2019年度皮膚科専門医試験 第32問 Hutchinson徴候【眼科コンサルトは同日必須?】

皮膚科専門医試験

問題32.( )に入る適切な語句はどれか. 「三叉神経第一枝に罹患する帯状疱疹では眼合併症を生じることがあり注意が必要だが,特に( )に症状がある時には角結膜炎などを含めた眼合併症を高率に伴う」

1. コメカミ
2. 上眼瞼
3. 頬部
4. 鼻背部
5. 耳介部

 帯状疱疹の問題ですが皮膚科専門医試験としては易しい問題のように思います。

 顔面の帯状疱疹は日常診療でよく目にしますし「鼻背部に症状があれば眼科にコンサルトするんだよ~」と専攻医の初めの頃に教わるように思います。

 専門医試験ではどうかというと、

 2015年度以降、出題数は増加傾向で「三叉神経第一枝V1の帯状疱疹」・「帯状疱疹ワクチン」についての出題がメインです。(2020年度はアメナメビルとTrigeminal trophic syndromeという新傾向の出題でしたが。。)

年度2020201920182017201620152014
出題数2211010

 「三叉神経第一枝V1の帯状疱疹」は過去には2015年度第22問、2018年度記述第2問で出題されています。

 難易度は高くありませんが、それだけ重要というメッセージですね。

 本問は回答だけなら簡単ですが、今後難易度が上がって出題される可能性もあります。

 この記事では、Huchinson徴候と眼部帯状疱疹について掘り下げて解説しています。

第32問 Hutchinson徴候と眼部帯状疱疹【解答:4】

第32問 Hutchinson徴候と眼部帯状疱疹【解答:4】


 帯状疱疹の部位別の頻度については、次のような報告があります。

部位頻度
1胸部55%
2脳神経
(ほとんど三叉神経領域
20%
3腰部13%
4頸部11%
5仙骨部2%
Meister, Wolfgang, et al. “Demography, symptomatology, and course of disease in ambulatory zoster patients.” Intervirology 41.6 (1998): 272-277.Werner, R. N., et al.
“European consensus‐based (S2k) Guideline on the Management of Herpes Zoster–guided by the European Dermatology Forum (EDF) in cooperation with the European Academy of Dermatology and Venereology (EADV), Part 1: Diagnosis.” Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology 31.1 (2017): 9-19.

 三叉神経領域の帯状疱疹は9-16%Clinical infectious diseases 44.Supplement_1 (2007): S1-S26.)、眼部帯状疱疹は15%Journal of the American Academy of Dermatology 70.5 (2014): 795-e1.)という報告もあります。

Shaikh, Saad, and Chrisopher Ta. “Evaluation and management of herpes zoster ophthalmicus.” American family physician 66.9 (2002): 1723. Figure 1より

 帯状疱疹におけるHutchinson徴候は「鼻背部の病変の存在」を指し、眼部帯状疱疹のリスクが2倍になるとされています。ただし眼部帯状疱疹の1/3にはHutchinson徴候がない(British journal of ophthalmology 71.5 (1987): 353-358.)ことにも注意が必要です。

 鼻背部は三叉神経第一枝である眼神経(V1)の枝である鼻毛様体神経(Nasociliary n.)に支配されています。鼻毛様体神経は眼球にもつながっているため、鼻背部に病変がある場合には眼部の病変のリスクが上がるというわけです。

 「Hutchinson徴候を見たら眼科コンサルト」というのも納得です。

眼部帯状疱疹の眼科コンサルトのタイミング【欧米では同週の眼科診察が推奨】

Journal of the American Academy of Dermatology 70.5 (2014): 795-e1.

 眼科コンサルトをするのはいいけれど「コンサルトのタイミング」に困ったことはありませんか?

 同日だと時間外の対応をお願いする場合も多く診療に負担をかけてしまわないか心配なところもありますし、近くに眼科医がいない場合もありますよね。

 日本とは医療アクセスの違いがあり目安でしかないですが、

 JAADの総説(上図)によると、

 眼部帯状疱疹の症状がある場合には緊急の眼科診察、「来院と同じ週」の眼科診察が推奨されています。

 眼部帯状疱疹の予後と治療の観点から推奨の妥当性について考えてみます。

眼部帯状疱疹の予後【免疫不全患者(特にAIDS)の網膜病変は失明のリスク高】

 眼部帯状疱疹の予後で気になるのはやはり失明の頻度です。網膜病変には注意が必要なようです。

 総説(American family physician 66.9 (2002): 1723.)によると、

 網膜病変は「急性網膜壊死」・「進行性網膜外層壊死」の2種類があり、前者の「急性網膜壊死」は比較的予後良好であるものの、免疫不全患者(ほとんどAIDS患者)に生じる「進行性網膜外層壊死」ではほとんどが失明に至る、と記載されています。ただし「網膜病変は帯状疱疹の時期とは無関係」とあり、帯状疱疹での受診時にリスク評価をすることは難しそうです。

