問題45.68 歳の男性.キャンプから帰宅した翌日に腹部の皮疹(図10)に気付いた.本症について正しいのはどれか.
1. 虫体の自然脱落を待つのがよい.
2. 鶏肉アレルギーに注意する必要がある.
3. 忌避剤配合の虫除けスプレーが予防に有効である.
4. 重症熱性血小板減少症候群に感染する確率が高い.
5. ネズミが生息する施設内で宿泊した際に被害を受ける.
マダニに関する問題は過去問をみてもほぼ毎年出題されている頻出問題です。
年度 | 番号 | 内容 |
2021 | 30 | マダニが媒介するウイルス |
2020 | 35 | SFTS |
2019 | 45 | マダニ |
2017 | 34 | マダニ刺症の診断 |
2017 | 35 | 日本紅斑熱の治療 |
2016 | 26 | マダニが媒介する感染症 |
2015 | 26 | SFTS |
日皮会雑誌のセミナリウム(129.12 (2019): 2493-2501.)が回答の基準になっていると考えてよいと思います。
この記事では先のセミナリウムを参考に皮膚科専門医試験でのマダニに関する出題について解説しています。
また先のセミナリウムで取り上げられている忌避剤であるディート・イカリジンについても解説しています。
第45問 ダニ媒介性感染症【解答:3】
マダニに関する出題は意外と範囲が広く対策がむずかしいです。
それもそのはず。関連する疾患が非常に多いです。いずれも日常診療ではなかなかお目にかかりません。
これらのうち、2014年度以降でみると
重症熱性血小板減少症候群・ダニ媒介性脳炎・日本紅斑熱・つつが虫病・ライム病
に関する出題で占められています。
さきのセミナリウムではこれら5疾患に「新興回帰熱」を加えた6疾患が項目別に解説されていました。
セミナリウムの内容が回答に直結しており要チェックです!
6疾患以外でも「名前」と「病原体の種類」だけは押さえておきたいところです。
新興回帰熱は「回帰熱」として感染症法上の4類感染症に指定されており、そのほかの5疾患、野兎病、ロッキー山紅斑熱も4類感染症に指定されています。
疾患が多岐にわたるので、本問は選択肢ごとに解説していきます。
1. 虫体の自然脱落を待つのがよい.×【ライム病は感染まで48時間かかるが他の疾患はより短時間で感染】
ダニの除去はダニ刺症の最初のステップですね。
除去のタイミングはいつか、についても解説しておきます。
ライム病予防ということなら48時間以内であれば良さそうだけど、他疾患を考慮すると、いつまでならOKということはないようです。(早いに越したことはありませんが。。)
UpToDate(Evaluation of a tick bite for possible Lyme disease)によると
The duration of tick attachment is important in assessing the risk of transmission of Lyme disease. B. burgdorferi are rarely transmitted within the first 48 hours of tick attachment.
UpToDate Evaluation of a tick bite for possible Lyme disease(2022/2/17アクセス)
と記載されており、ライム病予防については48時間以内なら感染リスクは低いとされています。
また米国ではダニ吸着から36時間以内に除去できていればライム病予防の抗生剤内服の適応はないとされています。(UpToDate)
ただし、ヒト顆粒性アナプラズマ症やバベシア症ではより短時間で感染するとされ、そのほかのダニ媒介性感染症についてのデータも乏しいことから、いつまでならOKということはないようです。
2. 鶏肉アレルギーに注意する必要がある.×【獣肉アレルギーが正解】
遅発型アナフィラキシーとして「獣肉アレルギー」「納豆アレルギー」が知られています。
こちらの2つも食物アレルギーとして頻出問題ですが、解説は他の機会に譲ります。
獣肉といっても、哺乳類のものなので鶏肉は誤りです。
3. 忌避剤配合の虫除けスプレーが予防に有効である.〇
ダニ媒介性感染症を予防するには,媒介者であるマダニやツツガムシによる吸着を避けることが重要である.そのためには野外活動の際に肌の露出を避け,ディートやイカリジンなどの忌避剤を有効に活用することが望ましい.
夏秋優. “1. ダニ媒介性感染症.” 日本皮膚科学会雑誌 129.12 (2019): 2493-2501.
「ディート」「イカリジン」が日本では忌避剤として承認されていますが医療用医薬品ではないためあまり目にする機会がありませんので後述まとめています。
4. 重症熱性血小板減少症候群に感染する確率が高い.×【非常に低い】
これまでの調査ではフタトゲチマダニ,タカサゴキララマダニなど複数のマダニ種がSFTSV の遺伝子を保有するとされているが,その保有率はきわめて低く,実際の感染リスクは非常に低い.
夏秋優. “1. ダニ媒介性感染症.” 日本皮膚科学会雑誌 129.12 (2019): 2493-2501.
