2019年度皮膚科専門医試験 第5問 AGAの治療

皮膚科専門医試験

問題 5.男性型脱毛症に対する内服薬について正しい 組み合わせはどれか.2 つ選べ.

フィナステリドデュタステリド
1.後発品ありなし
2.女性への効果なしあり
3.血清 PSA 値の低下ありなし
4.5-α 還元酵素 I 型阻害なしあり
5.5-α 還元酵素 II 型阻害なしあり

 出ました、男性型脱毛症
 男性型脱毛症(AGA: androgenetic alopecia)に関する問題は、ほぼ毎年出題されています。

 男性型脱毛症は保険診療では行われないため日常診療ではあまり扱わない方も多いかもしれません。

 この記事では、2017年の皮膚科学会からの男性型・女性型脱毛症の診療ガイドラインに加えて出題されそうな部分をまとめています。

第5問 AGAの治療【解答:1,4】

解答:1,4

治療薬は「5-α 還元酵素阻害薬内服」と「ミノキシジル外用」の2種類

男性の適応女性の適応初期脱毛効果・効能未成年
妊娠・授乳
効果判定
5-α 還元酵素阻害薬××男性型脱毛症使用不可6か月
ミノキシジル外用壮年性脱毛症使用不可6か月

初期脱毛とは・・・

ミノキシジル外用によって起こる、外用初期の一時的な脱毛。ミノキシジルによって休止期から前成長期に一斉に移行することにより外用開始後1-2カ月で生じる休止期脱毛のこと。

初期脱毛を理由に外用を中断しないように説明することが必要とされています。(2017年皮膚科学会ガイドライン)

 5-α 還元酵素阻害薬は、「テストステロン」を「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変換する5-α 還元酵素を阻害する薬剤です。

 女性型脱毛ではプラセボと比べて効果に有意差がなく、使用しないことが推奨されています。妊娠・授乳中の投与は禁忌となっています。

 また、ミノキシジル外用も安全性が確実ではないため妊娠・授乳中の使用は中断するように推奨されています。(Kanti, Varvara, et al. “Evidence‐based (S3) guideline for the treatment of androgenetic alopecia in women and in men–short version.” Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology 32.1 (2018): 11-22.)

 日本では、未成年での有効性・安全性の確認がされておらず、20歳以上に使用するように添付文書上記載されています。

 さらに、以下の点も重要です。

 「5-α 還元酵素阻害医薬」・「ミノキシジル外用」はともに脱毛症に対して保険適応なし

効果判定は、ともに6カ月
(Blumeyer, Anja, et al. “Evidence‐based (S3) guideline for the treatment of androgenetic alopecia in women and in men.” JDDG: Journal der Deutschen Dermatologischen Gesellschaft 9 (2011): S1-S57.)

5-α 還元酵素阻害薬

商品名前立腺肥大症の商品名用量5-α 還元酵素阻害
フィナステリドプロペシアプロスカー(国内未承認)0.2-1mg/日Ⅱ型
デュタステリドザガーロアボルブ0.1-0.5mg/日Ⅰ,Ⅱ型
国内後発品
(AGAへの効能効果)
FDAの承認
(2021年5月現在)
性機能低下PSAの解釈
フィナステリドプラセボと差なし2倍する
デュタステリド
(2020年10月~)
×
(前立腺肥大のみ〇)
1-10%
(日本皮膚科学会
ガイドライン
2017年)
2倍する

 一般名としては、フィナステリドとデュタステリドの2種類あります。細かい点で違いが多いです。2019年の専門医試験時にはデュタステリドの後発薬はありませんでしたので1は正解になります。

 5-α 還元酵素の型については、Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型の3種類がありますが、AGAに関連するのは、Ⅰ型とⅡ型です。

  • 「前頭部」と「後頭部」を比べると「前頭部」で5-α 還元酵素が多い
  • Ⅰ型は、「頭皮全体」でmRNA発現量が変わらない
  • Ⅱ型は、「AGAの部位とひげの部位」の方が、「後頭部」よりもmRNA発現が多い
    (Nakanishi S, Itami S, Adachi K et al. Expression of androgen receptor, type I and type II 5areductase in human dermal papilla cells. In: Neste D, Randall V A, eds. Hair Research for the Next Millennium. Amsterdam: Elsevier Publishers BV, 1996: 333–337.)
  • 女性の前頭部と男性の前頭部の酵素を比べると、Ⅰ型は3倍、Ⅱ型は3.5倍女性の方が少ない。
    (Sawaya, Marty E., and Vera H. Price. “Different levels of 5α-reductase type I and II, aromatase, and androgen receptor in hair follicles of women and men with androgenetic alopecia.” Journal of Investigative Dermatology 109.3 (1997): 296-300.)

