2019年度皮膚科専門医試験 第18問 T細胞の機能抑制に関わる分子

皮膚科専門医試験

問題18.T細胞の機能抑制あるいは疲弊化に関与するのはどれか.3つ選べ.

1. CD134(OX40)
2. CD137(4-1BB)
3. CD152(CTLA-4)
4. CD279(PD-1)
5. IDO(Indoleamine 2,3-dioxygenase)

 悪性黒色腫に対する免疫チェックポイント阻害薬が承認されて以降、皮膚科領域でも腫瘍免疫の分野に注目が集まっています。

 2016年の第79問では、PD-1・CTLA-4を回答する同様の出題がありましたが、本問ではさらに発展した出題になっています。

 また、本問で出題されている誤答選択肢はいずれも、腫瘍免疫を活性化させる分子です。

 今後は、腫瘍免疫を抑える分子だけではなく腫瘍免疫を活性化する分子の出題も予想されます

 この記事では、腫瘍免疫を抑制する分子・活性化する分子について解説しています。

第18問 T細胞の機能抑制に関わる分子【解答:3,4,5】

第18問 T細胞の機能抑制にかかわる分子【解答:3,4,5】


 腫瘍免疫というと、免疫チェックポイント阻害薬のターゲットとなっている「PD-1・CTLA-4」が有名です。

 ただ、それだけの知識では専門医試験に対抗することは難しくなっているようです。きびしい!

 本問は2018年の日本皮膚科学会雑誌のセミナリウムを参考に作成された可能性が高いです。

T細胞の抑制シグナルと活性化シグナル
新・皮膚科セミナリウム メラノーマの新しい治療法1 免疫チェックポイント阻害剤の効果と副作用 猪爪隆史(山梨大学)日皮会誌:128(6),1291-1299,2018

 図のように、選択肢の1,2は活性化シグナルに関わり、残る3,4,5が抑制シグナルに関わります。

 5.のIDOについては腫瘍細胞に発現しT細胞を抑制する分子として報告されており、悪性黒色腫に対する臨床試験で有望視されていました。(Epacadostat Plus Pembrolizumab in Patients With Advanced Melanoma: Phase 1 and 2 Efficacy and Safety Results From ECHO-202/KEYNOTE-037 (abstract 1214O).)

 ただ、第Ⅲ相試験では有意差を示せず、IDO阻害薬の臨床利用については行き詰ってしまいました。(Epacadostat plus pembrolizumab versus placebo plus pembrolizumab in patients with unresectable or metastatic melanoma (ECHO-301/KEYNOTE-252): a phase 3, randomised, double-blind study. Lancet Oncol 2019; 20:1083.)

 2019年の問題作成時には、まだ結果がでていなかったと考えられますが、IDOの出題はやや先走りすぎた感がありますね。

腫瘍免疫の抑制に関わる分子

腫瘍免疫抑制に関わる分子発現細胞結合分子はたらき
PD-1T細胞PD-L1T細胞の抑制
CTLA-4T細胞CD80T細胞の抑制
TIM-3Th1細胞などgalectin-9Th1細胞の抑制
LAG-3 (CD223)B細胞などMHC
クラスⅡ
①制御性T細胞の活性化
②T細胞の分化の抑制
IDO-1,2腫瘍細胞T細胞の抑制
TIGIT腫瘍性T細胞
CD8陽性T細胞
CD155細胞傷害性T細胞の抑制
BTLATh1細胞などHVEMCD4陽性T細胞の抑制
VISTA (B7-H5)造血組織
腫瘍細胞
PD-L1に似た構造
T細胞の抑制
CD47腫瘍細胞マクロファージの貪食回避

 種類が多いですが、今後出題される可能性は十分にあるように思います。

 上記のセミナリウムの本文では、

有力な候補として基礎研究,臨床試験が進んでいる例がLymphocyte activation gene 3(以下LAG-3 ),T cell immunoglobulin and mucin containingprotein-3(以下TIM-3),T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domain(以下TIGIT)などである。

新・皮膚科セミナリウム メラノーマの新しい治療法1 免疫チェックポイント阻害剤の効果と副作用 猪爪隆史(山梨大学)日皮会誌:128(6),1291-1299,2018

 と記載されており、まずはこの3種類に注目だと思います。

 とくに、「LAG-3」については、悪性黒色腫での治療効果に関する報告もされており出題の可能性があるのではないでしょうか。(Ascierto PA, Melero I, Bhaia S, et al. Initial efficacy of anti-lymphocyte activation gene-3 (anti–LAG-3; BMS-986016) in combination with nivolumab (nivo) in pts with melanoma (MEL) previously treated with anti–PD-1/PD-L1 therapy (abstract 9520). 2017 American Society of Clinical Oncology annual meeting.)

