問題34.Epstein-Barr ウイルスが関与する皮膚・粘膜疾患はどれか.3 つ選べ.
1. 蚊刺過敏症
2. 種痘様水疱症
3. ブラジル天疱瘡
4. 口腔毛状白板症
5. Gibert バラ色粃糠疹
問題文をみたとき、みなさんこう思いませんでした?
「口腔毛状白板症・・・なにそれ?」
僕はそう思いました。しかも、しっかり正答選択肢なんですよね。
「そんなんしらんやん。」
というわけで、Epstein-Barrウイルス(EBV)が関与する疾患の出題です。
2014年から2020年までの7年間でEBV関連の出題は3問でした。
年度 | 問題番号 | 内容 |
2019 | 34 | EBVが関与する皮膚・粘膜疾患 |
2018 | 78 | 慢性活動性EBV感染症 |
2016 | 20 | 伝染性単核球症 |
とても多いというわけではないですが、知っておいて損はありませんし、出題頻度が上がってきている気がします。
ヘルペスウイルスの中でもEBウイルスって奥が深くてつかみにくいですよね。
でもそんなときには専門医試験の正解基準、日本皮膚科学会雑誌のセミナリウムに立ち返りましょう。
この記事では、「種痘様水疱症や蚊刺過敏症を含む慢性活動性EBウイルス感染症」と「口腔毛状白板症」を中心にEBウイルス関連の皮膚疾患について解説しています。
第34問 EBウイルス関連の皮膚疾患【解答:1,2,4】
日本皮膚科学会雑誌のセミナリウム3本、日本小児感染症学会の慢性活動性EBウイルス感染症ガイドライン(2016)、血液腫瘍のWHO分類(2017)からEBウイルス関連の皮膚疾患についてまとめました。
急性感染症 | 伝染性単核症 Gianotti症候群 |
先天性疾患 | X連鎖リンパ増殖症候群 (EBウイルスに対する先天性免疫不全症) |
血液疾患 (T細胞・NK細胞) | EBV陽性T細胞・NK細胞リンパ増殖性疾患 ・EBV陽性血球貪食性リンパ組織球症 ・全身性慢性活動性EBV感染症(全身性CAEBV) ・皮膚CAEBV ・種痘様水疱症(hydroa vacciniforme-like lymphoproliferative disorder) ・蚊刺過敏症(severe mosquito bite allergy) ・全身性EBV陽性T細胞リンパ腫 ・アグレッシブNK細胞白血病 ・節外性NK/T細胞リンパ腫(鼻型) ・節性末梢性T細胞リンパ腫(EBV陽性) |
上皮性腫瘍 | 口腔毛状白板症(oral hairy leukoplakia) |
山本剛伸; 山田晶子; 岩月啓氏. EB ウイルスとリンパ増殖症. 日本皮膚科学会雑誌, 2008, 118.14: 3059-3068.
本田まりこ. “ヘルペスウイルス感染症.” 日本皮膚科学会雑誌 117.5 (2007): 767-776.
慢性活動性EBウイルス感染症とその類縁疾患の診療ガイドライン 日本小児感染症学会(2016)
WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues WHO Classification of Tumours, Revised 4th Edition 2017 Table 14.01 Classification of EBV positive T-cell and NK-cell proliferations
岩月先生(第10代岡山大学皮膚科教授)によるセミナリウムが目立ちます。
1つ選ぶとすれば、2008年の「EBウイルスとリンパ増殖症」がおすすめです。
では、慢性活動性EBウイルス感染症・口腔毛状白板症について説明していきます。
慢性活動EBウイルス感染症【T細胞・NK細胞への感染が重要】
先ほど見たように、2018年の第78問は本疾患に関する出題でした。
問題78.慢性活動性EB ウイルス感染症について正しいのはどれか.2 つ選べ.
1. 好発年齢は30~50 歳である.
2. 血球貪食症候群を合併しうる.
3. 多くの症例では自然寛解が期待できる.
4. B 細胞リンパ腫の発症が予後を規定する重要な因子である.
5. 発熱・肝脾腫・リンパ節腫脹など,伝染性単核球症様の症状が慢性または反復性に持続する.
