2019年度皮膚科専門医試験 第10問 光線テストの正常反応

皮膚科専門医試験

問題10.日本人のスキンタイプ(JST)-IIで,光線過敏のない健常者にみられる反応はどれか.

1. 20 J/cm2 UVA照射直後の色素斑
2. 20 J/cm2 UVA照射翌日の紅斑
3. 20 mJ/cm2 UVB照射直後の色素斑
4. 20 mJ/cm2 UVB照射翌日の紅斑
5. スライドプロジェクター5分照射直後の膨疹

 光線テスト後の皮膚の反応に関する出題で、かなり難易度が高いように思います。

 「UVBの最少紅斑量(MED)は日本人では60-100mJ/cm2、UVAの最少反応量(MPD)は10-15J/cm2」とする「あたらしい皮膚科学」の記載だけでは太刀打ちできません。

 通常、光線テストでの光線過敏症かどうかの判定は、24時間後に紅斑があるかを確認しますよね。光線テスト直後の反応なんて基本的に見向きもしません。(日光蕁麻疹のときは別ですが。)

 ところが、今回の出題はそこをターゲットにしてきています。なんとも意地悪!

 ちなみに、JSTはⅠ-Ⅲに分類され、一般的な皮膚色の分類であるフィッツパトリックのtypeⅡ-Ⅳにそれぞれ相当します。(フィッツパトリック分類は皮膚色をtypeⅠ-Ⅵまで分け、 typeⅠは真っ白、typeⅥは真っ黒です。)

第10問 光線テストの正常反応【解答:1】

解答:1

光線テスト直後の反応

紅斑色素斑
UVAフィッツパトリックtypeⅠ・Ⅱ
では起こりうる
>1J/cm2
ですべての皮膚タイプでも起こる
UVBフィッツパトリックtypeⅠ・Ⅱ
では起こりうる
起こらない
可視光線フィッツパトリックtype Ⅳ-Ⅵ
では起こる
(type Ⅱでは起こらない)
40-80J/cm2
で起こりうる
(Sklar, Lindsay R., et al. “Effects of ultraviolet radiation, visible light, and infrared radiation on erythema and pigmentation: a review.” Photochemical & Photobiological Sciences 12.1 (2013): 54-64.)
(Kohli, Indermeet, et al. “The dynamics of pigment reactions of human skin to ultraviolet A radiation.” Photodermatology, photoimmunology & photomedicine 35.6 (2019): 387-392.)

 UVA/UVBを照射した直後の反応は、紅斑と色素斑に分かれます。

 UVA照射直後の色素斑のことをimmediate pigment darkening(IPD)、IPDのあとに起こる色素斑をpersistent pigment darkening(PPD)と呼び、UVA照射数日後の色素斑であるdelayed tannning(DT)と区別されています。

 IPDとPPDが、既存のメラニンの酸化によるものであるのに対し、

 DTは、真のメラニン新生による、という違いがあります。


The threshold doses for IPD, PPD, and DT were found to be approximately 1, 11, and 18 J/cm2

(Kohli, Indermeet, et al. “The dynamics of pigment reactions of human skin to ultraviolet A radiation.” Photodermatology, photoimmunology & photomedicine 35.6 (2019): 387-392.)

 IPD/PPD/DTの閾値については上記の報告があり、人種間に違いはないとされています。

 今回、1の選択肢はIPDについての出題であり20J/cm2UVA照射ならIPD(閾値は約1J/cm2は起こると考えられ正答となります。

 UVBの直後の反応としては紅斑が考えられますが、出題のJST-ⅡはフィッツパトリックtypeⅢに相当しますので、紅斑は出現しないと考えられ3の選択肢は誤りとなります。

 また、UVA/UVB照射直後の紅斑については、閾値は議論がわかれています。

 可視光線照射直後の紅斑は、クロモフォアによる発熱により生じ、色素斑はUVAによるIPDと同様の機序で起こると考えられています。(Sklar, Lindsay R., et al. “Effects of ultraviolet radiation, visible light, and infrared radiation on erythema and pigmentation: a review.” Photochemical & Photobiological Sciences 12.1 (2013): 54-64.)

