぐにわかってしまいます。

訪問診療を提供している患者であれば、医療機関にも 10 万円近い報酬がありますし、
追加で往診料(720 点)・深夜往診加算(1,300-2,700 点)も算定できます。

医療機関としてはどんどん行ってもらいたいところです。

しかしですよ。

『自宅で看取っていたら朝まで気づいていなかっただろう患者さん』の看取りを、あえてマンパワーの少ない夜中に、患者家族・施設職員・医療関係者の休息を妨げてまですること」が在宅医療の持続可能性につながるかどうか、という点については議論があるように思います。(肌感)

死亡診断の法的な取り扱いはどうなってる?

肌感、だけでは説得力もありません。

そもそも「朝になるまで待って看取りをするのはダメなのか」を日本の法律で確認してみます。

厚生労働省は毎年「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」を作成しています。
ほとんど内容が変わらないのにご苦労なことです。

そんなことはさておき、中身を見てみます。

「医師が患者の死亡に立ち会えなかった場合」という項目では死亡診断のありかたの例として次のように記載されています。

末期がんの患者Aは、最期を自宅で迎えるため、自宅にて療養している。積極的な治療 を行わない方針の下、訪問診療を行う医師Bによる定期的な診療を受けている。ある日、 医師Bが患者Aの診察を行ったところ、早晩死亡することが予想された。その旨を連携し て訪問看護を行う看護師C及び家族に伝え帰宅した。それから数日後の深夜、患者Aは家 族及び看護師Cに見守られ死亡した。看護師Cから患者A死亡の電話連絡をうけた医師Bは 「翌朝、患者A宅を訪問し、死後の診察を行うこと」を伝えた。翌朝、患者A宅を訪問し た医師Bは、死亡後に改めて診察し、死亡の事実、死因が診療中の末期がんであること等 を確認し、医師法第20条本文の規定により、死亡診断書を交付した。

令和5年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル P6

え!?

翌朝、患者A宅を訪問し、死後の診察を行うこと」を伝えた。

令和5年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル P6

え?

翌朝、患者A宅を訪問し、死後の診察を行う

令和5年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル P6

OK じゃん。

「もともと定期的に診察しているかた」や「息を引き取る過程が明らかに内因性のものとわかっているかた」であれば、別にわざわざ深夜に死亡診断する必要性は基本的にないですよね。

死亡の瞬間に立ち会えなくても、看取り加算は算定できますし。

もちろん、定期的な訪問診療を行っていない患者さんの死亡診断は「往診料 + 死亡診断加算 200 点」なので十分とはいえないかもしれません。
だから、深夜に往診して「『深夜往診加算』稼いでこい!」という方針は経営者としてはありうるのでしょう。

なので、あとは経営者がどれだけ働く環境を整えたいか、職員がその環境を受け入れられるか、ということになるのかもしれません。

「異状死だったらどうするんだ?」
「事件だったら早く警察署に届けないといけないじゃないか」というご意見もあるかと思います。

そもそも、異状死の届出は検案から 24 時間以内です。

医師は、死体又は妊娠 4 月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24 時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

医師法第 21 条

そして、異状死の確証もなく届出をすることは心理的にかなりのハードルです。

例えば、バイト中に夜間に看取りで呼び出され老健施設で死亡確認をした場面で異状死を届けるというのはよほどのメンタルお化けだという実感があります。

異状死のすべてに事件性があるわけではありませんが「施設の中で事件が起こったかもしれない」というメッセージを発信することは常人のメンタルでは難しいです。(肌感)

普段通り死亡確認されると思っていた施設職員や往診の看護師からすれば「なにいってんの?こいつ」となるに違いありません。
関係者との信頼関係もないなかでリスクのある発言をすることは困難です。(実体験)

行政としては文書(「医師による異状死体の届出の徹底について」に関する質疑応答集(Q&A)について」(平成31年4月24日付け厚生労働省医政局医事課事務連絡))で異状死の届出の徹底を通知していますが、
異状死の届出事体にインセンティブがない以上、きちんと届出がされるのはむずかしいのが現状なのでしょう。

保険診療で OK なものとそうでないものの境界は変わりうる

ここまで、「ファストドクターによる往診の是非」「深夜の看取りの必要性」について深堀してきました。どちらも法律の範囲内で認められたプラクティスです。

ファストドクターの往診で「医療費の無駄遣いガー」という意見もありますが、実際どうでしょうか。

確かに、小児の往診料の算定は増えています。定期的な訪問診療の伸びよりもかなり増えています。

中央社会保険医療協議会 総会(第549回)在宅について(その1)

しかも、東京・大阪などの大都市圏で大きく増えています

中央社会保険医療協議会 総会(第549回)在宅について(その1)

ファストドクターなどの往診は大都市圏を中心に行われており「ファストドクターなどの企業の出現」と「小児の往診の増加」には相関があるかもしれません。

確かに深夜の無駄な往診で医療費負担が増えていれば問題かもしれません。

しかし実際には深夜の往診で生じる往診料加算は在宅医療の医療費のなかでも大きな部分を占めているとはいえません

中央社会保険医療協議会 総会(第549回)在宅について(その1)

というわけで、ファストドクターの(無駄に思われる)往診のせいで医療費がかさむという主張のは無理があるように思えます。

そもそも「無駄な医療費ガー」という意見のなかには「そんな贅沢は保険診療で賄われるべきではない」という主張が入っているように思われます。

保険診療で賄われるべき医療とはだれが決めるのでしょうか

直接的には、社会保険支払基金で査定をする方々ですが、そもそも社会保険は国民のためにあります。
いわゆる世論は必ずしも正しい判断をできるわけではありませんが、時代によってかわるものです。
ファストドクターのような便利なサービスができたのだからそれを利用したいというのは国民からすればもっともな意見でしょう。

現役世代からすれば、自ら納めた保険料が高齢者の医療だけを中心に利用されるのは納得いきません。
「小児の往診サービスによって現役世代が利益を受けること」を問題視するのは「これまでなかったのにけしからん」というお気持ち的な部分も大いにあるように思います。(そもそも医療費自体にはそこまで影響を与えていない)

保険料を負担している現役世代に報いることができるサービス」と考えれば、そこまで目くじらを立てる必要があるかはわかりません。

もちろん、異論はあると思います。

ただ、「その異論が世論の意見と乖離しているのではないか」という視点は必要かもしれません。

何がよくて何が悪いかの価値観はみんな違う。だから組織で一定のラインを決めないといけない。

ファストドクターの往診にしても、夜間の看取りにしても、金銭的な思惑があって成り立っています。

価値観はみんな違います。

そのなかで組織として一貫性を持たせるには、一定の境界を決める必要があります。

さらに「なぜその組織ではそのラインなのか」の説明責任を果たさなければ、メンバーに納得感を持たせることはできません。

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