問題23.常染色体半優性遺伝であり両方のアレルの変異により症状が増強する疾患はどれか.
1. 葉状魚鱗癬
2. 尋常性魚鱗癬
3. 道化師様魚鱗癬
4. 表皮融解性魚鱗癬
5. 先天性魚鱗癬様紅皮症
本問は、魚鱗癬ichthyosisの遺伝形式に関する出題です。
遺伝性魚鱗癬は、2009年の国際カンファレンスで分類がまとめられました。
2011年の皮膚科セミナリウム「魚鱗癬と魚鱗癬症候群」(日皮会誌:121(4),667-673,2011)では、その分類をもとに解説されていて、オススメです。
日常診療でお目にかかるのは尋常性魚鱗癬くらいなので、知識の整理が難しい分野ですが、魚鱗癬はめちゃくちゃ出題されています!
遺伝性魚鱗癬の分類では、まず「非症候性(皮膚症状メイン)」と「症候性(多臓器の異常も合併)」に分かれています。
2013年から2020年までの過去問をみると、
「非症候性」では、「尋常性魚鱗癬(2問)・道化師様魚鱗癬(2問)・表皮融解性魚鱗癬(3問)」の出題が
「症候性」では、「ネザートン症候群(4問)・Sjögren-Larsson症候群(1問)・Dorfman-Chanarin症候群(1問)」の出題があり
ほぼ毎年出題があり、数ある魚鱗癬の中からこれらの疾患が重点的に出題されていることがわかります。
この記事では、「非症候性」の遺伝性魚鱗癬に関する専門医試験の対策についてまとめています。
第23問 尋常性魚鱗癬の遺伝形式【解答:2】
疾患 | 出題 |
尋常性魚鱗癬 | 2019年度第23問・2016年度第10問 |
道化師様魚鱗癬 | 2019年度第24問・2016年度第12問 |
表皮融解性魚鱗癬 | 2017年度第17問・2014年度第9問 2013年度第12問 |
非症候性の遺伝性魚鱗癬に関する出題は表のとおりです。
多数の疾患があるにもかかわらず、近年(2013~2020年度)では
尋常性魚鱗癬・道化師様魚鱗癬・表皮融解性魚鱗癬
に出題が限られています。
勉強時間が限られるなかでは、非症候性遺伝性魚鱗癬については、この3つの疾患に絞って勉強することがよさそうです。次の表の項目は暗記必須です。
疾患 | 遺伝形式 | 病因遺伝子 | 病理所見 |
尋常性魚鱗癬 | 常染色体半優性 | FLG | 顆粒層の菲薄化 |
道化師様魚鱗癬 | 常染色体劣性 | ABCA12 | 角化細胞内の脂肪滴の蓄積 (電子顕微鏡) |
表皮融解性魚鱗癬 表在性表皮融解性魚鱗癬 | 常染色体優性 | KRT1・KRT10 KRT2 | 顆粒変性 |
皮膚科セミナリウム 第 47 回 角化症 2.尋常性魚鱗癬 乃村俊史 日皮会誌:119(3),309―314,2009より
そのうえで、余裕がある場合には遺伝性魚鱗癬(非症候性)の分類について勉強すると「なぜ表のような遺伝形式になるのか」の理解やニッチな問題が出た場合でも対応も可能になると思います。
遺伝性魚鱗癬(非症候性)の分類【主な分類は3つ】
表のように、非症候性の遺伝性魚鱗癬は多数の病型がありますが専門医試験対策で覚えるべき病型は限られています。
2009年の国際分類によれば、
- 遅発性魚鱗癬(英語ではCommon ichthyosis)
- 常染色体劣性先天性魚鱗癬(ARCI)
- ケラチン症性魚鱗癬
の3つに大きく分類されており、それ以外のものを「その他」としています。
遅発性魚鱗癬【尋常性魚鱗癬・X連鎖性劣性魚鱗癬】
出生時には症状がほとんどない魚鱗癬で、尋常性魚鱗癬・X連鎖性劣性魚鱗癬が分類されています。
魚鱗癬の中では、
尋常性魚鱗癬:頻度第1位(有病率0.1-0.4%)
X連鎖性劣性魚鱗癬:頻度第2位(有病率2000-6000人に1人)
と頻度が高いため英語版ではCommon ichthyosisと分類されています。
とくに、尋常性魚鱗癬については、先ほど述べたとおり頻出事項なので知識を深めておいて損はありません。
「皮膚科セミナリウム 第 47 回 角化症 2.尋常性魚鱗癬 乃村俊史 日皮会誌:119(3),309―314,2009」が文献としてはおすすめです。
尋常性魚鱗癬はフィラグリン遺伝子変異によって発症するとされ、常染色体「半」優性遺伝です。作られるフィラグリンの量に応じて重症度が決まるためこのような遺伝形式になります。
常染色体優性遺伝の一般的原則について解説します.ヘテロ個体Aaとホモ個体AAで表現型に差がないとき(重症度に差がないとき)完全優性 completely dominant であると言います.これは非常にまれです.そうでない場合を不完全優性 incompletely dominant あるいは半優性semidominant と言います.
