医師の給料はなぜ高いのか?【勤務医・開業医の平均年収差 1500 万円の内訳を徹底考察】

キャリア
勤務医
勤務医

いやー、確定申告で毎年何十万も追加でとられるのはきついわー。

同僚
同僚

まあ、医者だと毎年のことだよね。
バイトしてるからでしょ?

勤務医
勤務医

ほんとはバイトなんかしたくないよ。
医者ってさ、もっと収入いいと思ってたんだけどなぁ。
贅沢がしたいわけじゃなくて、
お金のことを考えなくても仕事ができる環境がほしいだけなんだよね。

同僚
同僚

それはそうだけど、税金もあるししょうがないんじゃない?

勤務医
勤務医

そもそも病院で働いているひとの給料が、開業医より低いっていうのが気に食わないわ。
どう考えても、勤務医のほうが高度な仕事してるはずなのにな。

同僚
同僚

確かにねえ。なんでなんだろね。

勤務医
勤務医

専門性が関係ないなら、医者の収入って一体なんなんだろう?

勤務医の年収は平均 1400 万円で他の職種と比べて高い

勤務医の年収は平均 1400 万円で他の職種と比べて高い

医師の収入は一般的に高いと言われます。

職業別の年収ランキングをみてみると、令和 4 年度の医師の年収は 1428.9 万円と堂々 2 位にランクしています。

職業別の年収ランキングトップ 10
令和 4 年度賃金構造基本統計

でも、実際に病院に勤務する医師の実感としては 1400 万円が平均とは思えませんよね。
かくいう私も医師 8 年目時点では、常勤先からの給与が 1000 万円を超えたことは 1 回しかありません。

1400万円という数字に開業医が含まれていれば、納得できる方は多いでしょう。
しかし、このデータに開業医は入っていません。

出所は給与の統計からのランキングですから、開業医は含まない勤務医のみ(正確には10人以上の従業員のいる事業所の勤務医)のデータです。

若い医師にとって、勤務医の平均年収が1400万円というのは、さらに肌感覚から離れるでしょう。

そのわけが次のグラフ。
これは、勤務医の年収を年齢別にみたものです。

年齢別の勤務医年収(令和4年度)
令和 4 年度賃金構造基本統計

若手の医師の年収が低く抑えられているのに対して、35 歳以上の医師の年収は高くなっています。

さらに 45 歳以上の医師の年収は平均以上となり 70 歳以上になっても比較的高く維持されていることがわかります。

この事実から「医師の給料は確かに高いが、 35 歳未満の修業期間は平均以下に抑えられていて、 45 歳以上になってようやく平均水準を上回る」ということができそうです。

つまり、平均 1400 万円というのは、中堅以降の医師の年収に引っ張られているだけで、医師が若い間に高収入を得ることはカンタンではありません。

また、国策として社会保障費・医療費の削減が叫ばれる今、 35 歳未満の勤務医が今の 35 歳以上と同程度の年収を将来手に入れられるかどうかは不透明でしょう。

「医師は専門性が高いから収入が高い」とか「人の命を預かる仕事だから年収が高い」と主張するひともいるかもしれません。

確かに、現在の 35 歳以上の医師は経験豊富かもしれません。
ただ、高齢の勤務医が平均 1500 万円の収入を得ている理由として「専門性や知識の深さがあるから」と説明には違和感があります。

病院で四六時中ネットサーフィンをして悠々自適な高齢医師を私はみてきました。
大学病院で専門性高く医療に汗をかいている医師の給与が低いという現状も知っています。

このことからも、専門性の高さが年収につながっているとはとても思えません。

ならば、なぜ医師の年収は高くなっているのか。

それを知ることで、今の若手勤務医が将来の危機に対応するヒントが見えてきます。

なぜ医師の給料は高いのか?

なぜ医師の給料は高いのか?

なぜ医師の収入が高いのかを考えます。
まずは医師個人にお金が入ってくるまでの流れを確認しましょう。

大きく分けると「医療機関に入るお金」と「医療機関から医師に入るお金」の二つの流れがあります。

この二つが他業界・他職種よりも大きなお金の流れになっていれば、医師の年収は高くなるはずです。

  1. 医療機関に入るお金
    1. 患者さんが受診時に自己負担分のお金を医療機関に払います。
    2. 残額を健康保険が医療機関に払います。
    3. 医療機関は、患者さんと健康保険から受け取ったお金で日々の運営をやりくりします。
      わかりやすいのは、医療機関で使用する薬や医療機器の購入です。
      そのほか、税金や病院を立て直す費用、借金の返済・利息の支払いにもあてられます。
  2. 医療機関から医師に入るお金
    1. 医療機関でのお金のやりくりのなかで給与を支払います。
    2. 医師や看護師などの職種別に給与が割り振られ、ようやく勤務医の手元にお金が入ってきます。

