皮膚科の「外来」手術の算定【専攻医1年目に必須の知識】

皮膚科の保険算定

 皮膚科専攻がはじまると、多くの場合、大学病院などの大病院に勤務するようになりますよね。大学病院では毎週のように手術をおこなうところもあります。

 初期研修医の間は保険算定のことを気にする余裕がなかったりしますが、

 専攻医になると、「じゃあ、手術登録しといてね~」と上級医からいきなり皮膚科の手術の保険算定の入力を頼まれることもあります。

 間違った方法で算定すると査定医療機関が診療報酬を受け取れない)されることもあります。仕事をした分の成果が得られないのは残念なことです。

 上級医の先生と確認しながらできればいいですが、余裕をもって業務を進めるためにも正しい算定方法を押さえておきたいですよね。

 そこで今回は、主に「外来」でおこなわれる手術について

  • 皮膚科の手術の保険算定ってどんな種類があるの?
  • 切り傷の縫合は何で算定するの?
  • 膿瘍の切開はどうやって算定するの?
  • いろんな皮膚腫瘍があるけど、保険算定ではどう区別するの?
  • 爪の手術の算定ってどんなのがあるの?

 といった疑問をお持ちのかたへ!

 この記事では、皮膚科の「外来」手術の保険算定について解説しています。

注意
この記事では主に外来でおこなう手術について解説していますが、
大きさなどの個々の状況によっては入院でおこなわれるものも含みます。

皮膚科の外来手術の算定【専攻医1年目に必須の知識】

皮膚科の外来手術の算定【専攻医1年目に必須の知識】

 今回は、外来レベルでよくおこなわれる手術の算定を上記の6種類にわけてご紹介します。

 次の表は、平成30年度の全国の外来手術の算定件数のランキングです。(項目は当時のもの)

順位平成30年度 外来手術 件数ランキング件数
1創傷処理(筋肉、臓器に達しない)(長径5cm未満)768,464
2皮膚切開術(長径10cm未満)619,305
3皮膚、皮下腫瘍摘出術(露出部)(長径2cm未満)391,120
4皮膚、皮下腫瘍摘出術(露出部以外)(長径3cm未満)241,435
5創傷処理(筋肉、臓器に達しない)(長径5cm以上10cm未満)106,678
6皮膚、皮下腫瘍摘出術(露出部)(長径2cm以上4cm未満)98,678
7創傷処理(筋肉、臓器に達する)(長径5cm未満)87,280
9陥入爪手術(簡単) 86,391
11爪甲除去術48,789
18皮膚悪性腫瘍切除術(単純切除) 14,900
厚生労働省 第5回NDBオープンデータ K手術より

 表をみてもわかる通り

創傷処理」・「皮膚切開術」・「皮膚、皮下腫瘍摘出術

 の3つは特に算定機会が多く重要なので、「6種類も多くて大変!」というかたは、この3つだけでもポイントを押さえておきたいところです。

 では早速、それぞれどのような場面で算定するのか見ていきましょう。

外傷の縫合や膿瘍に対する切開排膿の算定【長径の定義が大切】

外傷や膿瘍に対する縫合や切開排膿の算定

 皮膚科の外来手術の算定件数トップ2の「創傷処理」と「皮膚切開術について、解説していきます。

 どちらも「長径」によって算定項目が分類されていますが、「長径」の定義がそれぞれ違う点を理解しておく必要があります。

「長径」の定義
創傷処理傷同士が近い場合:縫合した傷の長さの合計
傷同士が離れている場合:それぞれの縫合した傷の長さを別々に算定
皮膚切開術切開する「膿瘍」などの大きさの長径 
皮膚を切開した長さではない

創傷処理【ケガを縫うときの算定!3ステップで解説】

K000 創傷処理
 1 筋肉、臓器に達するもの(長径5cm未満)
 2 筋肉、臓器に達するもの(長径5cm以上10cm未満)
 3 筋肉、臓器に達するもの(長径10cm以上)
  イ 頭頸部のもの(長径20cm以上のものに限る。)
  ロ その他のもの
 4 筋肉、臓器に達しないもの(長径5cm未満)
 5 筋肉、臓器に達しないもの(長径5cm以上10cm未満)
 6 筋肉、臓器に達しないもの(長径10cm以上)

1,400点
1,880点

9,630点
3,090点
530点
950点
1,480点

 「創傷処理」は皮膚科の外来手術の算定件数トップの手術料です。
 「筋肉、臓器に達しない、長径5cm未満」の創傷処理だけでも外来で年間77万件行われています。

 では、創傷処理とはどのようなことをおこなったときに算定できるのでしょうか?

