問題42.皮膚感染症について正しいのはどれか.
1. トキシックショック症候群の原因はA群β溶連菌の外毒素である.
2. ブルーリ潰瘍は疼痛が強い.
3. Panton Valentine Leukocidin(PVL)毒素は主に市中感染型MRSA が産生する.
4. 壊死性筋膜炎ではempiric に治療を開始してはならない.
5. トキシックショック様症候群はトキシックショック症候群より予後良好である.
皮膚疾患で頻度の高い2種類のグラム陽性球菌、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)とA群β溶血性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)を中心とした出題です。
この2種については過去問でもそれなりに出題があります。
年度 | 番号 | 内容 |
2019 | 42 | Toxic shock syndrome(TSS)/Toxic shock like syndrome(TSLS)/PVL |
2016 | 23 | A群β溶血性連鎖球菌が原因となる疾患 |
2014 | 21 | 抗MRSA薬の種類 |
2014 | 22 | SSSS |
2013 | 18 | 水疱性膿痂疹 |
2013 | 19 | Toxic shock syndrome |
そのなかでもTSSとTSLSは、普段あまり遭遇しないにもかかわらず本問含め8年間で3回の出題があり今後の出題を想定した対策が重要そうです。
また、2の選択肢である「ブルーリ潰瘍」も過去に2014年度の第24問で「非結核性抗酸菌で生じる疾患」を問う問題の正答選択肢として出題されており、今後出題が予想されます。(専門医試験の解答の基準となる日皮会誌のセミナリウムに2つの総説があり要チェックです。「日皮会誌:130(11),2347-2354,2020」と「日皮会誌:124(1),23-26,2014」)
「ブルーリ潰瘍」は疼痛がないことが特徴とされています。
この記事では、2014年の日皮会誌セミナリウム(124.9: 1725-1734.)を参考にTSSとTSLSについて皮膚科専門医試験対策の解説をしています。
第42問 トキシックショック症候群(TSS)とTSLS【解答:3】
トキシックショック症候群(TSS)・トキシックショック様症候群(TSLS)は、医師国家試験の対策で勉強したような覚えもありますが、実臨床では頻度も低く、治療としても、敗血症・壊死性皮膚軟部組織感染症(NSTI)とあまりかわらないのでわざわざ診断しないことも多いかもしれません。
専門医試験対策としては、次の表の内容でカバーできるように思います。
TSS | TSLS | |
原因菌 | 黄色ブドウ球菌 (S. aureus) | A群β溶血性連鎖球菌(GAS) (S. pyogenes) |
死亡率 | 3-5% 月経関連:1.8% 非月経関連:5% | 30-50% |
スーパー抗原となる 外毒素 | TSST-1 SEA-E/I | streptococcal pyrogenic exotoxin (A, C, G-M) streptococcal mitogenic exotoxin Z |
誘因 | 局所の感染 タンポンの使用 | 皮膚・粘膜の損傷(55%) 誘因不明(45%) |
血液培養 | 陽性は5%程度 | ほとんど陽性(88%という報告も) |
その他 | NTED※(新生児のTSS) は無加療で予後良好 (※Neonatal TSS like exanthematous disease) TSST-1が原因 | スーパー抗原とは別にM蛋白という蛋白も 好中球を活性化し病態に関与 |
特にTSSよりもTSLSが予後不良であることと、外毒素やスーパー抗原の種類は押さえておくのが良さそうです。
新生児のTSS(NTED)については2013年度の第19問の誤答選択肢として出題されています。NTEDは1994年に日本から初めて報告された疾患であり、セミナリウムでは次のように記載されています。
1994 年高橋らによって原因不明の早期新生児期の発疹症として報告された.新生児早期の発症で発熱,発疹,血小板減少を特徴とする.その後黄色ブドウ球菌のコロナイゼーションにより産生されたTSST-1 によることが明らかにされ,新生児のTSS としてNTED の疾患名で報告された.
山﨑修. “4. 毒素関連皮膚細菌感染症.” 日本皮膚科学会雑誌 130.11 (2020): 2367-2372.
日本発の情報は出題されやすい傾向にあり、今後も出題が予想されます。
参考文献
いかがでしたか?
正答選択肢である3は市中感染型MRSA(CA-MRSA)のPVLに関する出題でした。2019年に改訂された「MRSA感染症の治療ガイドライン」はウェブサイトで公開されており皮膚・軟部組織感染症の関連ページは目を通しておいてもよいかもしれません。。
- 濱田利久. “3. ブルーリ潰瘍.” 日本皮膚科学会雑誌 124.1 (2014): 23-26.
- 石井則久. “1. 抗酸菌感染症.” 日本皮膚科学会雑誌 130.11 (2020): 2347-2354.
- Low, Donald E. “Toxic shock syndrome: major advances in pathogenesis, but not treatment.” Critical care clinics 29.3 (2013): 651-675.
- 沢田泰之. “1. 緊急対応が必要な皮膚感染症 (壊死性筋膜炎など).” 日本皮膚科学会雑誌 124.9 (2014): 1725-1734.
- 山﨑修. “4. 毒素関連皮膚細菌感染症.” 日本皮膚科学会雑誌 130.11 (2020): 2367-2372.
- MRSA感染症の治療ガイドライン 改訂版2019 公益社団法人日本化学療法学会・一般社団法人日本感染症学会 MRSA感染症の治療ガイドライン作成委員会 編
最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。
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