問題27.毛孔性紅色粃糠疹について誤っているのはどれか.
1. HIV と関連することがある.
2. 活性型ビタミンD3 外用薬は保険適用薬である.
3. 抗IL-12/23 p40 抗体製剤の有効例が報告されている.
4. 古典的成人発症型(Griffiths I 型)は自然治癒率が低い.
5. 思春期前後の小児発症型(Griffiths IV 型)は肘・膝に角化性丘疹がみられる.
前問の固定性扁豆状角化症につづき、新傾向の問題です。
2014年度から2020年度までで毛孔性紅色粃糠疹(PRP:Pityriasis rubra pilaris)の出題は本問1問のみです。
しかし、2020年には自己炎症性疾患と関連した出題があり注意が必要です。(2020年度第18問)
後述するPRPの一部(Griffiths Ⅴ型)は自己炎症性角化症といって、CARD14遺伝子の機能獲得変異で発症する自己炎症性疾患です。(自己炎症性疾患のなかの自己炎症性角化症についてはこちら)
2020年度の出題はCARD14遺伝子を選ぶ問題であり、今後は「自己炎症性角化症としてのPRP」という観点での出題もあり得るように思います。
この記事では、PRPの「Griffiths分類」と「治療」、「保険適用」を解説しています。
第27問 毛孔性紅色粃糠疹【解答:4】
毛孔性紅色粃糠疹(PRP)といえば、「正過角化(orthokeratosis)と錯過角化(parakeratosis)を垂直方向・水平方向に交互に繰り返すチェッカーボードパターン」が病理所見で有名ですが、本問ではその知識だけでは正答できません。
また、PRPを解説した日本皮膚科学会雑誌の皮膚科セミナリウムは2009年が最後であり生物学的製剤の記載もわずかで今回の出題への対応は不十分でした。
今回は今後の出題に備えて「Griffiths分類」と「治療」、「保険適用」についてまとめています。
毛孔性紅色粃糠疹のGriffiths分類【現在はHIV関連を含む6型に分類】
型 | 発症年齢 | 特徴 | 頻度 | 予後 |
Ⅰ型 (成人典型) | 成人 | 紅色-オレンジ色の丘疹が融合. 島状の健常部位を残す. 頭頸部から始まり 尾側方向に広がる. 角栓を伴い,毛包周囲の丘疹を認め, びまん性の掌蹠角化がある. | 55% | 3年以内に80% が自然寛解 もっとも予後が良い |
Ⅱ型 (成人非典型) | 成人 | 魚鱗癬様の落屑,湿疹性病変 や脱毛もみられる. 薄い層状の落屑を伴う掌蹠角化. | 5% | 慢性経過 |
Ⅲ型 (小児典型) | 5-10歳 | Ⅰ型に類似する. | 10% | しばしば1年で寛解 |
Ⅳ型 (小児限局型) | 3-10歳 | 境界明瞭な毛孔過角化と 紅斑が膝や肘に限局する. 思春期前の子ども. | 25% | 不明 |
Ⅴ型 (小児非典型) | 1歳未満 | 毛孔過角化・魚鱗癬様の皮疹. 家族性PRP. CARD14遺伝子変異. | 5% | 慢性経過 |
Ⅵ型 (HIV関連型) | 様々 | Ⅰ型に類似する. 顕著な角栓と毛包の棘状突起. 集簇性ざ瘡,化膿性汗腺炎, 棘状苔癬と関連. | 不明 | 様々 |
PRPのGriffiths分類は、もともとⅠ型からⅤ型までの5型でしたが、1995年のMirallesがHIV関連のPRPをⅥ型と報告し現在の6型の分類がされています。
また、Ⅴ型については先に述べたようにCARD14遺伝子の機能獲得変異による常染色体優性遺伝性疾患であると報告されています。(Fuchs-Telem, Dana, et al. “Familial pityriasis rubra pilaris is caused by mutations in CARD14.” The American Journal of Human Genetics 91.1 (2012): 163-170.)
