問題41.抗結核薬の副作用で誤っている組み合わせはどれか.
1. イソニアジド――――――――神経障害
2. ピラジナミド――――――――痛風
3. リファンピシン―――――――偽膜性腸炎
4. ストレプトマイシン―――――耳鳴
5. パラアミノサリチル酸――――SLE様症状
結核は皮膚科専門医試験の頻出分野で2014年度から2020年度までの7年間で5問の出題があります。
年度 | 番号 | 内容 |
2020 | 記述5 | 陰茎結核疹 |
2019 | 41 | 抗結核薬の副作用 |
2018 | 29 | 真性皮膚結核 |
2017 | 32 | 皮膚腺病 |
2015 | 82 | IGRA(クオンティフェロン・Tスポット) |
「イソニアジド・リファンピシン・ピラジナミド・エタンブトール・ストレプトマイシン」などメインの薬剤の副作用は医師国家試験でも勉強しましたが、さすがは皮膚科専門医試験、国試の知識だけでは解けないようです。
皮膚科専門医試験では「日皮会誌のセミナリウム」の内容が参考になりますが、2021年12月現在、結核に関する総説はありませんでした。そこで今回は日本結核・非結核性抗酸菌症学会の資料を参考にしています。
この記事では、日本結核・非結核性抗酸菌症学会の資料を基に、1st line以外の薬剤も含めて抗結核薬の副作用について解説しています。
第41問 抗結核薬の副作用 【解答:5】
薬剤 | 副作用 |
イソニアジド | 肝障害、末梢神経障害、アレルギー反応(発熱、発疹) |
リファンピシン | 肝障害、食欲不振・悪心などの胃腸障害 アレルギー反応(発熱/筋肉痛/関節痛などインフルエンザ様症状、 血小板減少、ショック症状) |
ストレプトマイシン カナマイシン エンビオマイシン | 第八神経障害(耳鳴り、難聴、平衡覚障害) 腎障害、アレルギー反応(発熱、発疹) |
エタンブトール | 視神経障害 (視力低下、視野の狭窄・欠損、色覚の異常など球後神経炎の症状) |
エチオナミド | 胃腸障害(悪心が強い)、肝障害 |
ピラジナミド | 肝障害、胃腸障害、高尿酸血症、関節痛 |
パラアミノサリチル酸 | 胃腸障害(食欲不振が主) アレルギー反応(発熱、発疹) |
サイクロセリン | 精神障害 |
正答からいくと「5. パラアミノサリチル酸 ― SLE様症状」の組み合わせが誤りです。
パラアミノサリチル酸は「4-ASA」とも略されることがあり、5-ASA(メサラジン)の副作用であるSLE様症状との引っ掛けでした。(高度なひっかけです。。)
また「3. リファンピシン ― 偽膜性腸炎」は、あまり有名ではないような気もしますが添付文書にも記載があり本問について触れたセミナリウム(日皮会誌:131(10), 2281-2285, 2021)では次のように記載されています。
2019年には,抗結核薬の副作用に関する問題が出た.
ファーストラインで用いられるイソニアチド,リファンピシン,ピラジナミド,ストレプトマイシンの4剤のうち,イソニアチドによる神経障害とストレプトマイシンによる耳鳴・難聴,さらにエタンブトールによる視神経障害は有名であるが,リファンピシンによる胃腸障害・偽膜性腸炎とピラジナミドによる痛風・高尿酸血症も覚えておきたい.
一方,セカンドラインとして多剤耐性結核に用いられるパラアミノサリチル酸(PAS)は薬剤自体あまり知られておらず,消化器系(嘔吐・下痢)や肝炎の副作用があることも知られていないと思われる.
金澤伸雄. “3. 専門医試験に出る肉芽腫 (深在性真菌症と抗酸菌感染症を含む).” 日本皮膚科学会雑誌 131.10 (2021): 2281-2285.
ちなみに、このセミナリウムは専門医試験の過去問に多数コメントがあり必読です。
ただ、これだけでは抗結核薬の副作用についてどこまで覚えるべきかはよくわかりません。
そこで今回は2021年5月に改訂された「結核症の基礎知識 改訂第5版 Ⅲ. 結核の治療」の抗結核薬の項目をみてみます。
この中では「結核医療の基準」で定められた抗結核薬がまとめられています。(「結核医療の基準」は、感染症法上「公費負担をうけることができる結核診療」として厚生労働省が定めたものです。)
2021年10月には「結核医療の基準」が改正されましたが、抗結核薬の種類は下記のまま変わっていません。
「イソニアジド・リファンピシン・ピラジナミド・エタンブトール・ストレプトマイシン」といったメインの薬剤に加えてキノロンやアミノグリコシドが記載されています。
デラマニド・ベダキリンといった多剤耐性肺結核に対する薬剤まで覚える必要があるかは微妙ですが「そういったものがある」という程度の理解は必要かもしれません。 (ちなみに2剤ともにQT延長の副作用があります。)
では、気になる副作用についての記載です。表は再掲です。
薬剤 | 副作用 |
イソニアジド | 肝障害、末梢神経障害、アレルギー反応(発熱、発疹) |
リファンピシン | 肝障害、食欲不振・悪心などの胃腸障害 アレルギー反応(発熱/筋肉痛/関節痛などインフルエンザ様症状、 血小板減少、ショック症状) |
ストレプトマイシン カナマイシン エンビオマイシン | 第八神経障害(耳鳴り、難聴、平衡覚障害) 腎障害、アレルギー反応(発熱、発疹) |
エタンブトール | 視神経障害 (視力低下、視野の狭窄・欠損、色覚の異常など球後神経炎の症状) |
エチオナミド | 胃腸障害(悪心が強い)、肝障害 |
ピラジナミド | 肝障害、胃腸障害、高尿酸血症、関節痛 |
パラアミノサリチル酸 | 胃腸障害(食欲不振が主) アレルギー反応(発熱、発疹) |
サイクロセリン | 精神障害 |
リファンピシンの偽膜性腸炎についてはこちらでも触れられていないので難易度高めかと思います。
そのほかの注意点については以下の通りです。
薬剤 | 注意点 |
イソニアジド (INH) | ・末梢神経障害の治療にはビタミンB6が有効 ・糖尿病・アルコール依存症・低栄養状態妊娠・HIV感染者 →予防的にビタミンB6を併用 |
