問題40.生魚の摂取により壊死性筋膜炎を生じるグラム陰性桿菌はどれか.2 つ選べ.
1. Aeromonas hydrophila
2. Bacillus cereus
3. Clostridium perfringens
4. Listeria monocytogenes
5. Vibrio vulnificus
実臨床の壊死性筋膜炎は診断も治療も難易度高めですが、専門医試験の壊死性筋膜炎は比較的易し目です。
近年のNEJMの総説(New England Journal of Medicine 377.23 (2017): 2253-2265.)や日皮会誌のセミナリウム(日本皮膚科学会雑誌 128.4 (2018): 575-579.)では、「壊死性筋膜炎」や「ガス壊疽」などを包括して壊死性軟部組織感染症(NSTI:Necrotizing Soft-Tissue Infections)という概念でまとめられることもあります。
まずは「壊死性筋膜炎」や「ガス壊疽」に関する2014年度以降の過去問をレビューします。
年度 | 番号 | 内容 |
2020 | 32 | 壊死性筋膜炎の検査の優先順位 |
2019 | 40 | 生魚関連の壊死性筋膜炎の原因菌(GNR) |
2018 | 28 | クロストリジウム性ガス壊疽の原因菌 |
2018 | 30 | LRINEC scoreの項目 |
2014 | 81 | 壊死性筋膜炎で優先する検査 |
「診断」・「検査」・「原因菌」が主に問われています。
また、次に示すLRINECスコアは出題のしやすさもあり、数値は難しくても全6項目の種類は頭に入れておく方がよさそうです。(13点満点、6点以上で疑い、8点以上で高確率)
項目 | スコア | 項目 | スコア |
CRP(mg/dL) | Na(mEq/L) | ||
<15 | 0 | ≧135 | 0 |
≧15 | 4 | <135 | 2 |
WBC(/μL) | Cr(mg/dL) | ||
<15,000 | 0 | ≦1.59 | 0 |
15,000-25,000 | 1 | >1.59 | 2 |
>25,000 | 2 | 血糖(mg/dL) | |
Hb(g/dL) | ≦180 | 0 | |
>13.5 | 0 | >180 | 1 |
11.0-13.5 | 1 | ||
<11.0 | 2 |
本問は、「原因菌」に関する出題でした。
この記事では、皮膚科専門医試験対策における壊死性軟部組織感染症(壊死性筋膜炎やガス壊疽)の原因菌について解説しています。
第40問 壊死性筋膜炎・ガス壊疽の原因菌【解答:1,5】
原因菌に関する問題は菌種名もさることながら「好気性/嫌気性」・「グラム陽性/陰性」・「球菌/桿菌」という観点で出題されています。グラム陰性球菌(GNC)は、各種総説で菌種が記載されていないので省きます。
壊死性筋膜炎 | グラム陽性球菌(GPC) | グラム陰性桿菌(GNR) |
非嫌気性 | S. aureus S. pyogenes(GAS) GAS以外のβ溶連菌 ーGBS ーGCS ーS. dysgalactiae subsp. equisimilis(GGS) | Aeromonas hydrophila Vibrio vulnificus Klebsiella pneumoniae |
ガス壊疽 | グラム陽性球菌(GPC) | グラム陽性桿菌(GPR) | グラム陰性桿菌(GNR) |
嫌気性 | 嫌気性連鎖球菌 (混合感染) | クロストリジウム ーC. perfringens ーC. septicum ーC. sordellii | Bacteroides fragilis (混合感染) |
非嫌気性菌 (混合感染) | 特定の菌の記載なし | 特定の菌の記載なし | Klebsiella pneumoniae 大腸菌 |
また、それぞれの「菌種」と「関連する病歴」についても過去の誤答選択肢として出題されています。(2018年には基礎疾患を肝硬変とするかを問う誤答選択肢が出題。)
菌種 | 関連する病歴 |
Aeromonas hydrophila | 淡水曝露 |
Vibrio vulnificus | 海水曝露 肝硬変+生ガキ |
S. pyogenes | 表面に傷のない「筋挫傷、捻挫」 |
混合菌感染 | 粘膜の損傷 糖尿病+末梢血管疾患(PAD) |
C. septicum | 好中球減少症 結腸癌を含む結腸病変 |
S. pyogenes C. perfringens C. sordellii | 妊娠、出産、中絶、産科的処置 |
実臨床では、広域スペクトラムの抗生剤を開始し、培養結果判明後にde-escalationすることが多いため菌種を想定して治療にあたることは少ないかもしれません。
また、菌のエントリー(侵入口)の有無でNSTIを分類する場合もあり、以下のような割合です。(2018年のクロストリジウム性ガス壊疽に関する問題の誤答選択肢として出題されています。)
侵襲性GAS軟部組織感染症 | クロストリジウム性ガス壊疽 | |
エントリーあり | 50% | 70% |
エントリーなし | 50% | 30% |
GASによるNSTIの半数でエントリーがない、というのは注目ポイントかもしれません。
参考文献
いかがでしたか?
見慣れない菌種もあるかもしれないので、ひとまず目に触れておくだけでもよいかもしれませんね。
ちなみに、本問の誤答選択肢はいずれもグラム陽性桿菌(GPR)なのでそれだけでも正答にはたどり着けたかもしれません。
多くのNSTIの総説では微細な傷への淡水や海水の曝露によってAeromonas hydrophila/Vibrio vulnificusによる壊死性筋膜炎が発症するとされており、魚介類の摂取はVibrio vulnificusでのみ特徴的とされていますが、日皮会誌ではAeromonas hydrophilaも同様とする報告があり、特に肝硬変患者では魚介類の生食をしないように注意喚起されています。(日本皮膚科学会雑誌 110.5 (2000): 815.)
- Stevens, Dennis L., and Amy E. Bryant. “Necrotizing soft-tissue infections.” New England Journal of Medicine 377.23 (2017): 2253-2265.
- 盛山吉弘. “2. どこまで切除する? 壊死性筋膜炎とガス壊疽の緊急デブリードマン.” 日本皮膚科学会雑誌 128.4 (2018): 575-579.
- Wong, Chin-Ho, et al. “The LRINEC (Laboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitis) score: a tool for distinguishing necrotizing fasciitis from other soft tissue infections.” Critical care medicine 32.7 (2004): 1535-1541.
- 沢田泰之. “1. 緊急対応が必要な皮膚感染症 (壊死性筋膜炎など).” 日本皮膚科学会雑誌 124.9 (2014): 1725-1734.
- Stevens, Dennis L., et al. “Practice guidelines for the diagnosis and management of skin and soft tissue infections: 2014 update by the Infectious Diseases Society of America.” Clinical infectious diseases 59.2 (2014): e10-e52.
- 盛山吉弘. “3. レンサ球菌による皮膚軟部組織感染症.” 日本皮膚科学会雑誌 130.11 (2020): 2361-2366.
- 立山直, et al. “Aeromonas 壊死性軟部組織感染症―本症重篤化機序についての一考察―.” 日本皮膚科学会雑誌 110.5 (2000): 815.
最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。
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