医業は利益を上げやすい

まずは、医療機関に入るお金(利益)が他業界よりも大きいのか考えてみます。

利益 = 売上 – 材料費(医薬品・医療材料)です。(厳密には利益ではなく粗利益)

売上 = ( 患者数 × 一人当たりの単価 ) / 医療機関数 ですから、

利益 =( 患者数 × 一人当たりの単価 )/ 医療機関数 – 材料費

と分解できます。

つまり利益が大きいということは、

  • お客さん(患者数)が多く
  • 一人当たりの単価が高く
  • 医療機関数が少なく
  • 材料費が少ない

ということです。

のべ患者数は年間 18 億人

患者数は、こちらの記事(外来患者多すぎ問題)で紹介した通りです。

日本は世界屈指の外来受診者数を誇っています。
2021 年度のデータでいうと、受診回数は年間 13.7 億回。
国民全員が毎月外来受診をしている計算です。(第 8 回 NDB オープンデータ 初診料+再診料+オンライン診療料の算定回数の合計)

入院についても、2022 年の 1 年間で、のべ 4.3 億人日入院実績があります。(2022 年医療施設調査 総病床数 157 万×病床利用率 75.3 %×365日)

ここでは、医療の需要は入院外来あわせて年間 18 億回とカウントしてみます。

需要が大きいほかの産業として、
人が生きていくのに欠かせない飲食業を考えます。

食事の観点でいうと、食事の需要は、
日本国民 1.2 億人が毎日3回、365日あることを考えると、年間 1300 億回です。

さすがに、医療の需要は食事単独には及びませんが、
飲食店を利用するのが平均週 1 回(令和元年国民健康・栄養調査より推測)と考えると、
飲食店利用は 1.2 億人 × 52 週 ≒ 60 億回です。

医療の需要が外食産業の約 3 分の1 というのは、結構多そうです。

単価は最低 700 円

数が多くても単価が少なければ全体的なお金は大きなものになりません。

患者さんの一人当たりの単価はどうでしょうか。

医療機関を受診すると最低でも再診料がかかります。
患者負担は 1 割負担で 70 円程度。病院は 700 円程度の収入を得ます。
つまり、最低単価が 700 円というわけです。

先ほどの飲食店の例でいうと、最近値上がりしているというものの、
一回の入店で最低金額が 700 円というのは飲食店からするとびっくりするのではないでしょうか。
たとえば、私は当直明けに吉野家の牛丼セットを食べることがあるのですが、その値段は 500 円ほどです。立ち食い蕎麦だとはもっと安いところもあるでしょう。

さらに、通常は処置料や処方箋料が加わります。

実際、皮膚科の外来の患者単価は 4000 円。(令和 4 年 社会医療診療行為別統計 診療科目別大分類)
すべての診療科の平均単価は 7700 円です。
比較的単価が低い皮膚科でも 4000 円が単価ということからは、全体的に医業の単価は高いといえるでしょう。

4000円のランチコースを注文する感覚で皮膚科を受診しているひとは、正直見たことがありません。(国民皆保険のおかげであることは間違いありません)
医療者も、4000円のランチコースを提供している感覚で対応しているひとは、開業医を除いてほとんどいないでしょう。

そもそも、なぜ単価が高いかというと「30分の診察が必要な難病でも、1分で片付いてしまう軽症でも診察料自体は同じだから」です。

軽症をみることが多い診療所では効率よく診察ができる一方、重症が多い病院では非効率になってしまうことは避けられません。

価格が一律になっているのは腑に落ちないかもしれませんが、
フリーアクセスを維持し、満遍なく「それなり」の医療サービスを受けられるようにしたい国にとって、診療所に花を持たせることは悪い話ではないのです。

11 万の医療機関で市場を分けあっている

全体のパイが大きくても、分ける人が多ければ取り分は少なくなります。

日本の医療機関数は 11 万ほど。
7000 の病院と10.5万 の診療所です。

そして近年、病院の数は減少傾向、診療所の数は増加傾向となっています。

国としては、入院期間を短くして入院できるベッド数を減らして医療費を抑え込もうとしています。
そのため病院数は減少傾向です。

1999年から2022年までの一般病院数の推移(医療施設調査)

一方の診療所は、
今のところ開業制限がありませんから、医師の数が増えるのにあわせて増加しています。

1999年から2022年までのクリニック数の推移(医療施設調査)
医療施設調査

問題は「これが多いのか少ないのか」。

13.7 億の外来患者を 11 万の医療機関で捌く(平均して1医療機関あたり年間 1.2 万人)のは、正直これだけでは多いのか少ないのかよくわかりません。

ですので、ここは、ほかの業種と比較してみます。
個人的に月に 1 回弱通っているヘアサロンで考えてみます。

理髪店・美容院は、統計によると 38 万事業所あります。(令和 4 年度 衛生行政報告例)