 5の選択肢については、日光蕁麻疹のことを指し、可視光線後に膨疹を生じることは健常人ではおこらないので誤りとなります。

光線テスト翌日の反応

 翌日の反応は、みなさんご存じのMED(MPD)ですね!

 UVBについては日本人(JST)についての報告で以下のMEDとされています。

Kawada, Akira, et al. “The relationship of sun protection factor to minimal erythema dose, Japanese skin type, and skin color.” The Journal of Dermatology 20.8 (1993): 514-516.

 日本人のUVB-MEDは40mJ/cm2

 海外の報告では、UVAについてもMPDではなくMED-UVA、として記載されています。以下のような報告があります。

(Welti, Michèle, et al. “Evaluation of the minimal erythema dose for UVB and UVA in context of skin phototype and nature of photodermatosis.” Photodermatology, Photoimmunology & Photomedicine 36.3 (2020): 200-207.)

 フィッツパトリックの皮膚タイプによって健常人では

MED-UVBは58-110mJ/cm2

MED-UVAは27-33J/cm2

 というようになっており、MED-UVAは皮膚タイプによって有意差はないと報告されています。

 こちらの文献に従うと、UVA20J/cm2やUVB20mJ/cm2照射翌日の紅斑は光線過敏を示唆しますので2や4は誤りとなります。

 ちなみに日本語の文献では、

一般的な日本人のMEDは60~140mJ/cm2 であり,40mJ/cm2 以下では光線過敏症と診断される.

健常者では12J/cm2のUVA 照射にても全く反応は生じない.

日皮会誌:127(13),2785-2789,2017 新・皮膚科セミナリウム 病院における光線過敏症患者への対応 正木太朗

 との記載がありますが、MED-UVAについては記載されておらず、「あたらしい皮膚科学」の10-15J/cm2という記載は引用文献を見つけることはできませんでした。(文献をご存じの方がいればコメントいただけますと幸いです。)

参考文献

 いかがでしたか?率直な感想は、「そんなん知らんやん!」でした。

 今後も出題された場合には、知っているか知らないかで差がつく問題になると思います。

  • Sklar, Lindsay R., et al. “Effects of ultraviolet radiation, visible light, and infrared radiation on erythema and pigmentation: a review.” Photochemical & Photobiological Sciences 12.1 (2013): 54-64.
  • Kohli, Indermeet, et al. “The dynamics of pigment reactions of human skin to ultraviolet A radiation.” Photodermatology, photoimmunology & photomedicine 35.6 (2019): 387-392.
  • Welti, Michèle, et al. “Evaluation of the minimal erythema dose for UVB and UVA in context of skin phototype and nature of photodermatosis.” Photodermatology, Photoimmunology & Photomedicine 36.3 (2020): 200-207
  • 日皮会誌:127(13),2785-2789,2017 新・皮膚科セミナリウム 病院における光線過敏症患者への対応 正木太朗

最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。

←前問題 2019年度 第9問 毛包・脂腺の発生

2019年度 第11問 紫外線の性質 次問題→

他の問題についてもこちらでまとめています。

コメント

  1. […] 2019年度 第10問 […]

  2. プニお より:

    すごくざっくりと考えるならば…
    UVAはサンタンが主だから色素斑、UVBはサンバーンが主だから紅斑という印象だけを頼りに1と4の二択まで絞り、あとは自分の勤務施設でナローバンドUVBやエキシマをやっていれば、患者さんに普段照射している量から考えて2桁の20mJ/㎠で紅斑が出る人はいないだろうということで4を除外し、(MED-UVAを知らなくても)消去法で1に辿り着けるのではないかなと思いました。
    ちょっと乱暴な解き方かもですが、僕はそう考えました。

    • hihunaika hihunaika より:

      コメントいただきありがとうございます!このような議論大歓迎です!
      とても実戦的な解き方だと思います。おっしゃるように4は除外できると思います。
      ただ、2の除外が難しいです。UVAの光線過敏判定のMRDは紅斑などをみて判定する、とあたらしい皮膚科学に記載があります。
      あたらしい皮膚科学ですと健常人のMRDは10-15J/cm2と記載されており、その通りだと2も正解になってしまい2の選択肢の除外が結構難しいのではないかと思います。

タイトルとURLをコピーしました