2019年度皮膚科専門医試験 第47問 疥癬【イベルメクチンとフェノトリンの作用機序・用法用量が頻出】

皮膚科専門医試験

問題47.疥癬治療に用いる内服薬イベルメクチンについて正しいのはどれか.3 つ選べ.

1. 母乳中には移行しない.
2. 空腹時投与が原則である.
3. 妊婦には投与すべきではない.
4. 肝機能障害があっても減量の必要はない.
5. 腎機能障害があっても減量の必要はない.

 疥癬は2013年度以降9年間で8題されている超頻出問題です。

年度番号内容
202179疥癬の治療薬(フェノトリン)
202034フェノトリンとイベルメクチン
201947疥癬のイベルメクチン
201832疥癬でのイベルメクチンの投与量
201736小児の治療で推奨されているもの
201625疥癬の治療の第一選択薬2種
201533疥癬関連の小児疾患infantile acropustulosis
201331疥癬のイベルメクチン

 なかでも、治療薬のイベルメクチンとフェノトリンに関する問題が集中的に出題されています。

 本問はやや疑問の残る出題ではありますが、日本皮膚科学会から出されている疥癬診療ガイドライン・添付文書の内容は押さえておきたいところです。

 日本皮膚科学会のウェブサイトで2022年3月現在公開されている「疥癬診療ガイドライン第3版(2015年)」は、実は最新版ではありません

 改訂には至らないものの2018年に「第3版追補」が作成されており、大きく内容が変わるわけではありませんが一度目を通しておいてもよいかもしれません。

 この記事では疥癬診療ガイドライン・添付文書を中心に皮膚科専門医試験における疥癬について解説しています。

第47問 疥癬でのイベルメクチン【解答:2,3,(4?),5】

第40問 壊死性筋膜炎・ガス壊疽の原因菌【解答:1,5】


【選択肢の吟味】

1:誤り
ガイドライン上、授乳婦にはイベルメクチンよりフェノトリンが推奨されています。
ストロメクトール®(イベルメクチン)の添付文書には「本剤投与中は授乳を中止させること。〔ヒト母乳中に移行することが報告されている。〕」と記載されています。
一方、スミスリン®(フェノトリン)についても、安全性が確立されているわけではないため「授乳婦に投与する場合は授乳を少なくとも1週間中止させる」とガイドラインには記載されています。(添付文書には「授乳婦への使用は避けることが望ましいが、やむを得ず使用する場合は授乳を避けさせること。」と記載。)

2:正しい
添付文書・ガイドラインともに記載があります。添付文書では「本剤は水のみで服用すること。本剤は脂溶性物質であり、高脂肪食により血中薬物濃度が上昇するおそれがある。したがって、本剤は空腹時に投与することが望ましい。」と記載されていますね。

3:正しい
ガイドライン上、妊婦にはフェノトリンが推奨されています。(添付文書では「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用すること。」と記載)イベルメクチンは添付文書上の禁忌には当たらないものの「動物実験で催奇形性が認められている。」とされガイドラインでも妊婦に「イベルメクチンは用いない」と記載されています。

4:正しそうですが、、、今回は誤り
疑問の残る選択肢です。少なくとも、ガイドライン・添付文書では肝障害でイベルメクチンを減量する必要があるという記載はありません。UpToDateでも減量は不要と記載されています。ガイドライン上、肝障害では減量が不要という記載がなくイベルメクチンは肝代謝ということもあり今回の出題では誤りの選択肢として選ぶしかないようです。

5:正しい
ガイドライン上「腎障害を有するか,あるいは透析中であっても減量の必要はない」と記載されています。

 本問はちょっとおかしな出題のように感じました。2-5の4つが正しい記載のように感じますが、当日はそんなことは言ってられません。肝代謝というところをカギに消去法で選ぶしかないですね。

 過去の出題に目を向けると、作用機序・用法用量が重点的に出題されています。

 今回は授乳婦・妊婦に関する出題でしたので、小児でのガイドライン上の推奨は要チェックです。(小児は2017年度にも出題されています。)

石井則久, et al. “疥癬診療ガイドライン (追補).” 日本皮膚科学会雑誌 128.13 (2018): 2791-2801.より引用

小児での推奨

15kg以上ならば小児でも「フェノトリン・イベルメクチン」
生後2ヵ月以上で15kg未満なら「フェノトリン・イオウ剤・クロタミトン」
生後2ヵ月未満なら「フェノトリン

 添付文書上フェノトリンの小児での安全性は確立されていませんが、欧米で同作用機序(ピレスロイド系)のペルメトリンが生後2カ月以上の小児、妊婦、授乳婦で使用可能となっていることを受けてガイドラインではフェノトリンが推奨されています。

 イベルメクチンとフェノトリンの違いについてもガイドラインでまとめられており特に作用機序は要チェックです。(フェノトリンはNaチャネル・イベルメクチンはClチャネル

石井則久, et al. “疥癬診療ガイドライン.” 日本皮膚科学会雑誌 125.11 (2015): 2023-2048.より引用

参考文献

参考文献

 いかがでしたか?

 2017年度には小児での推奨でイオウ剤・クロタミトン・フェノトリンを解答する出題がありました。イベルメクチン・フェノトリン以外の出題もあるのでこれらの推奨は要チェックです。

  • 石井則久, et al. “疥癬診療ガイドライン.” 日本皮膚科学会雑誌 125.11 (2015): 2023-2048.
  • 石井則久, et al. “疥癬診療ガイドライン (追補).” 日本皮膚科学会雑誌 128.13 (2018): 2791-2801.
  • ストロメクトール®添付文書2021年10月 改訂 (第15版)
  • スミスリン®添付文書2019年7月 改訂 (第2版)
  • UpToDate: Ivermectin (systemic): Drug information(2022/3/16アクセス)

最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。

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他の問題についてもこちらでまとめています。

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