通常はB細胞に感染するEBウイルスがCAEBVではT細胞やNK細胞に感染している、ということがとっても大切なようです。
慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)は、2015年に診断基準が改訂され以下4項目を満たす必要があります。
<CAEBVの診断基準(2015)>
- 伝染性単核症様症状が3か月以上持続(連続的または断続的)
- 末梢血(末梢血単核球分画のPCR>316コピー/μL DNAが目安) or
病変組織(in situ hybridization法でのEBER検出)のEBウイルスゲノム量の増加 - T細胞 or NK細胞のEBウイルス感染
- 既知の疾患と異なる
※VCA-IgG・VCA-IgM・EA-IgGはしばしば陽性だが、抗体価は高値でなくても診断可能
2015年の改訂での変更点は大きく2点あり、
- 「抗体価の基準」が必須条件ではなくなったこと
- 「T細胞またはNK細胞のEBウイルス感染」が要件に加わったこと
です。
2016年の診療ガイドラインで触れられているCAEBVの類縁疾患としては次の3疾患があり、それぞれ主なEBウイルス感染細胞が異なります。
CAEBVと類縁疾患 | 主なEBウイルス感染細胞 |
慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV) | NK細胞(50%) T細胞(50%、CD4陽性が多い) |
EBウイルス関連血球貪食性リンパ組織球症(EBV-HLH) | CD8陽性T細胞 |
種痘様水疱症 | T細胞 (γδT細胞にも感染) |
蚊刺過敏症 | CD56陽性NK細胞 |
特に、蚊刺過敏症におけるEBウイルスの感染細胞がNK細胞であることはセミナリウムでも触れられており、大切かも知れません。
診療ガイドラインより重要な項目についてまとめておきます。
- CAEBVの発症は東アジアの小児・若年成人に偏在(日本では100例/年程度)
- 造血幹細胞移植を受けない場合のCAEBVの予後は、5年生存率50%
- CAEBVとして対応し化学療法を検討する状況
- 「全身症状をともなう種痘様水疱症(全身型種痘様水疱症)」
- 「蚊に刺されたとき以外にも全身症状がある蚊刺過敏症」
- 予後不良因子
疾患 | 予後不良因子 |
CAEBV | 肝障害 発症年齢8歳以上 |
種痘様水疱症 | 全身型種痘様水疱症 発症年齢9歳以上 皮膚でのEBV活性化 |
蚊刺過敏症 | 不明 |
口腔毛状白板症【上皮の過形成はありますが、悪性ではありません】
実は、あたらしい皮膚科学(第2版 P430)の「白板症」の項目のMEMOに小さく記載されていますが、「そんなんしらんやん」という感じですよね。
それもそのはず。
「口腔毛状白板症oral hairy leukoplakia」は、HIV感染症などの免疫不全を背景として舌外側縁に発症するEBウイルス関連の過形成でHIV感染症の予後不良因子として指摘されていましたが、HAARTの普及により重要性が乏しくなっているようです。(Clinical infectious diseases 25.6 (1997): 1392-1396.)
そして「白板症のところに記載されているので悪性なのかな」と思いきや
悪性ではありません。
「そんなんしらんやん」です。
上記の総説によると、次のような特徴が記載されています。
- EBウイルス(唾液由来)が上皮細胞に感染して発症
- HIV感染症などの免疫不全患者で発症
- 通常、舌の側縁に発症し無症状
- 病理組織では「過角化を伴う上皮の過形成」・「バルーン細胞」・「ランゲルハンス細胞の減少/消失」
- 悪性転化の報告はなし
- HAARTによるHIV感染症の治療などで改善(自然治癒もありうる)
詳細が出題される可能性は低いと思いますので、これくらいを押さえておけばよいのではないかと思います。
参考文献
いかがでしたか?
ちなみに、本問の5の選択肢であるジベルバラ色粃糠疹は、EBウイルスとの関連を指摘する報告(European Journal of Dermatology 13.1 (2003): 25-8.)もありますが、上記のセミナリウムでは無視されています。本問の回答を考慮しても、
皮膚科専門医試験的には「EBウイルス」と「ジベルバラ色粃糠疹」は関連なし
という理解でよさそうです。
また、選択肢3の「ブラジル天疱瘡」は2015年にJDで総説が発表(The Journal of dermatology 42.1 (2015): 18-26.)されています。「吸血昆虫の唾液に感作されることでepitope spreadingが起こりブラジル天疱瘡を発症する可能性がある」という考察があり、興味があるかたは読んでみてもいいかもしれません。
「ブラジル天疱瘡」は、虫刺症関連という意味では「蚊刺過敏症」と被る部分があるのですがハイレベルすぎて誰も引っかからないように思いました(笑)
- 岩月啓氏. “Epstein-Barr ウイルスと皮膚.” 日本皮膚科学会雑誌 109.14 (1999): 2189.
- 山本剛伸; 山田晶子; 岩月啓氏. EB ウイルスとリンパ増殖症. 日本皮膚科学会雑誌, 2008, 118.14: 3059-3068.
- 本田まりこ. “ヘルペスウイルス感染症.” 日本皮膚科学会雑誌 117.5 (2007): 767-776.
- 慢性活動性EBウイルス感染症とその類縁疾患の診療ガイドライン 日本小児感染症学会(2016)
- WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues Revised 4th Edition (2017)
- Antonio, A. T. “The association of pityriasis rosea with cytomegalovirus, Epstein-Barr virus and parvovirus B19 infections-a prospective case control study by polymerase chain reaction and serology.” European Journal of Dermatology 13.1 (2003): 25-8.
- Aoki, Valeria, et al. “Update on fogo selvagem, an endemic form of pemphigus foliaceus.” The Journal of dermatology 42.1 (2015): 18-26.
- Kreuter, Alexander, and Ulrike Wieland. “Oral hairy leukoplakia: a clinical indicator of immunosuppression.” CMAJ 183.8 (2011): 932-932.
- Triantos, Dimitris, et al. “Oral hairy leukoplakia: clinicopathologic features, pathogenesis, diagnosis, and clinical significance.” Clinical infectious diseases 25.6 (1997): 1392-1396.
最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。
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