髪の毛の手入れの需要は、
15-69 歳で一人当たり平均年 4-5 回(美容センサス 2023 年)ということですから、
15-69 歳の人口を5500万人とすると、年 2.2 億回です。
全年齢でみても、2 倍の 4.4 億回程度でしょう。

こうみてみると、ヘアサロンの需要は外来医療(13.7 億回)の 3 分の 1 以下のようです。

医療施設とヘアサロンの1年間の1施設当たりの需要差
出所 令和 4 年度 衛生行政報告例・美容センサス 2023 年

理髪店・美容院だと 1 店舗あたり 年 1200 回(≒ 4.4 億回 / 38 万事業所)。
医療機関は 1 施設当たり 1.2 万人です。

ヘアサロンに比べると医療は圧倒的な寡占状態といえるでしょう。

背景としては、医師の希少性が考えられます。
1 つの医療機関には最低 1 人の医師が必要です。

医師の数が増えたとはいっても、他業種と比べるとまだまだ狭き門という状況に違いありません。

医業の粗利益は 75-80 % とほかのサービス業より高い

ここまでのところ、医業は需要が多く、単価が高く、引き受け手が少ないようです。そう考えると、医療機関には十分なお金が入りそうです。

とはいえ、利益を得るには、収入から支出を引かなければなりません。

しかし、こちらも問題なさそうです。
技術の原価はゼロだからです。

医業では、モノをつくるわけではありません。
第三次産業・サービス業という業態です。

医業では薬や医療機器をつかうことはありますが、
適切な薬を選んで処方したり医療機器を使って高度な治療をするのであって、
仕入れた材料を加工して売るわけではありません。
「モノを使う技術」への対価が診療報酬として設定されています。

となると、必然的に、売上に占める材料費の割合は少なくなります。

実際、医療経済実態調査(R4年度分)の損益計算書をみてみると、
収入に占める仕入れ値の割合は診療所・病院ともに 20-25 %。

売上から原価を引いた残り(粗利益)は 75-80 % です。

サービス業全体の粗利益は50%程度ですから、
医業がサービス業のなかでも、どれほど効率的に稼ぐことができるかは明白でしょう。

医業とサービス業の売上内訳の差(医療経済実態調査2023・法人企業統計調査2022)

そして、人件費(給料)は粗利益のなかから支出されます。

粗利益の割合が高いということは、「医療は構造的に給料を出す余力をつくりやすい」と考えることができそうです。

利益が医師にしっかり配分されている

「医療機関はほかの産業と比べてしっかり稼げそう」ということはわかりました。
とはいえ、お金が病院に入るだけで医師の手元に給料が入ってくるわけではありません。

「集めたお金がどう分けられているのか」みていくことにしましょう。

病院の人件費率は 74.4 % と産業全体と比べて高めになっている

医師の給料がよいということは、医療機関が稼いだお金の配分が多いはずです。

実際、病院の人件費率(粗利益に占める給与の割合)はほかの産業よりも高くなっています。

経済産業省の調査によると、
50 人以上の従業員をもつ法人全体の人件費率(労働分配率)は 50.7% であるのに対し、
病院では 74.4 %です。

粗利益に占める人件費の割合(医療経済実態調査2023・企業活動基本調査2021)

稼いだ利益の 70 % 以上が給与として配分されています。

本来は、病院の施設改修等の投資のために残しておくべき利益も人件費に消えている可能性があり、給与としてはしっかり配分されているようです。

「職種ごとの一人当たりの配分=年収」ですが、病院の職種別の給与は以下の通りです。

(医療経済実態調査2023)

病院長は特別としても、看護師やそのほかのスタッフと比べて、医師には多く配分されています。

利益への貢献度が高いため、医師には多くが分配される

では、病院で医師にお金が多く配分されるワケは何でしょうか。
病院の利益に対して貢献度が高いから」という理由がまず思い浮かびます。

「病院収益への貢献」という観点から深掘りしてみます。

病院において、医師の給料は「存在に対する対価」になっている

医療は一人当たりの単価が高い、と説明しました。

外来診療では軽症者から重症者まで、再診料は一律です。
軽症をみることが多い診療所は外来診療で数をさばけるため、経営上有利なのは明白でしょう。

一方の病院は、重症患者も一定いて、外来診療で収益を上げることはカンタンではありません。
国もそのことは理解していて、病院が主戦場となる入院診療は報酬が手厚くなっています
実際、病院の収益のうち 3 分の 2 は入院診療からの収入です。(医療経済実態調査2023)

