問題13.メラニン合成について正しいのはどれか.
1. トリプトファンから合成される.
2. ケラチノサイト内で合成される.
3. 律速酵素はDHICA oxidaseである.
4. 多くの日本人はフェオメラニン優位である.
5. 二重膜構造のメラノソーム内で合成される.
メラノサイトとメラニンについての出題は、2015年度の第9問にもみられており、今後も出題される可能性があるように思います。
どうやら、メラニンの生合成がおこなわれる「メラノソーム」は、東北大学の清寺 眞(せいじ まこと)先生が発見し命名したようです。「日本の皮膚科医なら知っとけよ!」というメッセージなのかもしれませんね。(僕は知りませんでした汗)
この記事では過去問を踏まえて「メラニンの生合成」、「メラノサイトの分布・密度・男女差」、「メラノソームのstage」、「ユーメラニンとフェオメラニンの割合」、について考察しています。
ユーメラニンとフェオメラニンの人種間の違いは論文によって議論が分かれるように思いますが、好んで出題されていますので専門医試験的意見を理解しておくことが必要かもしれません。
第13問 メラニンの合成【解答:5】
メラノソームは脂質二重膜で囲まれた細胞内小器官であり、メラニンの生合成はこの中でのみ行われる。
あたらしい皮膚科学 第2版 P11
という記載がある通り、解答は5と考えられます。
他の選択肢も考察してみます。
メラニンの生合成
メラニンの生合成の生合成過程です。次の二点は、本問の解答に必要な知識ですね。
- チロシンが材料
- チロシナーゼが律速酵素(あたらしい皮膚科学 第2版 P11より)
ちなみに、選択肢3の「DHICA oxydase」は、ユーメラニン産生に必要な酵素です。
今後どの程度の知識を求められるかはわかりませんが、この図の経路のものは出題される可能性がありそうです。。(全部覚えるのは結構つらそうです。。)
メラノサイトの分布・密度
ROOKには以下の記載があります。ふ~ん、という感じでみておくのでよいと思います。
Racial and ethnic differences in skin colour are related to the number, size, shape, distribution and degradation of melanin‐laden organelles called melanosomes.
(人種間で、メラノサイトの数はかわらないが、メラノソームの数・大きさ・形・分布・分解が異なる)The number of melanocytes in the skin varies according to the body location.
(部位によってメラノサイトの数は変わる。顔に多く上肢に少ない。基本的にメラノサイトの密度は露光部は非露光部の2倍高い。)A reduction in the number of melanocytes occurs with ageing, with a decrease in melanocyte density of about 6–8% per decade.
(10年で6-8%ずつメラノサイトの数は減少する)Racial differences in melanocyte morphology and function are apparent, but there is little interracial variation in the density of melanocytes at a particular skin site. Ultrastructural studies have shown that melanosomes in white skin are small and tend to be in membrane‐bound complexes of three or more within the keratinocyte [97]. The ellipsoidal melanosomes of Aboriginals and black people are larger, about 1 μm in length, and tend to be distributed as singlets rather than being aggregated. These larger melanosomes can be found intact in the stratum corneum.
Rook’s Textbook of Dermatology 9th Chapter 88: Acquired Pigmentary Disorders SKIN PIGMENTATION AND THE MELANOCYTE
(人種間の色の違いはメラノソームの大きさが関連する。)
ほかにも、男女でのメラノサイトの密度の違いが過去に出題されており、これについては
「露光部の皮膚では男性の方が女性よりメラノサイトの密度多い」(Hendi, Ali, et al. “Melanocytes in nonlesional sun-exposed skin: a multicenter comparative study.” Journal of the American Academy of Dermatology 65.6 (2011): 1186-1193.)
という報告や、
「男女間でメラノサイトの密度の差はない」、とする報告もあります。(Cochran, Alistair J. “The incidence of melanocytes in normal human skin.” Journal of Investigative Dermatology 55.1 (1970): 65-70.)
