問題50.HIV について正しいのはどれか.2 つ選べ.
1. 新規感染者は近年世界的に増加傾向にある.
2. CD4 陽性細胞数と梅毒の罹患頻度には相関はない.
3. HIV にはHIV-1 とHIV-2 の2 種類があり,ともにRNA ウイルスである.
4. HIV 抗体検査が偽陰性となりうる空白期間は感染から3 週間以内である.
5. 無症候期ではCD4 陽性細胞におけるHIV の複製・増殖はほとんどみられない.
皮膚科専門医試験では2014年度から2021年度まで10題の出題がありHIV感染症は頻出事項です。
出題内容にも重複が見られ、過去問対策が非常に有効と考えられます。
年度 | 番号 | 内容 |
2021 | 44 | HIV、ウィンドウ期、治療開始時期、母乳中止の必要 |
2020 | 36 | HIVに合併する皮膚疾患(セミナリウム2011/2017) |
2019 | 50 | HIVの疫学、ウィンドウ期、病態、CD4と梅毒 |
2019 | 記述6 | 免疫再構築症候群 |
2018 | 23 | AIDS診断の指標疾患 |
2018 | 34 | HIVでのCD4数、ウィンドウ期、無症候の期間 プロテアーゼ阻害薬の副作用、薬疹の出やすさ |
2018 | 35 | カポジ肉腫(下肢に多い) |
2017 | 13 | HIV-1の受容体(CCR5、CXCR4) |
2016 | 29 | 保健所でのHIV検査 |
2015 | 27 | ランゲルハンス細胞とHIV、ケモカイン受容体 ウィンドウ期、CD4と梅毒、根治可能性 |
専門医試験対策としておすすめの日皮会誌のセミナリウムは、次の通りです。
- 斎藤万寿吉. “1. 梅毒と HIV/AIDS.” 日本皮膚科学会雑誌 127.7 (2017): 1523-1531.
- 斎藤万寿吉. “2. HIV/AIDS.” 日本皮膚科学会雑誌 121.7 (2011): 1395-1400.
臨床的な意義はよくわかりませんが『CD4陽性細胞数』と『梅毒の罹患頻度』に相関がない点については2015年にも出題されており、専門医試験用に覚えておくとよいでしょう。(どちらのセミナリウムにも記載されています。)
この記事では、頻繁に出題されているウィンドウ期、2016年に出題されている保健所等でのHIV即日検査について皮膚科専門医試験対策として解説しています。
第50問 HIVのウィンドウ期と即日検査【解答:2,3】
ウィンドウ期に関する出題は2014年度以降「2015年・2018年・2019年・2021年」と4回の出題があり2016年には保健所等におけるHIV即日検査に関する出題があります。
残念ながらこれらの詳細はセミナリウムでは記載されていませんが今後も出題が予想されます。
【選択肢の吟味】
- 世界は減少傾向、日本は横ばい → 誤り
- 上記の通りセミナリウム記載されている → 正解
- HIVはRNAウイルス → 正解
- HIV抗体検査のウィンドウ期は4-8週間(専門医試験的には6-8週間) → 誤り
- 無症候期は、HIV増殖と免疫反応による拮抗でRNA量に変化がないだけ → 誤り
今回は2019年に発行された保健所等におけるHIV即日検査のガイドライン(第4版)を参考に解説していきます。
HIVのウィンドウ期【第4世代スクリーニング検査では13-42日】
HIVのウィンドウ期ってややこしいですよね。
測定項目(核酸・抗原・抗体)と検査方法が複雑なためでしょう。
上記の図では「NAT(核酸)・抗原抗体検査・抗体検査・WB」の4種類に分けてWindow期が示されていますがスクリーニングで抗体のみを測定することはなく抗体検査とWBを分けるのはやや実践的ではないように思われます。
国立感染症研究所の「後天性免疫不全症候群(エイズ)/HIV 感染症病原体検出マニュアル」では次の4つに分けており、この分類がわかりやすいです。
分類 | 位置づけ | 検査方法 | ウィンドウ期 |
迅速診断用 抗原抗体検査(用手) | 即日検査 | IC法 | 3-4週間 |
スクリーニング検査用 抗原抗体検査(自動測定) | 通常検査 追加検査 | PA法・ELISA法 CLIA法・ECLIA法 CLEIA法・ELFA法 | 3-4週間 |
確認検査用 抗体検査 | 確認検査 | WB法・IC法 | 4-8週間 |
NAT核酸増幅検査 (HIV-1のみ) | 確認検査 | リアルタイムPCR法 TMA法 | 2-3週間 |
保健所等におけるHIV即日検査のガイドライン(第4版)を参考
抗原、抗体、核酸に分けて考えてみます。(即日検査や通常検査などは後述)
HIV-1 p24抗原【HIV-2は検出しない】
抗原単独の検査は基本的にありません。
抗原抗体同時検査キットが通常用いられスクリーニングで使用されます。
2022年現在のキットは「第4世代」のもので、
HIV の感染初期には検査で陰性となり、感染していることが検査では分らない時期がある。これを 「ウインドウ期(ピリオド)」と言う。CDC では 第 4 世代のスクリーニング検査試薬のウインドウ期は多くの場合、感染暴露後から約13〜42日間としている。
松下修三, and 村上正巳. “診療における HIV-1/2 感染症の診断 ガイドライン 2020 版 (日本エイズ学会・日本臨床検査医学会 標準推奨法).” 日本エイズ学会誌= The journal of AIDS research 23.1 (2021): 39-43.