腫瘍免疫の活性化に関わる分子

腫瘍免疫活性化に関わる分子発現細胞結合分子はたらき
4-1BB (CD137)活性化T細胞など4-1BBLT細胞・樹状細胞の活性化
OX40 (CD134)活性化CD4+T細胞
制御性T細胞など
OX40L制御性T細胞の抑制
ICOS (CD278)活性化T細胞などICOSL制御性T細胞と関連
GITR (CD357)CD4+T細胞
CD8+T細胞
GITRLT細胞の増殖や機能と関連
CD40抗原提示細胞CD40L樹状細胞の活性化
CD28T細胞CD80
CD86
T細胞の活性化
CD27T細胞CD70CD8+T細胞の活性化
DNAM-1(CD226)T細胞CD155CD8+T細胞の活性化

 これらのうち、CD28をターゲットとした第Ⅰ相試験ではサイトカイン放出症候群が起こる毒性のために開発が頓挫しています。(Cytokine storm in a phase 1 trial of the anti-CD28 monoclonal antibody TGN1412. N Engl J Med 2006; 355:1018.)

 項目が多く暗記を絞ることは難しいですが、活性化するかどうか、という点だけの出題であれば名前を知っておくだけでもよいかもしれません。

 ちなみにCD155は、「DNAM-1(CD226)と結合してCD8陽性T細胞を活性化させる」一方、「TIGITと結合する場合には細胞傷害性T細胞を抑制する」という相反する作用がありTIGITと関連して出題されることがあるかもしれません。

参考文献

参考文献
  • 新・皮膚科セミナリウム メラノーマの新しい治療法1 免疫チェックポイント阻害剤の効果と副作用 猪爪隆史(山梨大学)日皮会誌:128(6),1291-1299,2018
  • Hamid O, Gajewski TF, Frankel AE, et al. Epacadostat Plus Pembrolizumab in Patients With Advanced Melanoma: Phase 1 and 2 Efficacy and Safety Results From ECHO-202/KEYNOTE-037 (abstract 1214O). European Society for Medical Oncology annual meeting, 2017.
  • Long GV, Dummer R, Hamid O, et al. Epacadostat plus pembrolizumab versus placebo plus pembrolizumab in patients with unresectable or metastatic melanoma (ECHO-301/KEYNOTE-252): a phase 3, randomised, double-blind study. Lancet Oncol 2019; 20:1083.
  • A review of cancer immunotherapy: from the past, to the present, to the future. Curr Oncol. 2020 Apr; 27(Suppl 2): S87–S97.
  • UpToDate: Principles of cancer immunotherapy. Literature review current through: Feb 2021. | This topic last updated: Mar 05, 2021.
  • UpToDate: Clinical presentation, pathologic features, and diagnosis of Sézary syndrome
  • Ascierto PA, Melero I, Bhaia S, et al. Initial efficacy of anti-lymphocyte activation gene-3 (anti–LAG-3; BMS-986016) in combination with nivolumab (nivo) in pts with melanoma (MEL) previously treated with anti–PD-1/PD-L1 therapy (abstract 9520). 2017 American Society of Clinical Oncology annual meeting.
  • Yeo, Jinah, et al. “TIGIT/CD226 Axis Regulates Anti-Tumor Immunity.” Pharmaceuticals 14.3 (2021): 200.
  • Buchan, Sarah L., Anne Rogel, and Aymen Al-Shamkhani. “The immunobiology of CD27 and OX40 and their potential as targets for cancer immunotherapy.” Blood, The Journal of the American Society of Hematology 131.1 (2018): 39-48.
  • Suntharalingam G, Perry MR, Ward S, et al. Cytokine storm in a phase 1 trial of the anti-CD28 monoclonal antibody TGN1412. N Engl J Med 2006; 355:1018.

最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。

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他の問題についてもこちらでまとめています。

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