男女間のメラノサイトの密度については、2015年度の第9問で出題されていますがどちらが正しいとするかは意見がわかれるかもしれません。(消去法的で考えると、専門医試験委員会的には「後者=メラノサイトの密度は男女で同じ」、を採用しているようです。)
メラノソームのstage
メラノソームは、4つのステージに分けられ、stageⅣとなり成熟すると微小管上をダイニン・キネシンといった蛋白とともに細胞膜まで移動します。
この4つのステージは、図のように電子顕微鏡の形態によって分けられています。
stage Ⅰ | 核の周囲に出現。まだメラニン産生なし |
stage Ⅱ | 特有のfibrillar matrixを形成。まだメラニン産生なし |
stage Ⅲ | fibrillar matrix(シート状構造・層板状骨格)にメラニン沈着開始。 |
stage Ⅳ | メラニン沈着で満たされた状態。 |
過去問にも出題されていますので、
fibrillar matrix(シート状構造・層板状骨格)を形成するのが、stage Ⅱ
メラニン産生が開始されるのが、stage Ⅲ
と覚えておくのがよさそうです。
ユーメラニンとフェオメラニンの割合
メラニンは、黒色の「ユーメラニン」と、黄色の「フェオメラニン」に分けられます。
「人の皮膚では、どんな人種でも『フェオメラニン』が検出されるが、『ユーメラニン』は常に優勢」、という総説(Ito, Shosuke, and Kazumasa Wakamatsu. “Quantitative analysis of eumelanin and pheomelanin in humans, mice, and other animals: a comparative review.” Pigment cell research 16.5 (2003): 523-531.)はありますが中身をみると少し疑問がある記載で、ほかに人種間のユーメラニンとフェオメラニンの比率を明確に示唆する論文は見つけられませんでした。(著者の伊藤 祥輔先生と若松 一雅先生の論文は、この記事作成過程で多数目にしました。メラニン研究の大御所の先生みたいです。知りませんでした汗。)
髪の毛では、多くの論文で「赤毛」は『フェオメラニン』が優勢とされています。
ブロンド(金髪)では、「『ユーメラニン』が優勢」とする意見(Ito, S., and K. Wakamatsu. “Diversity of human hair pigmentation as studied by chemical analysis of eumelanin and pheomelanin.” Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology 25.12 (2011): 1369-1380.)と「『フェオメラニン』が優勢」とする意見(Nasti, Tahseen H., and Laura Timares. “MC 1R, Eumelanin and Pheomelanin: Their role in determining the susceptibility to skin cancer.” Photochemistry and photobiology 91.1 (2015): 188-200.)があるようですが、過去問考察では、「金髪でもフェオメラニンが優勢」というのが専門医試験委員会の意見のようです。
本問の4の選択肢はやや不適切で、「皮膚」のことなのか「毛髪」のことなのかの記載がありません。。(怒)
日本人の毛髪なら間違いなく「ユーメラニン」優位です。仮に皮膚なら、議論は分かれますが、大御所先生の意見(Ito, Shosuke, and Kazumasa Wakamatsu. “Quantitative analysis of eumelanin and pheomelanin in humans, mice, and other animals: a comparative review.” Pigment cell research 16.5 (2003): 523-531.)を採用すると「どんな皮膚でも『ユーメラニン』優位」なので、いずれにしても誤りということでしょうか。。
いまのところ、専門医試験委員会的には、「多くの日本人はユーメラニン優位」と覚えておいて損はないと思います。
参考文献
いかがでしたか?
今回の出題自体は、比較的簡単でしたが、今後難問(奇問)となる類題が出題される予感もあります。せめて過去問の内容は押さえて試験にのぞみたいところですね。
- あたらしい皮膚科学 第2版
- あたらしい皮膚科学 第3版
- Rook’s Textbook of Dermatology 9th Chapter 88: Acquired Pigmentary Disorders SKIN PIGMENTATION AND THE MELANOCYTE
- Hendi, Ali, et al. “Melanocytes in nonlesional sun-exposed skin: a multicenter comparative study.” Journal of the American Academy of Dermatology 65.6 (2011): 1186-1193.
- Cochran, Alistair J. “The incidence of melanocytes in normal human skin.” Journal of Investigative Dermatology 55.1 (1970): 65-70.
- Kushimoto, Tsuneto, et al. “The melanosome: an ideal model to study cellular differentiation.” Pigment Cell Research 16.3 (2003): 237-244.
- Ito, Shosuke, and Kazumasa Wakamatsu. “Quantitative analysis of eumelanin and pheomelanin in humans, mice, and other animals: a comparative review.” Pigment cell research 16.5 (2003): 523-531.
- Nasti, Tahseen H., and Laura Timares. “MC 1R, Eumelanin and Pheomelanin: Their role in determining the susceptibility to skin cancer.” Photochemistry and photobiology 91.1 (2015): 188-200.
- Ito, S., and K. Wakamatsu. “Diversity of human hair pigmentation as studied by chemical analysis of eumelanin and pheomelanin.” Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology 25.12 (2011): 1369-1380.
最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。
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