問題43.50 歳代の男性.図8a の皮膚所見で受診し, 図8b の検査所見であった.本症について正しいのはどれか.
1. 中枢神経が侵される.
2. 1 種類の抗菌薬で治療する.
3. 抗酸菌用培地で発育可能である.
4. 日本では毎年約50名の新規患者がいる.
5. 多菌型(MB,LL 型)では左右対称性に皮疹・神経症状がみられる.
ハンセン病は日常診療ではまず出会わない疾患ですが「らい予防法」を含めた差別的な歴史背景があり今後も出題が予想されます。
2013年度以降の出題は以下の通りです。
年度 | 番号 | 内容 |
2020 | 33 | ハンセン病一般 菌種・本邦年間新規発症者数 確定診断・治療薬剤 らい性結節性紅斑の治療 |
2019 | 43 | ハンセン病一般 病態・治療・培養 本邦年間新規発症者数 多菌型での左右対称な症状 |
2016 | 24 | ハンセン病の多菌型の特徴 |
2013 | 30 | M.lepraeについて |
本問では多菌型に関する出題でしたが多菌型がよく出題されています。
2014年の日皮会雑誌セミナリウム(日本皮膚科学会雑誌 124.1 (2014): 5-12.)が専門医試験の解答の基準となると考えられます。
この記事では、同セミナリウムに沿って皮膚科専門医試験でのハンセン病に関する解説をしています。
第43問 ハンセン病【解答:5】
大前提としてハンセン病の症状は「皮膚症状」「末梢神経症状」が中心です。
ひとまずセミナリウムの病型分類の表はとっても大事そうです。
このなかでも、特に重要なのは「皮疹の分布」「皮疹部の知覚障害」の項目です。
2016年以降、多菌型について「皮疹の分布は左右対称」「知覚障害は軽度」という点が繰り返し出題されています。
セミナリウムの本文では
c)LL 型
四津里英. “1. ハンセン病.” 日本皮膚科学会雑誌 124.1 (2014): 5-12.
病初期はシュワン細胞内でM. lepraeが増殖し,神経症状が現われにくい.しかし,治療が遅れることで病像の進行とともに全身皮膚表層のほぼ左右対称性の感覚脱失が特徴的である.
と記載されており、皮膚科専門医試験的にはLL型(多菌型に分類)の感覚脱失についても左右対称性であると考えてよさそうです。
なお末梢神経障害の左右対称性については、海外の総説では明確な記載を見つけることができませんでした。(Clinics in dermatology 33.1 (2015): 26-37./Anais brasileiros de dermatologia 89 (2014): 205-218.)
ハンセン病の疫学・検査・治療【日本では毎年数名新規診断されています】
年 | 日本人 | 外国人 |
2020 | 1 | 3 |
2019 | 0 | 5 |
2018 | 0 | 3 |
2017 | 1 | 1 |
2016 | 0 | 3 |
(国立感染症研究所Webサイト ハンセン病 医療関係者向けhttps://www.niid.go.jp/niid/ja/leprosy-m/1841-lrc/1707-expert.htmlより)
世界ではインド・ブラジルを中心に年間20-25万人(2018年は208,619名)の新規患者が報告されています。
日本では、ブラジル・フィリピン出身の在日外国人数名と稀に日本人も新規患者として報告されています。(国立感染症研究所Webサイトより)
感染経路と伝染力(2013年出題)については、セミナリウムで次のように記載されています。
未治療のM. leprae 保有者の鼻汁や組織浸出液が感染源となる(経鼻・経気道感染).
M. leprae 自体は伝染力の非常に弱い菌である
四津里英. “1. ハンセン病.” 日本皮膚科学会雑誌 124.1 (2014): 5-12.
「伝染力が強い・弱い」という表現は主観も混じるいるように思われますが、ひとまず専門医試験対策としては「らい菌の伝染力(感染力)は弱い」という認識でよさそうです。ハンセン病の差別の歴史を加味した表現なのでしょう。
ちなみに感染性について、Lancet infectious diseasesの総説では、次のように記載がありました。
Most people with leprosy are non-infectious as the mycobacterium remains intracellular. Patients with lepromatous leprosy, however, excrete M leprae from their nasal mucosa and skin and are infectious before starting treatment with multidrug therapy.
The Lancet infectious diseases 11.6 (2011): 464-470.