 ずばり「創傷処理」とは「切り傷(切創)」や「ケガで挫滅した傷(挫創)」などを縫う手術を指します。

よく似た名前の「創傷処置」にご注意を

「創傷処理」と名前がよく似たものに 処置料の「創傷処」 があります。

 創傷処置は「傷に対して 洗浄や軟膏処置 、包帯保護を行った場合」に算定するものです。

 創傷処理とは全く違う項目であり、点数も創傷処理の方が1桁高いので間違って算定しないように注意しましょう。

J000 創傷処置
 1 100平方センチメートル未満(
 2 100平方センチメートル以上500平方センチメートル未満(
 3 500平方センチメートル以上3,000平方センチメートル未満
 4 3,000平方センチメートル以上6,000平方センチメートル未満
 5 6,000平方センチメートル以上

52点
60点
90点
160点
275点

「創傷処『置』」算定の注意点についてはこちらをご覧ください。

 「創傷処『理』」は、針と糸(もしくは「ステープラー」)をつかって傷を縫合する場合にのみ算定できます。

step1 筋肉、臓器に達するか【深さではなく処理があるか】

 傷を縫うときに創傷処理を算定するというのはわかりましたね?

 創傷処理の算定は、次に、傷が「筋肉、臓器」に達するかどうかで分類されます。

 ここでの「達する」かどうかは、単に深さで決まるものではなく「筋肉や臓器に対する処理の有無で決まり、筋肉や臓器の処理をしている場合のみ「筋肉、臓器に達する」創傷処理で算定できます。

step2 創傷処理の「長径」の定義【傷同士の場所関係で長さの計算が異なります】

 臓器に達するかどうかで分類した後は、大きさによって算定項目が変わります。

 傷の大きさは、「ひらいた傷の長さ(長径)」によって分けられます。

 「長径」の定義は傷同士が「近い場合」と「離れている場合」で次のように計算します。

傷同士が近い場合:「縫合した傷の長さの合計」で算定
手と足など傷同士が離れた傷がある場合:それぞれ縫合した長さを別々に算定

step3 真皮縫合加算とデブリードマン加算【基礎点に加えて算定できるか確認!】

真皮縫合加算460点
デブリードマン加算100点

 「筋肉、臓器に達するか」・「長径はどれくらいか」で1-6までのどれを算定するかが決まりました。

 「創傷処理」にはそれらの基礎点に加え、「真皮縫合加算」・「デブリードマン加算」の2種類の加算を算定できることがあります

真皮縫合加算【指を除く露出部でのみ算定可能】

 「真皮縫合加算」は「露出部」の傷に「真皮縫合」を行った場合に追加で460点を算定できる加算です。「真皮縫合」は「埋没縫合」と呼ぶこともあり「傷同士が離れる力に抵抗(抗張力)」し「死腔を埋める」ためにおこなわれます。

 真皮縫合加算は「露出部」以外では算定できません。
「露出部」の定義について押さえておきましょう。

<手術料での「露出部」>
頭頸部」・「上肢の肘から先(手を含む)」・「下肢の膝から先(足を含む)

 この「露出部」の定義は、「創傷処理」だけではなく、手術料全体に通じるものなのでとても重要です。

 また、診療報酬には記載されていませんが保険の審査をおこなう「社会保険診療報酬支払基金」が公開している「審査情報提供事例」によると、

指については真皮縫合加算を認めない

 と定められています。

 指は、先ほどの定義からすると「露出部」にあたります。

 これは別にいじわるをしているわけではなく、次のような理由があります。

皮膚は、表面より表皮・真皮に分けられ、真皮には血管・神経(知覚神経)・筋肉(起毛筋)・皮脂腺・毛根が存在する。表在感覚(知覚)が不可欠な指において、この部分の損傷や瘢痕形成は可及的最小限にするべきであり、真皮層に瘢痕を遺残する真皮縫合はむしろ有害である。指の背側面においては、真皮層が薄く真皮縫合は手技上不可能である。指の手術に際しては、特に手掌面において知覚障害の発生を防止するとともに、極力瘢痕拘縮を残さないことが重要である。

社会保険診療報酬支払基金 ウェブサイト  審査情報提供事例 (医科) 手術 33 真皮縫合加算③(指)https://www.ssk.or.jp/shinryohoshu/teikyojirei/ika/shujutsu/jirei33.html