 これらの報告から、

Ⅱ型5-α 還元酵素は前頭部や頭頂部の分布が多く、Ⅰ型は頭皮全体に均一に分布している

と説明されることもあります。

 また、女性では5-α 還元酵素の発現が少ないためフィナステリドやデュタステリドの効果がみられない、と考える意見もあります。(Inui, Shigeki, and Satoshi Itami. “Androgen actions on the human hair follicle: perspectives.” Experimental dermatology 22.3 (2013): 168-171.)

ミノキシジル

商品名国内後発品FDAの承認
ミノキシジル5%外用リアップ
ミノキシジル2%外用ロゲイン(国内未承認)国内未承認
ミノキシジル1%外用リアップ×
ミノキシジル内服ロニテン(国内未承認)国内未承認高血圧で〇
AGAでは×
日本での推奨男性型脱毛女性型脱毛
ミノキシジル5%外用
ミノキシジル2%外用××
ミノキシジル1%外用
ミノキシジル内服××

 ミノキシジル内服は、米国では高血圧の治療薬としてFDAの承認がありますが、

心電図異常、浮腫(7-10%)、心嚢液(3%でタンポナーデ)、狭心症、心不全、心膜炎、頻脈、Na貯留、体液貯留(UpToDate Minoxidil systemicより)

などの副作用に注意する必要があり、ミノキシジル内服はAGAへの適応承認はなく使用しないことが推奨されています。また、高血圧の治療としても第一選択ではありません。かつて高血圧の治療時に多毛症の副作用があり、そのほかの内服での副作用を考慮して現在日本では「壮年性脱毛症」の治療に外用薬のみが承認されています。

 国内は5%と1%が承認されており、1回1mlを1日2回脱毛部に外用することとなっています。

 国内の2017年のガイドラインでは、

  • 男性型脱毛では2%より5%で有意に効果あり
  • 女性型脱毛では2%と5%で効果に有意差なし
  • 女性型脱毛ではプラセボより1%で有意に効果あり

と記載されており、男性では5%、女性では1%の外用が推奨されています。

 ただ最近では、ミノキシジル内服の利用につながる報告されています。

 ”Safety of low-dose oral minoxidil for hair loss: A multicenter study of 1404 patients.” Journal of the American Academy of Dermatology (2021).”では、

低用量のミノキシジル内服による治療の安全性について検討されており、「低用量なら脱毛症治療として安全に使用できる」と報告されています。

 クリニックなどではミノキシジル内服が実際に処方されている例もあり、効果と安全性の議論が深まればガイドラインの推奨度も変更される可能性があると思います。

出典・参考文献

出典・参考文献
  • 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版(日本皮膚科学会)
  • Blumeyer, Anja, et al. “Evidence‐based (S3) guideline for the treatment of androgenetic alopecia in women and in men.” JDDG: Journal der Deutschen Dermatologischen Gesellschaft 9 (2011): S1-S57.
  • Kanti, Varvara, et al. “Evidence‐based (S3) guideline for the treatment of androgenetic alopecia in women and in men–short version.” Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology 32.1 (2018): 11-22.
  • Inui, Shigeki, and Satoshi Itami. “Androgen actions on the human hair follicle: perspectives.” Experimental dermatology 22.3 (2013): 168-171.
  • Vañó-Galván, Sergio, et al. “Safety of low-dose oral minoxidil for hair loss: A multicenter study of 1404 patients.” Journal of the American Academy of Dermatology (2021).

最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。

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他の問題についてもこちらでまとめています。

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