「たいていのハンセン病患者は感染性がないが、らい腫らいの患者は治療前だと鼻粘膜や皮膚から排菌しており治療前だと感染性がある」とあり、そりゃ多菌型では感染性あるだろな、という感じです。
2013年度には宿主に関する出題もありました。ヒト以外の宿主もあり、米国ではアルマジロからの感染も報告されているようです。(The Lancet infectious diseases 11.6 (2011): 464-470.)
人工培養には成功しておらず、診断は標本塗抹・病理組織での抗酸菌の確認やPCR検査によります。
治療は、リファンピシン(月1回)・ダプソン(毎日)・クロファジミン(毎日)の3剤を使用します。セミナリウムの時点では少菌型は2剤(リファンピシン・ダプソン)と多菌型では3剤すべてでの治療が推奨されていました。
2018年のWHOによるハンセン病ガイドライン”Guidelines for the diagnosis, treatment and prevention of leprosy”では、少菌型でも3剤の併用が推奨されるようになり少菌型・多菌型に関わらず3剤の併用が推奨されています。
らい反応【らい性結節性紅斑(2型らい反応)はサリドマイドが著効】
1型らい反応 (境界反応) | 2型らい反応 (らい性結節性紅斑) | |
リスク | 境界型(B群)に多い | 多菌型(MB)に多い |
免疫学的機序 | 細胞性免疫 | 液性免疫 |
皮膚 | 既存の病変の増悪 | 結節性紅斑に似た病変が全身に出現 |
特徴 | 神経症状の増悪 | 虹彩毛様体炎などの眼症状 |
治療 (軽症=皮膚症状のみ) | NSAIDs内服 | NSAIDs内服 |
治療 (重症=全身症状or皮膚潰瘍) | ステロイド | ステロイド サリドマイド クロファジミン |
らい反応は、ハンセン病の経過中に起こる急性の炎症性反応のことをさします。
ハンセン病治療指針(第3版)を参考に「らい反応」について表のようにまとめています。
上記の通り2種類あり、2型らい反応(らい性結節性紅斑)の治療について、2013年度以降では2020年度にサリドマイドが出題されています。
2012年に「らい性結節性紅斑」に対するサリドマイドが承認・保険適応となったことを受けた出題と考えられます。
ちなみに、サリドマイドの使用に際してはTERMSというシステムへの登録が必要です。過去の先天奇形による被害を受けた対策で、使用は厳格に管理されています。
今後出題も予想されるのでチェックしておいてもよいかもしれません。
皮膚科専門医試験対策でのハンセン病まとめ【セミナリウムは読むべし】
- 多菌型の左右対称な「皮疹」「神経症状」の出題が多い
- 世界では年間20万人の新規患者
- 日本では年間数名の新規患者
- 感染力は弱く、宿主はヒト以外でもアルマジロが報告
- リファンピシン・ダプソン・クロファジミンでの治療が基本
- WHOのガイドライン(2018)では全例3剤併用による治療を推奨
- 日本のハンセン病治療指針(2013)では少菌型は2剤(リファンピシンとダプソン)、多菌型は3剤での治療を推奨
- 1型らい反応は皮疹と神経症状
- 2型らい反応(らい性結節性紅斑)は眼症状に注意。治療はサリドマイドが保険適応。
いかがでしたか?
実際に診療にあたることは少ないかと思いますが、専門医試験では十分に出題される可能性があります。日皮会誌のセミナリウム (日本皮膚科学会雑誌 124.1 (2014): 5-12.) だけでも時間があれば押さえておきたいところです。
参考文献
- 四津里英. “1. ハンセン病.” 日本皮膚科学会雑誌 124.1 (2014): 5-12.
- Talhari, Carolina, Sinésio Talhari, and Gerson Oliveira Penna. “Clinical aspects of leprosy.” Clinics in dermatology 33.1 (2015): 26-37.
- Lastória, Joel Carlos, and Marilda Aparecida Milanez Morgado de Abreu. “Leprosy: review of the epidemiological, clinical, and etiopathogenic aspects-part 1.” Anais brasileiros de dermatologia 89 (2014): 205-218.
- 国立感染症研究所Webサイト ハンセン病 医療関係者向けhttps://www.niid.go.jp/niid/ja/leprosy-m/1841-lrc/1707-expert.html
- Rodrigues, Laura C., and Diana NJ Lockwood. “Leprosy now: epidemiology, progress, challenges, and research gaps.” The Lancet infectious diseases 11.6 (2011): 464-470.
- World Health Organization. “Guidelines for the diagnosis, treatment and prevention of leprosy.” (2018).
- 後藤正道, et al. “ハンセン病治療指針.” 日本ハンセン病学会雑誌 82.3 (2013): 143-184.
最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。
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