 指で真皮縫合加算を算定しても基本的に査定されるだけなので、このことは覚えておくとよいと思います。

デブリードマン加算【局所麻酔の使用が必須】

 ふたつ目の「デブリードマン加算」は、汚染された傷に対して「縫合前に傷をきれいにする処理」をおこなうことで算定できます。

 「局所麻酔を使用してブラッシングをおこなったり汚染組織を切除した場合」に100点を追加で算定できる加算です。

 屋外で受傷した際などは、傷が土などで汚れている場合も多くデブリードマンが必要ならもれなく算定したいところです。

皮膚切開術【皮下にたまった膿を出す手術の算定】

K001 皮膚切開術
 1 長径10センチメートル未満
 2 長径10センチメートル以上20センチメートル未満
 3 長径20センチメートル以上

640点
1,110点
2,270点

 「皮膚切開術」は「皮下にたまった膿」を「外に出すために皮膚を切る」手技です。

 手術室ではなく、外来の診察室で行われることも多いですが「処置料」ではなく「手術料」で算定します。

皮膚切開術の「長径」の定義【皮膚を切る長さではなく膿瘍の大きさ】

 皮膚切開術は「長径」によって算定項目が分かれています。

 ただ、この「長径」の定義は「創傷処理」とは違っています

「長径」の定義
創傷処理傷同士が近い場合:縫合した傷の長さの合計
傷同士が離れている場合:それぞれの縫合した傷の長さを別々に算定
皮膚切開術  切開する「膿瘍」などの大きさの長径  
皮膚を切開した長さではない

 表のとおり、「皮膚切開術」では「膿を外に出す前の膿瘍の大きさ」によって「長径」を定義しています。「皮膚を切る長さ」ではありません。

 「長径」さえわかれば、どの項目で算定するのかは一目瞭然ですね。

皮膚腫瘍・皮下腫瘍の手術算定【良性・悪性で分類】

皮膚・皮下腫瘍に対する手術の算定

良性の皮膚腫瘍・皮下腫瘍の手術算定【露出部の定義は創傷処理と同じ】

K005 皮膚、皮下腫瘍摘出術(露出部)
 1 長径2センチメートル未満
 2 長径2センチメートル以上4センチメートル未満
 3 長径4センチメートル以上

1,660点
3,670点
5,010点
K006 皮膚、皮下腫瘍摘出術(露出部以外)
 1 長径3センチメートル未満
 2 長径3センチメートル以上6センチメートル未満
 3 長径6センチメートル以上12センチメートル未満
 4 長径12センチメートル以上

1,280点
3,230点
4,160点
8,320点

 「皮膚、皮下腫瘍摘出術」は「良性」の皮膚腫瘍・皮下腫瘍(「がん」以外のできもの)の手術の際に算定します。

 「露出部かどうか」と「大きさ」によって算定項目が分かれます。

 「露出部」の定義は、創傷処理で説明したように、手術料全体で同じです。

<手術料での「露出部」>
頭頸部」・「上肢の肘から先(手を含む)」・「下肢の膝から先(足を含む)

 「大きさ」については、明確な決まりはありませんが、切除・摘出した「検体」の長径で考えることが一般的だと思いますが、地域差や審査する医師の判断によって変わる可能性があります。場合によっては「腫瘍の大きさ」とする場面もあるかもしれません。(通常、傷跡をきれいにするため、腫瘍だけでなく周囲の皮膚もあわせて切り取り検体を提出します。)

 「光線角化症(日光角化症)」は、上皮内癌であり列記とした「悪性」ですが、地域によっては「良性」として「皮膚、皮下腫瘍摘出術」で算定することもあるので確認が必要です。

悪性の皮膚腫瘍に対する手術の算定【大きさや部位は関係ありません】

K007 皮膚悪性腫瘍切除術
 2 単純切除

11,000点

 皮膚の悪性腫瘍(がん)の手術で算定します。

 病名でいうと、外来手術では「ボーエン病」・「基底細胞癌」・「有棘細胞癌(ゆうきょくさいぼうがん)」がほとんどだと思います。

 皮膚癌のなかでも数の少ない「悪性黒色腫(ほくろのがん)」や「乳房外パジェット病」、「メルケル細胞癌」は、たいてい入院手術になると思います。

 「皮膚悪性腫瘍切除術」には「広汎切除」と「単純切除」の2種類がありますが、外来でおもに算定するのは「局所を切除する」のみの「単純切除」です。

 大きさに関わらず、「皮膚がんを局所の切除するだけ」の場合には「皮膚悪性腫瘍切除術 単純切除」で算定します。

 「広汎切除」や「センチネルリンパ節加算」については、入院手術の算定の記事で解説します。

爪に対する手術の算定【年間算定件数合計10万件以上】

爪に対する手術の算定

 爪に関する手術でよく算定するのは「爪甲除去術」と「陥入爪手術」の2種類です。

 「爪甲除去術」は年間4.8万件の算定があります。外来の診察室でも、おこなわれるかもしれません。
 「陥入爪手術」も「簡単なもの」だけで年間8.6万件の算定があり十分多いように思います。