と報告されています。(13-42日は抗原抗体同時検査のウィンドウ期)
抗原はHIV-1 p24抗原というもので上記図では感染後3-4週間で検出されます。
HIV-1感染時にのみ検出される抗原でありHIV-2に感染している場合p24抗原は検出されません。
ちなみに日本におけるHIV感染症の99.9%以上がHIV-1です。(後天性免疫不全症候群(エイズ) /HIV 感染症病原体検出マニュアル(2019 年 11 月改訂))
抗体【専門医試験的には抗体検出のウィンドウ期は6-8週間】
抗体検査は「抗原抗体同時検査キット」・「確認検査」の場面で使用されます。
検査方法は出題もありませんし、ひとまず気にせずでよさそうです。(確認検査のWB法くらいは覚えておいてもよいかもしれませんが。)
「抗原抗体同時検査キット」の場合は、HIV-1とHIV-2の共通の抗体を検出しますが、「確認検査」ではそれぞれの抗体を検出します。
スクリーニング時には抗原抗体同時の検査なので抗体のみを測定することはないですが感染後4-8週間で検出されるとされています。
よって「4.HIV 抗体検査が偽陰性となりうる空白期間は感染から3 週間以内である.」は誤りとなります。
過去問では、次のような表現で正解選択肢として出題されています。
感染後抗体ができるまで6週程度かかる
2021年度 皮膚科専門医試験
HIV感染後抗体ができるまで6~8週間かかる
2018年度 皮膚科専門医試験
この過去問からは、皮膚科専門医試験的には
抗体出現までのウィンドウ期=6~8週間
と考えてよさそうです。
核酸【保険適応はHIV-1の核酸のみ】
核酸はスクリーニング検査で検出するものではないため、ウィンドウ期はそこまで重要ではないかもしれません。
上図ではウィンドウ期は感染後2-3週間と考えられます。
保健所等におけるHIV即日検査【迅速検査で陽性の場合は要確認検査と伝えられる】
HIVの即日検査は2016年に突如出題された問題で、保健所等での無料・匿名のHIV検査に関する項目です。
保健所等におけるHIV即日検査のガイドライン(第4版)を参考にまとめています。
同ガイドラインによると、HIVの新規報告数の約45%が保健所等からの報告となっており非常に重要な役割があるようです。(HIVの報告数は「世界では減少傾向」、「日本では横ばい傾向」とされています。)
即日検査【陰性なら陰性と伝える】
ガイドラインによると無料・匿名のHIV検査を行う保健所等の施設のうち約7割で即日検査が実施されています。
即日検査で行われる可能性がある検査は次の3種類ありますが、採血は通常1回のみです。
種類 | 内容 | 日程 | 陽性の場合 | 陰性の場合 |
迅速検査 (スクリーニング) | IC法による 抗原抗体同時検査 | 当日 | 要確認検査と報告 1-2週間後に再訪 | 陰性報告で終了 |
追加検査 (スクリーニング) | IC法以外の 抗原抗体同時検査 | 当日 または 1-2週間後 | 確認検査へ進む | 陰性報告で終了 |
確認検査 | WB法・NAT検査 | 1-2週間後 | 陽性報告と受診案内 | 陰性報告で終了 |
即日検査といっても、迅速検査で陽性となった場合にはそのうちの半分が偽陽性の可能性があるため陽性とは報告せず「要確認検査」と報告されます。(陰性の場合には「陰性」と報告)
そして「確認検査」ののちに1-2週間後に結果報告がなされます。
「追加検査」については必ず行われるものではありません。「迅速検査」はIC法による抗原抗体同時検査であり目視での結果確認となります。「追加検査」は、より精度の高いIC法以外による抗原抗体同時検査(自動測定)をおこなうことで「確認検査」を待たずに「陰性」結果を報告することを可能にするものです。(陽性の場合は「確認検査」をおこないます。)
通常検査【当日の結果報告はない】
即日検査とは異なり「当日には結果は報告されず後日結果報告される」場合の検査を指します。
スクリーニング検査で陽性だった場合には確認検査を踏まえた結果を1-2週間後に報告されることになります。
参考文献
無症候期にも増殖しており、診断後すぐにARTを開始することが推奨
5番目の選択肢の無症候期について、「HIV感染症『治療の手引き」』では次のように解説されています。