中国ではじめて報告され、SFTS(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)として知られていますね。
高いとか低いとかは主観も混ざるので問題としては適さないですが、公式見解としては「SFTSの感染率は非常に低い」と覚えておきましょう。
2020年度の35番では「胃腸症状が出現しやすい」ことが選択肢として出題(誤答選択肢で「初めて報告された国」も出題)されており、病名だけ知っていても対応できない出題がみられています。
5. ネズミが生息する施設内で宿泊した際に被害を受ける.×【回帰熱】
人の住む環境にはおもにげっ歯類により運ばれると考えられている。
川端寛樹, and 佐藤(大久保)梢. “ボレリア感染症 (ライム病をおもに).” NEUROINFECTION 25.1 (2020): 118.
米国のグランドキャニオンを含むロッキー山脈は古くから回帰熱の流行地域として知られている。Paul らは グランドキャニオン国立公園を訪れた観光客約10,000名について疫学調査を行い、流行地域内での保菌動物と接触する機会に比例して患者が発生する傾向 があることを報告している。殊に、ネズミ駆除が完全でない宿泊施設内での感染が疑われる例が15例中7例をしめた。主な病原体はBorrelia hermsii と推測された。
回帰熱とは 国立感染症研究所(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/379-relapsing-fever-intro.html)
(古典型)回帰熱もマダニによって媒介されます。おそらく回帰熱を想定した選択肢です。
通常のマダニ刺症は野外活動と関連があります。
忌避剤【ディートとイカリジンは医療用医薬品ではありません】
ディート | イカリジン | |
一般用医薬品 (第2類医薬品) | 30%製剤 12%製剤 | なし |
防除用医薬部外品 | 10%製剤 | 15%製剤・5%製剤 |
日本での承認 | 1962年販売開始 | 2015年承認 |
効能効果 | 蚊・ブユ・アブ・マダニ イエダニ・トコジラミ ツツガムシ・サシバエ・ノミ (一部)ヤマビルの忌避 | 蚊・ブユ・アブ・マダニの忌避 |
日本での年齢制限 | 30%→12歳以上 12%以下→生後6か月以上 | なし |
日本での回数制限 | 12歳以上:制限なし 2歳以上12歳未満:1-3回/日 生後6か月以上2歳未満:1回/日 | なし |
米国での年齢制限 | 生後2か月以上 | 2歳以上 |
妊娠・授乳 (日米共通) | 注意なし | 注意なし |
効果持続時間 | 30%→5-8時間(添付文書) 24%→5時間(UpToDate) 10%→2時間(UpToDate) | 15%→6-8時間(JAAD2008) |
商品名 | サラテクトリッチリッチ30® スキンベーププレミアム®など | 天使のスキンベーププレミアム® プレシャワーDF PRO®など |
Cutter Advanced Sport Insect Repellent®、Cutter Advanced Insect Repellent®商品説明
Journal of the American Academy of Dermatology 58.5 (2008): 865-871.
CDC Yellow Book2020 Chapter 3 Mosquitoes, Ticks & Other Arthropods
UpToDate: Prevention of arthropod and insect bites: Repellents and other measures(2022/2/2アクセス)
ディート(忌避剤)に関する検討会 資料2)DEETとは 資料5)各国の規制状況
診療の際にあまり注意することがないですが、キーワードとしてはセミナリウムにも記載されており今後出題されるかもしれません。
ディートは古くから世界中で使用されており、イカリジンは2015年の承認と比較的新しい忌避剤です。
イカリジンには年齢や回数に制限がなく使用しやすそうです。
ただし、UpToDateによると
効果の持続時間は「ディート>イカリジン」
(UpToDate: Prevention of arthropod and insect bites: Repellents and other measures)
とされています。
また、どちらも作用機序はよくわかっていない(UpToDate)ようです。
ひとまず、出題されやすそうな項目はまとめておきましたのでお役に立てますと幸いです。
参考文献
- 夏秋優. “1. ダニ媒介性感染症.” 日本皮膚科学会雑誌 129.12 (2019): 2493-2501.
- UpToDate: Evaluation of a tick bite for possible Lyme disease(2022/2/17アクセス)
- 猪又直子. “1. 動物と経皮感作型食物アレルギー.” 日本皮膚科学会雑誌 131.3 (2021): 491-497.
- サラテクト リッチリッチ30®、サラテクト ミスト®、天使のスキンベーププレミアム®添付文書
- Cutter Advanced Sport Insect Repellent®、Cutter Advanced Insect Repellent®商品説明
- Katz, Tracy M., Jason H. Miller, and Adelaide A. Hebert. “Insect repellents: historical perspectives and new developments.” Journal of the American Academy of Dermatology 58.5 (2008): 865-871.
- CDC Yellow Book2020 Chapter 3 Mosquitoes, Ticks & Other Arthropods
- UpToDate: Prevention of arthropod and insect bites: Repellents and other measures(2022/2/2アクセス)
- ディート(忌避剤)に関する検討会 資料2)DEETとは 資料5)各国の規制状況
- 川端寛樹, and 佐藤(大久保)梢. “ボレリア感染症 (ライム病をおもに).” NEUROINFECTION 25.1 (2020): 118.
- 回帰熱とは 国立感染症研究所(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/379-relapsing-fever-intro.html)
最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。
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