問題20.60歳の男性.両親はいとこ婚.幼少期から図4aに示す皮疹を露光部を中心に認める.病理検査では図4bに示す所見が得られた.この疾患は,ある病原体に対する先天性免疫不全により発症する.その病原体はどれか.
1. Beta human papillomavirus
2. Candida albicans
3. Cytomegalovirus
4. Epstein-Barr virus
5. Malassezia globosa
HPVに関する出題は、ほぼ毎年出題されています。
出題パターンは、大きく分けて次の2パターンです。
①尖圭コンジローマに関する出題(2018年第36問、2017年第25問)
②臨床病型とHPVの種類を答える出題(2020年第28問、本問、2016年記述第5問、2015年第20問)
この記事では、疣贅状表皮発育異常症・HPVの分類と臨床病型について考察しています。
第20問 疣贅状表皮発育異常症とHPV【解答:1】
疣贅状表皮発育異常症(epidermodysplasia verruciformis:EV)は、疫学のデータも見当たらないくらい珍しい疾患で、日常診療で出会うことはほとんどないと思います。
が、試験で出るのでしかたがありません。勉強しましょう。以下2つの文献がおすすめです。
Przybyszewska, et al. “Re-evaluation of epidermodysplasia verruciformis: reconciling more than 90 years of debate.” Journal of the American Academy of Dermatology 76.6 (2017): 1161-1175.
De Oliveira, W. R. P., et al. “Clinical aspects of epidermodysplasia verruciformis.” Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology 17.4 (2003): 394-398.
次の6ポイントが要点だと思いました。
- EVER1(TMC6)・EVER2(TMC8)遺伝子変異で発症(全体の75%)
- 患者の10%は近親婚
- 健常人には病原性のないβパピローマウイルスによる病変を生じる
- 皮疹の種類は2種類
- 扁平疣贅(様病変):HPV3/10(αパピローマウイルス)によって頭頸部に生じる
- 癜風様・脂漏性角化症様の赤褐色丘疹:HPV5/8など(βパピローマウイルス)によって露光部に生じ30-70%は悪性転化する
- 効果的な治療法はないが、悪性転化予防のためにサンスクリーンの使用が推奨
- HIV感染症などの細胞性免疫不全による後天性EVが提唱されている
βパピローマウイルスだけに弱いのかと思ったら、αパピローマウイルスにも浮気しちゃうようです。
悪性転化の可能性が高い、というのはなかなかあなどれません。
そういう意味では、珍しくても早期診断・慎重なフォローが必要ですね。
専門医試験での出題も納得です。(しかたなく勉強とかいってごめん!)
HPVの分類と臨床病型【HPVの型と5つのgenus】
HPV感染症は、型ごとに臨床病型が異なり専門医試験にも出題されています。
そもそも、HPVの分類はどのようなものでしょうか。
HPVは、ウイルスDNAのうちカプシド蛋白のL1をコードするORFの塩基配列によって分類されています。
相同性が60%未満のもの同士を「属genus」、と呼び、「α・β・γ・μ(ミュー)・ν(ニュー)」の5種類に分かれます。これが、「αパピローマウイルス」・「βパピローマウイルス」などと呼ばれているものです。
上図を見てもわかるように、HPVのほとんどはα・β・γに属し、μ・νは数少ないです。
属の中の分類として、カプシド蛋白L1の塩基配列の相同性が
60-70%のものを「種species」
70-90%のものを「型types」
といいます。HPV3,10などと表記されているものは「型」になります。
「種species」に関する出題は近年見当たりませんが、本問では「属genus」に関する出題がありました。
また、「型types」に関する出題は多数みられます。
「属genus」と「型types」を組み合わせた出題があってもおかしくないので、組み合わせをまとめました。(国際HPVリファレンスセンターhttps://www.hpvcenter.se/human_reference_clones/では2021年5月現在228までの型についてまとめられています。)
属(species) | 型(types) | 臨床病型 |
α | 2,3,6,7,10,11,16,18,27,31,33,57など | 尋常性疣贅(2,27,57) 足底類表皮嚢腫(57) 扁平疣贅(3,10) 尖圭コンジローマ(6,11) 子宮頸癌(16,18,31,33) ボーエン様丘疹症(16,55) 爪部ボーエン病(16) |
β | 5,8,9,12,14,15,17,19,20など | 疣贅状表皮発育異常症の 癜風様・脂漏性角化症様病変 |
γ | 4,60,65など | 色素性疣贅(4,60,65) 足底類表皮嚢腫(60) |
μ | 1,63,204のみ | ミルメシア(1) |
ν | 41のみ | 扁平疣贅、SCC |
参考文献
いかがでしたか?
疣贅状表皮発育異常症は見慣れない疾患ですが、他のHPV感染症とあわせておさえておきたいところです。
- Przybyszewska, et al. “Re-evaluation of epidermodysplasia verruciformis: reconciling more than 90 years of debate.” Journal of the American Academy of Dermatology 76.6 (2017): 1161-1175.
- De Oliveira, W. R. P., et al. “Clinical aspects of epidermodysplasia verruciformis.” Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology 17.4 (2003): 394-398.
- Bzhalava, Davit, Carina Eklund, and Joakim Dillner. “International standardization and classification of human papillomavirus types.” Virology 476 (2015): 341-344.
- 尋常性疣贅診療ガイドライン 2019(第 1 版)
- Riddel, Catherine, Rashid Rashid, and Val Thomas. “Ungual and periungual human papillomavirus–associated squamous cell carcinoma: A review.” Journal of the American Academy of Dermatology 64.6 (2011): 1147-1153.
- 国際HPVリファレンスセンターウェブサイトhttps://www.hpvcenter.se/human_reference_clones/
- Cubie, Heather A. “Diseases associated with human papillomavirus infection.” Virology 445.1-2 (2013): 21-34.
最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。
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