問題46.次の刺症・咬症の中でアナフィラキシーを最も生じないのはどれか.
1. オオハリアリ
2. クマバチ
3. トビズムカデ
4. ヒアリ
5. ミツバチ
「クマバチに攻撃性がない」ことを知っておいてほしい、という趣旨の出題でしたね。
正解率13%と専門医試験委員会委員長の田中勝先生から苦言を呈されていましたね。(出題方法にも問題がありそうですが。。)
虫刺症といわれても普段は虫の種類まではあまり考えないかもしれませんが、毒針による虫刺症のアレルギー反応の大半は「ハチ目Hymenoptera」というグループ(目:order)によるものとされています。(UpToDate :Stinging insects: Biology and identification)
そして問題となるのはハチ目のなかでもミツバチ科・スズメバチ科・アリ科による虫刺症です。
実際、本問の「3.トビズムカデ」以外の選択肢はハチ目に属しています。
ハチ目の攻撃性に注目すると本問の回答がより明確になってきます。
ハチ目は「攻撃性の強い」真社会性と「攻撃性の弱い」孤立性に分かれクマバチのみ後者に属します。
ミツバチ科 | スズメバチ科 | アリ科 | |
真社会性 (eusocial) | ミツバチ マルハナバチ | スズメバチ アシナガバチ | すべて |
孤立性 (solitary) | クマバチ | 一部 | なし |
つまり「攻撃性が弱い → アナフィラキシーの頻度が少ない」と回答させる出題でした。
しかし本問は問い方としてはやや不適切で「刺症・咬症」の頻度が少ないものはどれか、という方が適切だったように思います。刺されたときのアナフィラキシーの頻度の比較については報告がないからです。
日皮会雑誌のセミナリウムではアナフィラキシーの頻度にまで言及した総説がありませんでしたがUpToDateではハチ目の虫刺症によるアナフィラキシーは0.3-3%とされています。(UpToDate :Bee, yellow jacket, wasp, and other Hymenoptera stings: Reaction types and acute management)
ちなみにムカデについては5%程度という報告があります。(UpToDate :Insect and other arthropod bites)
虫刺症・虫に関する問題はマダニ・疥癬・シラミ以外だと2014年度以降では3題の出題があります。
年度 | 番号 | 内容 |
2021 | 40 | アオバアリガタハネカクシ による線状皮膚炎 |
2021 | 41 | ヒアリ |
2018 | 31 | ブユ虫刺症後の痒疹 |
2021年度にはハチ目である「ヒアリ」に関する出題もありハチ目による虫刺症は今後も出題されそうです。
この記事ではハチ目を中心に毒素による虫刺症とアナフィラキシーについてUpToDateを参考に、皮膚科専門医試験対策としてまとめています。
第46問 毒素による虫刺症のアナフィラキシー【解答:2】
ハチ目の虫刺症のアレルギー反応の病型としてUpToDateでは
「単純性局所反応uncomplicated local reaction」
「大型局所反応large local reaction」
「全身性反応systemic reaction」
の3つに分類しています。
単純性局所反応 | 大型局所反応 | 全身性反応 | |
持続時間 | 数時間-24時間 | 数日 | 記載なし |
頻度 | 記載なし | 10% | 0.3-3% |
機序 | 記載なし | IgE介在性 | IgE介在性 |
皮膚症状 | 1-5cm | 10cm大 | 子どもの60%は皮膚症状のみ 成人の15%は皮膚症状のみ |
循環呼吸症状 | なし | なし | 子ども:30% 成人:90% |
治療 | 圧迫冷却 | 圧迫冷却 ステロイド内服 NSAIDs内服 ステロイド外用 抗ヒスタミン薬内服 | 基本的に アナフィラキシーに準じる |
エピネフリン 筋注の適応 | なし | なし | 子ども:皮膚以外の症状がある時 成人:皮膚症状のみでも適応 |
次回虫刺症時 のリスク | 記載なし | 全身性反応4-10% 重篤なものは3%未満 | アナフィラキシー30-60% 皮膚症状のみの子どもは10% |
エピネフリン 自己注射の適応 | なし | なし | あり |
免疫療法の適応 | なし | なし | あり (日本では 薬事承認未 保険適応なし) |
単純性局所反応は1日で消退しますが、10%の症例で大型局所反応が起こり数日持続しステロイドの内服が選択肢になることもあります。
全身性反応は基本的にアナフィラキシーに準じる対応ですが、エピネフリン筋注の適応がやや異なるようです。
アナフィラキシーでは通常2臓器以上の症状がありエピネフリン筋注をおこないますが、虫刺症(特にハチ目)では成人の場合、アナフィラキシーのリスクが高くUpToDateによると皮膚症状のみでもエピネフリン筋注の適応があるとされています。
米国では全身性反応があった場合には免疫療法による減感作が推奨され次回被害時のアナフィラキシーのリスクを30-60%→5%に減じることができると報告されています。(日本では薬事承認・保険適応ともになくほとんどの場合エピペン®による対症療法しかないのが現状)