以下にポイントをまとめてみました。
- Ⅰ型とⅢ型は予後良好で臨床所見も類似
- Ⅰ・Ⅱ型は成人
- Ⅲ・Ⅳ型は小児
- Ⅳ型は限局型
- Ⅴ型は家族性・CARD14遺伝子変異・常染色体優性遺伝
- Ⅵ型はHIV関連
毛孔性紅色粃糠疹の治療【尋常性乾癬とほぼ同じです】
Review(Roenneberg, S., and T. Biedermann. “Pityriasis rubra pilaris: algorithms for diagnosis and treatment.” Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology 32.6 (2018): 889-898.)によると、
ほぼ「尋常性乾癬」の治療と変わりませんが体系だったガイドラインはありません。
外用薬では、「保湿剤・ステロイド外用薬・活性型ビタミンD3外用薬」のほか、外用レチノイドやサリチル酸、カルシニューリン阻害薬(タクロリムスなど)の報告があります。
紫外線治療については治療報告もありますが、一部のPRPでは光線治療で増悪したという報告もあります。
生物学的製剤以外の内服治療では、「レチノイド・メトトレキサート」による治療が優先されますが、シクロスポリンやアプレミラスト(オテズラ®)による治療報告もあります。
生物学的製剤については、TNF-α阻害薬・IL-12/IL-23p40阻害薬・IL-17A阻害薬による治療報告があり、
TNF-α阻害薬 | インフリキシマブ・アダリムマブ・エタネルセプト |
IL-12/IL-23p40阻害薬 | ウステキヌマブ |
IL-17A阻害薬 | セクキヌマブ |
が記載されています。
しかし、保険適用になると話は全く変わってきます。
毛孔性紅色粃糠疹の治療薬の保険適用【保険適用はエトレチナート(チガソン®)とタカルシトール(ボンアルファ®)のみ】
2021年7月時点では、添付文書上、効能効果に毛孔性紅色粃糠疹の記載がある薬剤は、
レチノイド内服薬の「エトレチナート(チガソン®)」
活性型ビタミンD3外用薬の「タカルシトール(ボンアルファ®)」
のみとなっています。
レチノイド内服薬と活性型ビタミンD3含有外用薬の添付文書上の効能効果やそのほかの注意点についてまとめてみました。
薬剤 | 効能効果 |
チガソン® (エトレチナート) 後発なし | 乾癬群(尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症、関節症性乾癬) 魚鱗癬群(尋常性魚鱗癬、水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症、 非水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症) 掌蹠角化症、ダリエー病、掌蹠膿疱症、毛孔性紅色粃糠疹 紅斑性角化症、口腔白板症、口腔乳頭腫、口腔扁平苔癬 |
チョコラA® | ビタミンA欠乏症の治療:夜盲症、結膜乾燥症、角膜乾燥症、角膜軟化症 ビタミンAの欠乏または代謝障害が関与すると推定される角化性皮膚疾患 |
タルグレチン® (ベキサロテン) | 皮膚T細胞性リンパ腫 |
ベサノイド® (トレチノイン) | 急性前骨髄球性白血病 |
アムノレイク® (タミバロテン) | 再発又は難治性の急性前骨髄球性白血病 |
チガソン®の守備範囲の広さは半端ないですね。チョコラA®も角化性皮膚疾患に適応がある場合がある点は覚えておくとよいかもしれません。
レチノイド内服薬の注意点については長くなるので別の記事で解説予定です。
薬剤 | 効能効果 | 用法用量 | 使用制限 |
ドボベット® (カルシポトリオール+ ベタメタゾンジプロピオン酸エステル =リンデロンDP®) | 尋常性乾癬 | 1日1回 | 1週間に90gまで |
ドボネックス® (カルシポトリオール) 後発なし | 尋常性乾癬 | 1日2回 | 1週間に90gまで |
マーデュオックス® (マキサカルシトール+ ベタメタゾン酪酸エステル プロピオン酸エステル =アンテベート®) | 尋常性乾癬 | 1日1回 | 1日に10gまで |
オキサロール® (マキサカルシトール) | 尋常性乾癬 魚鱗癬群 掌蹠角化症 掌蹠膿疱症 | 1日2回 | 1日に10gまで |
ボンアルファ®2μg/g (タカルシトール) | 乾癬 魚鱗癬 掌蹠膿疱症 掌蹠角化症 毛孔性紅色粃糠疹 | 1日2回 | 記載なし |
ボンアルファ®ハイ20μg/g (タカルシトール) 後発なし | 尋常性乾癬 | 1日1回 | 1日に10gまで |
すべてを暗記するのは難しいですが、今後出題があってもおかしくはないと思います。
実際2015年度の第16問には「ドボベット®の使用上限」を回答する出題がありました。
添付文書上の使用上限をまとめておきます。
- カルシポトリオール含有製剤(ドボベット®・ドボネックス®)は1週間90gまで
- マキサカルシトール・高濃度タカルシトール含有製剤(マーデュオックス®・オキサロール®・ボンアルファ®ハイ)は1日10gまで
- 低濃度タカルシトール製剤(ボンアルファ®)は制限なし
ボンアルファ®以外の活性型ビタミンD3含有外用薬については使用上限があり、
「血清カルシウムや尿中カルシウム及び腎機能(クレアチニン、BUN等)の検査を定期的(使用開始2~4週後に1回、その後は医師の判断により必要に応じて適宜)」におこなうこと
と採血が添付文書には記載されています。
以上から4が誤りの選択肢となります。
参考文献
いかがでしたか?
新傾向の出題ですが、自己炎症性疾患がらみの出題も予想され対応したいところです。添付文書問題はひとつひとつ確認して覚えるしかなさそうです。
- Cohen, Philip R., and Janet H. Prystowsky. “Pityriasis rubra pilaris: a review of diagnosis and treatment.” Journal of the American Academy of Dermatology 20.5 (1989): 801-807.
- Fuchs-Telem, Dana, et al. “Familial pityriasis rubra pilaris is caused by mutations in CARD14.” The American Journal of Human Genetics 91.1 (2012): 163-170.
- Roenneberg, S., and T. Biedermann. “Pityriasis rubra pilaris: algorithms for diagnosis and treatment.” Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology 32.6 (2018): 889-898.
最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。
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コメント
細かい指摘で大変恐縮ですが、最後のまとめの「カルシポトリオール含有製剤(ドボベット®・オキサロール®)は1週間90gまで」→「カルシポトリオール含有製剤(ドボベット®・ドボネックス®)は1週間90gまで」ということでしょうか。
それによって「マキサカルシトール・高濃度タカルシトール含有製剤(マーデュオックス®・ボンアルファ®ハイ)は1日10gまで」→「マキサカルシトール・高濃度タカルシトール含有製剤(マーデュオックス®・オキサロール®・ボンアルファ®ハイ)は1日10gまで」ということになりますかね。
プニお様、ご指摘ありがとうございます!非常に助かります。修正いたしました。