 そのほかの病変についてははっきりとした予後の記載は見当たりません。

 眼部帯状疱疹の自然予後を報告した論文(British journal of ophthalmology 71.5 (1987): 353-358.)によると抗ウイルス薬を使用しない場合、眼部帯状疱疹の50%に眼球病変が生じると記載はありますが、合併症については帯状疱疹後神経痛の話が中心で失明などの予後記載まではありません。

 先の総説(American family physician 66.9 (2002): 1723.)では「眼瞼炎・結膜炎・角膜炎は帯状疱疹に合併する頻度が高く角膜炎は失明につながることがある」とされていますが頻度の記載はありません。

 眼科診察がないことには重症度の評価は難しそうですが、免疫不全患者(特にAIDS)で明らかな視力低下があれば急ぐ根拠にはなるかもしれません。

眼部帯状疱疹の治療【抗ウイルス薬の全身投与が中心】

 治療が変わるのであれば、眼科診察を急ぐ理由にもなると思います。

 「進行性網膜外層壊死にはガンシクロビルの硝子体注射が有効かも」という報告(Archives of ophthalmology 130.6 (2012): 700-706.)はありますが、全身抗ウイルス薬の併用がなくlimitationがあるようです。ガンシクロビルの硝子体注射は2021年9月現在保険適応がなく確立された治療というわけでもなさそうです。

 同報告では、視力低下を生じてから進行性網膜外層壊死の診断までの期間は中央値3週間(1-12週)と報告されています。これだけ間隔があいていても有効かも、というのは「同日受診」でなくてもよいという意見の助けになるかもしれません。

  眼部帯状疱疹の治療としては、眼軟膏などの外用薬が使用されるものの、通常の帯状疱疹と同様、抗ウイルス薬の全身投与が基本と記載されています。(American family physician 66.9 (2002): 1723.)

 そのほか角膜炎ではデブリードマンなども考慮されます。(American family physician 66.9 (2002): 1723.)

 基本的には通常の帯状疱疹の治療と変わりありませんが、症状に応じて治療の選択肢は広がるようです。

 超緊急の眼科コンサルトによって予後改善につながる治療が可能になる、という根拠には乏しそうです。かといって「しなくてもよい」という根拠にもならないので難しいところです。

参考文献

参考文献

 いかがでしたか?

 今回は頻出問題の眼部帯状疱疹について考察しました。

 眼部帯状疱疹では基本的に超緊急ということは少なそうですが、皮膚科医がリスク評価をすることはかなり難しそうです。

 眼科コンサルトのタイミングとして欧米では「受診と同じ週」という推奨があり目安にはなるものの明確な根拠はなく、医療アクセスと症状から総合的に判断するしかないように思います。

  • Meister, Wolfgang, et al. “Demography, symptomatology, and course of disease in ambulatory zoster patients.” Intervirology 41.6 (1998): 272-277.
  • Werner, R. N., et al. “European consensus‐based (S2k) Guideline on the Management of Herpes Zoster–guided by the European Dermatology Forum (EDF) in cooperation with the European Academy of Dermatology and Venereology (EADV), Part 1: Diagnosis.” Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology 31.1 (2017): 9-19.
  • Dworkin, Robert H., et al. “Recommendations for the management of herpes zoster.” Clinical infectious diseases 44.Supplement_1 (2007): S1-S26.
  • Horner, Mary E., et al. “The spectrum of oculocutaneous disease: part I. Infectious, inflammatory, and genetic causes of oculocutaneous disease.” Journal of the American Academy of Dermatology 70.5 (2014): 795-e1.
  • Shaikh, Saad, and Chrisopher Ta. “Evaluation and management of herpes zoster ophthalmicus.” American family physician 66.9 (2002): 1723.
  • Gore, Daniel M., Sri K. Gore, and Linda Visser. “Progressive outer retinal necrosis: outcomes in the intravitreal era.” Archives of ophthalmology 130.6 (2012): 700-706.
  • Harding, S. P., J. R. Lipton, and J. C. Wells. “Natural history of herpes zoster ophthalmicus: predictors of postherpetic neuralgia and ocular involvement.” British journal of ophthalmology 71.5 (1987): 353-358.

最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。

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他の問題についてもこちらでまとめています。

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