問題49.先天梅毒で,出現しない症状はどれか.
1. 難聴
2. 角膜炎
3. 初期硬結
4. 仮性麻痺
5. Hutchinson歯
先天梅毒は梅毒のなかでは頻出問題とはいえません。
梅毒血清学的検査が超頻出です。前問で自動化法時代の新解釈について解説しています。
2014年度以降先天梅毒の出題は本問のみですが、日常診療ではあまりお目にかからない分、先天梅毒の早期・後期の症状についてまとめてみました。
珍しいとはいっても、2019年には国内で23例の先天梅毒の報告(国立感染症研究所ウェブサイトより)があり最低限の知識は身に着けたいところです。
日皮会誌のセミナリウムでは先天梅毒の解説はほとんどありませんでしたので、この記事では英語総説をもとに先天梅毒の症状について解説しています。
第49問 先天梅毒【解答:3】
先天梅毒の症状のポイントは、ずばり次の3点です。
- 第1期梅毒(初期硬結・硬性下疳)の症状がない
- 出生時には症状がないことが多い
- Hutchinson3徴候(Hutchinson歯牙・角膜実質炎・内耳性難聴)=「晩期」先天梅毒の症状
そもそも先天梅毒が「早期先天梅毒」と「晩期先天性梅毒」に分けられることは国家試験でもぎりぎりやったような気もしますが「あたらしい皮膚科学」「性感染症診断治療ガイドライン」ともに記載は限定的です。
あたらしい皮膚科学に至っては、早期先天梅毒と晩期先天梅毒の区別が曖昧で、早期を発症したのちに晩期を発症するとも読み取れる記載となっています。
胎盤を通じて母親から胎児に梅毒トレポネーマが感染する。子宮内での感染が妊娠早期の場合には、死産あるいは流産となりやすい。したがって先天梅毒は通常、胎盤が完成する妊娠4か月以降の感染で生じる。全身性、血行性に感染するため第2期症状から始まる。先天梅毒を発症した場合、多くは生後6か月以内に第2期症状が現れ(早期先天梅毒)、その後、学童期以降に第3期症状が出現する(晩期先天梅毒)。早期先天梅毒では特徴的な老人様顔貌、口囲の放射状瘢痕(Parort凹溝)、梅毒性鼻炎、骨軟骨炎の疼痛による仮性麻痺(pseudoparalysis of Parrot)がみられる。晩期先天梅毒ではHutchinson3徴候(Hutchinson’s triad:歯牙のビア樽状変形(Hutchinson歯牙)、角膜実質炎、内耳性難聴)が顕著となる。
あたらしい皮膚科学第3版 P559
正しくは、先天梅毒の発症が
2歳以前→早期先天梅毒
2歳以降→晩期先天梅毒
と定義されており、定義上、晩期先天梅毒では2歳以前に症状の出現はありません。(Seminars in perinatology. Vol. 42. No. 3. WB Saunders, 2018.)
性感染症診断・治療ガイドライン2016ではもう少し正確に記載されています。(2020年版ではなぜか先天梅毒の記載がほとんど見当たりません。)
先天梅毒
梅毒に罹患している母体から出生した児で、生下時に肝脾腫、紫斑、黄疸、脈絡網膜炎、低出生体重児などの胎内感染を示す臨床症状、検査所見のある症例、または梅毒疹、骨軟骨炎など早期先天梅毒の症例、乳幼児期には症状を示さずに経過し、学童期以後にHutchinson3徴候(実質性角膜炎、内耳性難聴、Hutchinson歯)などの晩期先天梅毒の症状を呈する症例をさす。現在ではほとんどみることはない。確定診断は、母体のカルジオリピンを抗原とする検査の抗体価に比して児の抗体価が4倍以上高い場合、児のFTA-ABS・lgM 抗体が陽性の場合、児のカルジオリピンを抗原とする検査の抗体価が移行抗体の消失する6か月を越えてもなお持続する場合、などでなされる。
性感染症診断・治療ガイドライン2016
ちなみに、診断に用いられるFTA-ABSでのIgM抗体については2014年に試薬の保険適応が除外されています。(梅毒の検査の新しい解釈については前問で解説しています。)
早期先天梅毒・晩期先天梅毒の細かい症状について上記の英語総説をもとにみていきます。
早期先天梅毒【40-60%で皮膚粘膜症状が目立つ】
2歳以前に発症する先天梅毒を早期先天梅毒と呼びますが、通常は生後数か月で発症することが多いようです。
肝脾腫や血小板減少がみられるようですが、皮膚粘膜症状も多いとされています。
写真のような掌蹠の落屑や水疱性病変(梅毒性天疱瘡pemphigus syphiliticus)、口囲や肛門周囲に扁平コンジローマが現れることもあります。(第1期梅毒の症状は記載なし。)
そのほか鼻炎や仮性麻痺(骨病変の疼痛・脱臼によって動きが乏しい)も早期先天梅毒の特徴です。
晩期先天梅毒とは異なり、水疱や鼻汁には多量のスピロヘータが存在し感染性が強いとされます。
晩期先天梅毒【Hutchinson3徴が特徴、感染性はない】
生後2歳以降に発症するのが晩期先天梅毒です。
Hutchinson3徴候(Hutchinson’s triad:歯牙のビア樽状変形(Hutchinson歯牙)、角膜実質炎、内耳性難聴)を押さえておけば十分です。
難聴はotic capsule(迷路骨包)の破壊によるものとされており、骨破壊の症状と考えることができれば、歯牙の変形とも関連付けやすいのではないかと思います。
また、晩期先天梅毒では感染性がないのも特徴の一つです。
参考文献
いかがでしょうか。
今回は触れませんでしたが先天梅毒の診断・治療は条件分岐が多くかなりややこしいです。よければ次のチャートを参考にしてください。
2021年に承認されたベンジルペニシリン筋注製剤は2歳未満の早期先天梅毒も用法用量の記載があり(体重1kgあたり5万単位を単回、筋注)出題には要注意だと思います。
- Cooper, Joshua M., and Pablo J. Sánchez. “Congenital syphilis.” Seminars in perinatology. Vol. 42. No. 3. WB Saunders, 2018.
- あたらしい皮膚科学 第3版
- 日本性感染症学会 性感染症診断・治療ガイドライン2016
- ステルイズ水性懸濁筋注60万単位シリンジ/ステルイズ水性懸濁筋注240万単位シリンジ添付文書(2021年9月第1版)
最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。
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梅毒に特徴的な炎症細胞【頻出の血清学的検査の新解釈も解説】
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