リファンピシン (RFP) | ・胃腸障害:朝食後に服用 ・肝障害の発現頻度はINHとの併用で10% ・多くは3カ月以内にAST/ALTの上昇 ・薬剤の中止により1-2カ月で正常に復することが多い ・AST/ALTが100単位以下:1-2週ごとに検査+治療を継続 ・150単位以上:RFP or INHを中止し正常になれば再投与 ・AST、ALTが再上昇したらRFP or INHの投与を断念 ・アレルギー反応:特に大量間欠投与時に多い |
ストレプトマイシン カナマイシン エンビオマイシン | ・第八神経障害(耳鳴り、難聴、平衡覚障害) →高齢者、腎機能障害で注意 |
エタンブトール | 毎月1回視力検査 |
エタンブトールの視神経障害のスクリーニングについては、2021年12月に日本結核・非結核性抗酸菌症学会より見解が出されており、「エタンブトール内服中の1~3か月ごとの眼科診察・視力検査・視野検査」を提言しています。
結核の治療【リファンピシン耐性結核の治療は進化中】
薬剤耐性ではない通常の結核治療はこれまで通り「イソニアジド・リファンピシン・ピラジナミド・エタンブトール」が中心です。(WHOの2020年のガイドラインによると、ストレプトマイシン(注射薬)は通常の結核治療では1st lineではなく、2nd lineで使用するとしてもアミカシン(注射薬)が使用できない場合、すべて内服薬のみでの治療ができない場合に限られるとされています。)
ただ、多剤耐性結核(特にリファンピシン耐性)が問題となっており、上表のようにWHOが推奨を出しています。2020年にWHOのガイドラインは更新されていますが、GroupA/Bに変更はありません。
また、Lancetの総説では、リファンピシン耐性結核の治療について次のような記載があり、
Commonly used agents, such as kanamycin, capreomycin, pyrazinamide, ethionamide, and para-aminosalicylic acid, were found to be associated with worse treatment outcomes, even when used in people with susceptibility to these medications, suggesting that the toxicity of these agents might be worse than previously thought.
Jennifer Furin, Helen Cox, Madhukar Pai. “Tuberculosis” The Lancet 393.10181 (2019): 1642-1656.
「『カナマイシン・カプレオマイシン・ピラジナミド・エチオナミド・パラアミノサリチル酸』については、仮に感受性があったとしても毒性が強く治療効果の悪化と関連する」と記載されており、「リファンピシン耐性結核」での使用は優先順位が下がるようです。
パラアミノサリチル酸を使用する頻度は今のところますます減りそうで出題意図の理解には苦しみますが、「結核医療の基準」記載の抗結核薬については今後も出題があるかもしれません。
多剤耐性結核の治療については、一項目で扱いきれる内容ではないのでここでは解説しません。最新治療のアップデートも盛んなため多剤耐性結核の細かい治療が出題される可能性は低いように思います。
参考文献
- 金澤伸雄. “3. 専門医試験に出る肉芽腫 (深在性真菌症と抗酸菌感染症を含む).” 日本皮膚科学会雑誌 131.10 (2021): 2281-2285.
- 藤田 次郎 他. ”結核症の基礎知識(改訂第5版). ” 結核 96.3 (2021): 93-123.
- リファジン®カプセル 添付文書 第27版(2021年5月改訂)
- デルティバ錠 添付文書 第5版(2021年9月改訂)
- サチュロ錠 添付文書 第1版(2018年4月)
- エタンブトール(EB)による視神経障害に関する見解 https://www.kekkaku.gr.jp/wp-content/uploads/2021/12/7cf34cb28c8b57a089ec481f4c3f5cc0.pdf
- Jennifer Furin, Helen Cox, Madhukar Pai. “Tuberculosis” The Lancet 393.10181 (2019): 1642-1656.
- World Health Organization. WHO consolidated guidelines on tuberculosis. Module 4: treatment-drug-resistant tuberculosis treatment. World Health Organization, 2020.
最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。
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コメント
選択肢5. SLE様症状の副作用があるのはイソニアジドではないでしょうか。添付文章にも「SLE様症状:筋肉や関節が痛む、体や顔が赤くなる、赤い斑点ができる、発熱、手足や首の付け根のリンパ節が腫れる」との記載があります
コメントありがとうございます。SLE like syndromeはそれだけで1記事かけるくらい膨大だったのであまり触れていませんでした。おっしゃる通り、イソニアジドにはSLE様症状の副作用が知られています。ただ、それだけではパラアミノサリチル酸の副作用にSLE様症状がないことの根拠にはならないので、あくまで解説・考察としてこの記事の記載となっています。ご指摘ありがとうございました。