問題38.酵母型と菌糸型の両方をとる二相性真菌による疾患はどれか.
1. Chromomycosis
2. Cryptococcosis
3. Phaeohyphomycosis
4. Sporotrichosis
5. Tinea pedis
答えは「スポロトリコーシス」ですが、二相性真菌の定義次第ではクリプトコックスも正答になりえる問題です。
クリプトコックスも「酵母型」と「菌糸型」の両方をとるとされているからです。
違いは、ヒトの組織で「酵母型」・「菌糸型」の両方をとるかどうかです。(スポロトリコーシスではヒト組織で両方の型をとるが、クリプトコックスでは酵母型のみ。)
日皮会雑誌のセミナリウムでは二相性真菌をメインに扱う総説がなかった(2021年11月現在)ので、今回は2015-2017年に発表された「二相性真菌」に関する英語総説3本を中心にまとめています。
第38問 二相性真菌の定義【解答:4】
二相性真菌の定義は論文によってバラバラで明確に決まっているわけではないようです。
英語総説3本をみてみると「広義」・「狭義」の2種類がありそうです。
<二相性真菌の定義>
広義:in vivo/in vitro問わず、細胞の形態として「酵母型」「菌糸型」の両方があるもの
狭義:ヒトなどに感染した状態の細胞形態として「酵母型」「菌糸型」の両方があるもの
本問では「狭義」の二相性真菌について問われていると考えられます。
二相性真菌の定義についても文献によりバラバラな状況なので明確な菌種の一覧は見つけられませんでした。2015年の総説では、次の表のように二相性真菌がまとめられています。
この文献では「酵母型」←→「菌糸型」の変化を来す条件別での分類も記載されており、メインは「温度」によるものとなっています。
この文献以外の2文献も含めてまとめたものが次の表です。
狭義の二相性真菌 | 属・種 | 条件 |
Histoplasma Species | 温度 | |
Blastomyces Species | 温度 | |
Talaromyces marneffei | 温度 | |
Paracoccidioides Species | 温度 | |
Sporothrix schenckii | 温度 | |
Candida albicans | 温度・CO2・血清・pH | |
Malassezia furfur (※癜風の病原体として報告) | L-DOPA | |
広義の二相性真菌 | ||
Mucor Species | O2・CO2 | |
Coccidioides Species (※厳密には酵母型ではなく胞子) | 温度 | |
Cryptococcus Species | mating (交配時) |
Li, Zhongming, and Kirsten Nielsen. “Morphology changes in human fungal pathogens upon interaction with the host.” Journal of Fungi 3.4 (2017): 66.
Sil, Anita, and Alex Andrianopoulos. “Thermally dimorphic human fungal pathogens—polyphyletic pathogens with a convergent pathogenicity trait.” Cold Spring Harbor perspectives in medicine 5.8 (2015): a019794.
「ヒストプラズマ・ブラストミセス・パラコクシジオイデス・コクシジオイデス」はアメリカ大陸をメインとする風土病で日常診療では聞き馴染みがないかもしません。
この4種に「スポロトリコーシス・カンジダ」を加えた6種を「温度」に反応する主な二相性真菌(Thermally Dimorphic)とする考え方もあります。(Wikipedia “Dimorphic fungus”)
ただ、コクシジオイデスは「二相性真菌」として知られてきましたが、感染時には「酵母型」ではなく「胞子」を形成するため、狭義の二相性真菌に含めないという意見があり、今回は「広義」の二相性真菌としました。
冒頭で述べたように、今回、選択肢のひとつであるクリプトコックスも、in vitroでのみ「菌糸型」と「酵母型」の二相性を示し「広義」の二相性真菌として記載されています。
そのほかの注意点として、「温度」で変化する二相性真菌は基本的に高温環境(37℃など)になると「酵母型」となります(下図)が、カンジダは例外的に「高温で菌糸型」となり、そのほかのThermally Dimorphic Fungiとは異なります。
二相性真菌は、上記のようにたくさんあります。
また、2013年の命名法の変更が適応される前の菌名での記載(M. furfurなど)もあり、ややこしいです。
基本的には本問同様「狭義」の二相性真菌について問われる可能性が高そうですが、「広義」の二相性真菌があることも意識して区別して覚えておくと試験で役に立つかもしれませんね。
参考文献
いかがでしたか?
日本語文献も乏しいマニアックな分野でした。
二相性真菌の細かい内容は皮膚真菌症診療ガイドライン2019にも記載されていませんが、今後類題が出題されても回答できるようにしたいところです。
- Sil, Anita, and Alex Andrianopoulos. “Thermally dimorphic human fungal pathogens—polyphyletic pathogens with a convergent pathogenicity trait.” Cold Spring Harbor perspectives in medicine 5.8 (2015): a019794.
- Gauthier, Gregory M. “Dimorphism in fungal pathogens of mammals, plants, and insects.” PLoS Pathogens 11.2 (2015): e1004608.
- Li, Zhongming, and Kirsten Nielsen. “Morphology changes in human fungal pathogens upon interaction with the host.” Journal of Fungi 3.4 (2017): 66.
- https://en.wikipedia.org/wiki/Dimorphic_fungus
最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。
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