米国では2016年にガイドラインの変更(Annals of Allergy, Asthma & Immunology 118.1 (2017): 28-54.)がありました。
成人で皮膚症状のみの全身性反応であれば免疫療法の適応は積極的には推奨されなくなりました。(子どもはもともとリスクが低く推奨なし)
免疫療法の適応 | 変更前 | 変更後 |
子ども(16歳以下) | 皮膚以外の全身性反応 | 同左 |
成人 | 全身性反応 (皮膚症状のみでも適応) | 皮膚以外の全身性反応 |
スズメバチによる虫刺症で成人で皮膚症状のみの全身性反応であった場合には、次回虫刺症時の全身性反応のリスクが比較的低いという報告(Journal of allergy and clinical immunology 117.3 (2006): 670-675.)を受けた対応です。
ヒアリについては、エビデンスが乏しいため全身性反応の皮膚症状のみでも免疫療法を推奨するという意見もあるようです。(UpToDate: Stings of imported fire ants: Clinical manifestations, diagnosis, and treatment)
<選択肢の吟味>
選択肢1番のオオハリアリの虫刺症によるアナフィラキシーは韓国からの報告(Journal of allergy and clinical immunology 110.1 (2002): 54-57.)があり全身性反応2.1%、アナフィラキシー1.2%と記載されています。
正解のクマバチについてはアナフィラキシーの報告は一例のみ(Wilderness & Environmental Medicine 27.2 (2016): 262-265.)とされ、The Journal of Dermatologyの症例報告(The Journal of Dermatology 44.6 (2016): 726-727.)でもアナフィラキシーはまれであると記載されています。
参考文献
- UpToDate :Stinging insects: Biology and identification(2021/2/24アクセス)
- UpToDate :Bee, yellow jacket, wasp, and other Hymenoptera stings: Reaction types and acute management(2022/3/1アクセス)
- Golden, David BK, et al. “Stinging insect hypersensitivity: a practice parameter update 2016.” Annals of Allergy, Asthma & Immunology 118.1 (2017): 28-54.
- Golden, David BK, et al. “Clinical and entomological factors influence the outcome of sting challenge studies.” Journal of allergy and clinical immunology 117.3 (2006): 670-675.
- UpToDate: Stings of imported fire ants: Clinical manifestations, diagnosis, and treatment(2022/3/1アクセス)
- UpToDate :Insect and other arthropod bites(2021/2/24アクセス)
- Cho, You Sook, et al. “Prevalence of Pachycondyla chinensis venom allergy in an ant-infested area in Korea.” Journal of allergy and clinical immunology 110.1 (2002): 54-57.
- Kularatne, Senanayake AM, et al. “First reported case of fatal stinging by the large carpenter bee Xylocopa tranquebarica.” Wilderness & Environmental Medicine 27.2 (2016): 262-265.
- Ueki, Yoko, et al. “Case of Japanese carpenter bee (Xylocopa appendiculata circumvolans) stings.” The Journal of Dermatology 44.6 (2016): 726-727.
最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。
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