 ほとんどの場合は「足の親指(母趾)」の爪に対する手術ですが、2種類とも各指趾ごとに別々に算定することができます。

爪甲除去術【手術料で算定するには局所麻酔が必須】

K089 爪甲除去術770点

 指 (趾) の手術は、たいていの場合「指(趾)の根元に局所麻酔薬を入れる『指(趾)ブロック』」という麻酔をおこなって手術をすることになります。

 手術料で算定する爪甲除去術は、基本的には爪切り(またはグラインダー処置)と同じですが、麻酔を使用しておこなう場合にのみ算定できます。

 「麻酔が必要なほど強い痛みが予想される」深い爪切りをする場合に限られる、という理解でよいと思います。

 麻酔を使用しない場合には、処置料の「爪甲除去」で算定するという決まりがあります。
 処置料の「爪甲除去」は、クリニックや200床未満の病院では算定できますが、200床以上の病院では初診時しか算定できません(再診時には再診料に含まれるため。)

皮膚科の処置(※外来診療料に含まれる項目)点数
J001-7 爪甲除去(麻酔を要しないもの)(※)70点

 爪甲除去(爪切り)は「爪白癬」や「陥入爪(巻き爪)」の治療で算定しますが、「麻酔の有無」で算定項目・点数が大きく異なることには注意が必要です。

陥入爪手術【私費治療の金額の目安にもなっています】

K091 陥入爪手術
 1 簡単なもの
 2 爪床爪母の形成を伴う複雑なもの

1,400点
2,490点

 陥入爪は「テーピング処置」などの保存的治療で改善することが多いです。

 ただ、足の親指の大きさに比して爪が大きい場合など手術をおこなう方が良いこともあります。

「簡単なもの」で算定できる手術には「ガタ―法」や「フェノール法が、
「複雑なもの」には「鬼塚法などがあります。

 もちろん地域の事情によってどの手術でどちらを算定するかが変わる場合もあるかもしれません。

 また、手術以外の陥入爪の治療として「超弾性ワイヤー」「VHO®」といった私費治療の選択肢もあります。

 費用は医療機関によって異なりますが「陥入爪手術 簡単なもの」に準じた金額(14,000円程度)に設定している所もあるようです。

まとめ

まとめ

 いかがでしたか?

 手術の算定ルールを押さえておけば業務もスムーズになり余裕が出てくると思います。少しでも参考になればうれしいです。

  • 創傷処理」・「皮膚切開術」・「皮膚、皮下腫瘍摘出術」は皮膚科の外来手術で特に件数が多い
  • 長径」の定義
「長径」の定義
創傷処理傷同士が近い:縫合した傷の長さの合計
傷同士が離れている:それぞれの部位ごとに算定
皮膚切開術  切開する「膿瘍」などの大きさの長径  
皮膚を切開した長さではない
皮膚、皮下腫瘍摘出術切除・摘出した検体の長径
or
切除・摘出した腫瘍の長径
  • 露出部」の定義について

<手術料の「露出部」>
頭頸部」・「上肢の肘から先(手を含む)」・「下肢の膝から先(足を含む)

  • 爪甲除去術は局所麻酔の使用がないと算定できない
  • 陥入爪手術は術式によって算定方法が異なる

そのほか皮膚科の保険算定についてはこちらでまとめています。

コメント

  1. プニお より:

    太った中高年の首によくできる1cmにも満たない小さい(縫合も不要な程の)軟性線維腫を剪刀で根っこから切除しただけでも、「頚部軟性線維腫」の病名で「 皮膚・皮下腫瘍摘出術(露出部)1:長径2センチメートル未満」で算定してしまって良いのでしょうか?
    もちろん地域にもよるかと思いますが、いつも疑問に思っておりましたので、ご教授の程お願い致します。

    • hihunaika hihunaika より:

      いつもコメントありがとうございます。
      局所麻酔薬を使用していないと、手術ではなく処置のうちの簡単なものとして扱われる可能性があります。
      処置料の通則の留意事項には、「3 浣腸、注腸、吸入、100平方センチメートル未満の第1度熱傷の熱傷処置、100 平方センチ メートル未満の皮膚科軟膏処置、洗眼、点眼、点耳、簡単な耳垢栓除去、鼻洗浄、狭い範囲の湿布処置その他第1節処置料に掲げられていない処置であって簡単なもの(簡単な物理療法を含む。)の費用は、基本診療料に含まれるものとし、別に算定することはできない。」というものがありますので、この場合には診察料に含まれてしまうかもしれません。
      ひとつひとつでも算定できるかもしれませんが、複数個を切除して合算して「露出部2cm未満」で算定するということもあるかもしれません。

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