https://www.tenshi.or.jp/an-info/blogupload/EG-4.pdf
Web上ではあまり公式な定義を見つけられませんでしたが、
常染色体半優性:変異したアリルが1本の場合と2本の場合でどちらも発症するが重症度が異なるもの
ということになります。(たいていの常染色体優性遺伝だとそうなるような気がしますが、尋常性魚鱗癬は、国際的にも日本でも常染色体「半優性」遺伝なのでとにかくそう覚えるしかないようです。)
フィラグリンの異常があるため、ケラトヒアリン顆粒(プロフィラグリン含有)のある顆粒層が菲薄化する、と考えると理解しやすいと思います。
病因遺伝子FLGから作られるフィラグリンの正常な皮膚での役割については以下でまとめています。
2019年度皮膚科専門医試験 第4問 天然保湿因子(NMF)【フィラグリンの分解産物です】
2019年度皮膚科専門医試験 第15問 周辺帯の構造
常染色体劣性先天性魚鱗癬(ARCI)
ARCIは、その名の通り「常染色体劣性」遺伝の遺伝性魚鱗癬(非症候性)です。
主要な病型は3種類。
- 道化師様魚鱗癬
- 葉状魚鱗癬
- 先天性魚鱗癬様紅皮症
の3種類です。
ほかにもマイナーな病型がありますが、専門医試験の対策には不要だと思います。出題されても正答率はかなり低いでしょう。
3つの疾患には常染色体劣性遺伝であることに加えて「コロジオン膜」に覆われて出生するという特徴もあります。
主要な病型の中では「道化師様魚鱗癬」が特に重要です。病因遺伝子のABCA12は2005年に日本からの報告で明らかになったからです。(日本の皮膚科のすごいとこ知っとけよ!ってことのようです。上記の魚鱗癬に関する総説の著者である秋山先生が筆頭著者になっています。)
ABCA12遺伝子から作られる蛋白は上層の表皮細胞の層板顆粒(セラミドを含有)の脂質輸送に関わっています。電子顕微鏡で細胞内に脂肪滴が蓄積した所見があるのも納得です。
層板顆粒からセラミドなどが分泌される過程についてはこちらでまとめています。
2019年度皮膚科専門医試験 第15問 周辺帯の構造
早期の全身レチノイド治療によって生存率が上昇するという報告がされています。(”Inherited ichthyosis: non‐syndromic forms.” The Journal of dermatology 43.3 (2016): 242-251.)
「葉状魚鱗癬」・「先天性魚鱗癬様紅皮症」は、様々な病因遺伝子をもつ「ゴミ箱」診断的な疾患概念です。そのため出題されにくい傾向にあるようです。
ケラチン症性魚鱗癬
ケラチンを作る遺伝子の変異によって発症する魚鱗癬です。
- 表皮融解性魚鱗癬:KRT1/KRT10変異
- 表在性表皮融解性魚鱗癬:KRT2変異
- 疣贅状表皮母斑:KRT1/KRT10のモザイク
の3病型が大切で、遺伝子変異と「顆粒変性」の病理所見が頻出です。
ケラチンの異常をきたす遺伝性疾患のことを「ケラチン異常症」と呼び、以下でまとめています。
2019年度皮膚科専門医試験 第14問 掌蹠に発現するケラチン
2019年度皮膚科専門医試験 第16問 ケラチン異常症での変異部位
遺伝形式についてはケラチン異常症は基本的に「常染色体優性遺伝」です。
これは、「dominant negative」といって、変異ケラチンがあることで正常なケラチンの効果が阻害されることによって生じるとされています。(http://medical.radionikkei.jp/maruho_hifuka_pdf/maruho_hifuka-121220.pdf)
そのため、「ケラチン症性魚鱗癬=ケラチン異常症=常染色体優性遺伝」と記憶するのがよさそうです。(例外はありますが出題される可能性は低いと思います。)
疣贅状表皮母斑は、一見魚鱗癬と関係ないように思われますが2013年度第60問で出題されたように、KRT1/KRT10のモザイクによるものが含まれ、疣贅状表皮母斑を有する患者の子孫に表皮融解性魚鱗癬が生じる可能性があるとされています。
参考文献
いかがでしたか?
今回は、遺伝性魚鱗癬(非症候性)について3つのカテゴリーに分けて紹介しました。
3つのカテゴリーに当てはまらないものは「その他」のカテゴリーに分類されていますが、この中には、近年出題がみられる「炎症性ピーリングスキン症候群」が含まれています。
このことからも「魚鱗癬」の皮膚科専門医試験での重要度が垣間見られます。
たくさん疾患があって大変ですが、少なくとも冒頭に示した
尋常性魚鱗癬・道化師様魚鱗癬・(表在性)表皮融解性魚鱗癬
だけは、しっかりと押さえておきたいところだと思います。
- 皮膚科セミナリウム 第71回角化症 1 魚鱗癬と魚鱗癬症候群 秋山真志 日皮会誌:121(4),667-673,2011
- 皮膚科セミナリウム 第 47 回 角化症 2.尋常性魚鱗癬 乃村俊史 日皮会誌:119(3),309―314,2009
- Oji, Vinzenz, et al. “Revised nomenclature and classification of inherited ichthyoses: results of the First Ichthyosis Consensus Conference in Soreze 2009.” Journal of the American Academy of Dermatology 63.4 (2010): 607-641.
- https://www.tenshi.or.jp/an-info/blogupload/EG-4.pdf
- Akiyama M, Sugiyama-Nakagiri Y, Sakai K, et al: Mutations in lipid transporter ABCA12 in harlequin ichthyosis and functional recovery by corrective gentransfer, J Clin Invest , 2005; 115: 1777―1784.
- Takeichi, Takuya, and Masashi Akiyama. “Inherited ichthyosis: non‐syndromic forms.” The Journal of dermatology 43.3 (2016): 242-251.
- http://medical.radionikkei.jp/maruho_hifuka_pdf/maruho_hifuka-121220.pdf
最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。
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