無症候期:急性期症状の消失後もウイルスは増殖を続けるが、宿主の免疫応答により症状のない平衡状態が長期間続くことが多い。この無症候期でもHIVは著しい速度(毎日100億個前後のウイルスが産生される)で増殖しており、骨髄からリクルートされてくるCD4陽性リンパ球は次々とHIVに感染して、平均2.2日で死滅するとされている。
HIV感染症「治療の手引き」第25版
また、以前は、無症候期にはARTによる治療に議論がありCD4陽性細胞数に応じて治療介入が行われていました。
しかし現在では、CD4陽性細胞数に関わらず早期のART導入が長期予後を改善することが報告されており、
CD4陽性リンパ球数に拘らず、すべてのHIV感染者にARTの開始を推奨する。
HIV感染症「治療の手引き」第25版
とされています。
母乳栄養は原則中止【ARTを行っていても3%は垂直感染する】
2021年度には母子感染を防ぐために「母乳は中止する」ことが正答選択肢として出題されています。
ARTでHIV RNA量を検出限界以下に抑えていれば避妊具なしで性交渉をしても感染しないと報告され、U=U(Undetectable=Untransmittable)と呼ばれています。
しかし、母乳栄養については母親がARTを行っていても12か月で3%弱の垂直感染がおこると報告されています。(Journal of the International AIDS Society 20.1 (2017): 21251.)
このことから資源のある地域では母親にHIV感染がある場合の母乳栄養は行わないことが推奨されています。性交渉とは異なることの理由としては「より持続的な暴露であるため」などが要因として推測されています。(UpToDate:Prevention of HIV transmission during breastfeeding in resource-limited settings)
ただし資源が乏しい地域では母乳栄養の中止により死亡率の増加が報告されたため、子供に抗ウイルス薬を投与したうえで母乳栄養を行うことが推奨されています。(UpToDate:Prevention of HIV transmission during breastfeeding in resource-limited settings)
- 斎藤万寿吉. “1. 梅毒と HIV/AIDS.” 日本皮膚科学会雑誌 127.7 (2017): 1523-1531.
- 斎藤万寿吉. “2. HIV/AIDS.” 日本皮膚科学会雑誌 121.7 (2011): 1395-1400.
- 保健所等におけるHIV即日検査のガイドライン(第4版)
- 松下修三, and 村上正巳. “診療における HIV-1/2 感染症の診断 ガイドライン 2020 版 (日本エイズ学会・日本臨床検査医学会 標準推奨法).” 日本エイズ学会誌= The journal of AIDS research 23.1 (2021): 39-43.
- 後天性免疫不全症候群(エイズ) /HIV 感染症病原体検出マニュアル(2019 年 11 月改訂)国立感染症研究所
- HIV感染症「治療の手引き」第25版 日本エイズ学会 HIV感染症治療委員会
- Bispo, Stephanie, et al. “Postnatal HIV transmission in breastfed infants of HIV‐infected women on ART: a systematic review and meta‐analysis.” Journal of the International AIDS Society 20.1 (2017): 21251.
- UpToDate:Prevention of HIV transmission during breastfeeding in resource-limited settings(2022/6/19アクセス)
最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。
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