みなさんご存じの通り、入院診療は基本的に包括評価となっています。
包括評価では、検査や処置、手術の量にかかわらず、1 日あたり○○円と金額が決まっています。

急性期医療での DPC が包括評価として真っ先に浮かぶと思いますが、
実は DPC 以外の「療養病棟や地域包括ケア病棟等」も包括評価の対象です。

ここでは DPC での入院診療報酬がどのように決まるのか、具体的にみていきます。

DPC の制度では、1 日あたりの単価が決まっていると説明しましたが、
実はすべての病院で同じ単価になるわけではありません。
基本点数は一律であるものの、基本点数に病院ごとの係数をかけ合わせることで最終的な入院 1 日あたりの単価が算定されます。
この係数は病院の成績によって割り振られ、DPC 対象病院の係数は 1.06 -1.30 (7 割の病院は 1.10 – 1.16) に分布しています。
結果的に、係数の増減によって患者の 1 日あたりの単価が増減することになります。

令和5年度 第1回 入院・外来医療等の調査・評価分科会 令和5年度におけるDPC/PDPSの現況について

確かに、透明性や医療の質の基準を満たせばより高く評価されます。
そのため、従来の出来高制よりは改善された仕組みに見えます。

ただ、評価されるのは個別症例の医療の質ではなく、全体として数字に表れる部分のみです。

そのた、いくらエビデンスをつきつめた治療をしても、全体として一定以上であれば係数増加のための評価はそこまで変わらないともいえます。

つまり、「ある程度以上の質の医療であれば、それ以上は頑張らなくてもいいよ。」というメッセージが込められていると考えることができるのです。

この「ある程度以上」というのが研鑽を積んだ医師にとってみればレベルが低い水準であるかもしれません。
それでもどこかで線引きをしなければなりません。
現状では、それ以上の質があるとしても、評価されないのです。

病院としては、一定の質を超える医療を提供して係数を上げる努力をする場合もありますが、
変わったとしても 1.1 倍が 1.2 倍になるだけ(実際には億単位なので 0.1 倍の変化でも数千万円の収益差がでます)のように思えます。

だから、必要な努力量とそれで得られる収入を天秤にかけるわけです。

「できれば、良い係数をとりたいが、無理なら諦める。」
「そこまで医療の質をつきつめなくても、とりあえず治療にあたる医師がいてくれればそれでよい。」という考え方になる病院も出てくるでしょう。

治療をする医師がいれば、どんな内容だろうと、一定の点数が得られるわけです。

病院にとって大切なのは「医師が存在してくれること」であって、
「余分な手間を周囲にかけて、エビデンスをつきつめたがる医師」を守る理由はありません

こうなると、医師は「文句をいわずに、ただ言われたように働き、存在すればよいだけのヒト」としか認識されていない可能性があります。

もちろん、医師のなかには「患者さんのために最高の医療を提供したい」という向上心を持つ人もいるかもしれません。
それでも「最高の医療が相応の評価を受けるわけではない」ということを知っておいて損はありません。

だから、病院にとっての医師の価値は「存在してくれること」なのです。

開業という選択肢を防ぐために勤務医の年収を高くしている

そう考えると、病院が医師の年収を一定程度に保つ理由は「医師にやめられないようにする」というところにあります。

年収を上げるための最も古典的な進路は、やはり開業でしょう。

ここまでは、主に勤務医の給料を考えてきました。
開業医の収入はどのようになっているのでしょうか。

個人開業医の年収は 2900 万円

リスクをとって開業する以上、勤務医よりも収入が高くなることを望みたいですよね。

実際、個人開業医の年収は 2000 年以降、2500-3000 万円の間を推移しています。

医療経済実態調査

この収入の中から診療所の改修費等を捻出することになっているため、3000 万円すべてが自由に使えるお金というわけではありません。

それでも、勤務医の平均(1400 万円)より高いことは明白でしょう。

診療所の人件費率は 30 %

医療としての収入の得やすさは、診療所と病院ではあまり変わらないはずなのに、
医師個人の懐に入る金額が異なるのはなぜでしょうか。

なんなら、病院には入院診療があります。
1 日 1 病床の単価は DPC なら数万円といった具体。

収入を得るだけであれば、病院のほうがカンタンそうです。

であれば、開業医の収入が多い理由は、より多く稼いでいるからではないはずです。
つまり、分配の部分(=個人診療所の人件費率)にヒントがありそうです。

こちらは、先ほど一般病院と企業全体で比較した人件費の割合に、個人診療所を加えたものです。

粗利益に占める人件費の割合(医療経済実態調査2023・企業活動基本調査2021)

個人診療所の人件費率は 30 % 程度と企業全体よりも低く抑えられています

個人診療所の人件費には開業医個人の収入は含まれません。(個人開業医にとっては、医業収益から人件費等を支出した残りが収入となります。)

この結果からは、開業医は決して多く稼いでいるのではなく、
従業員に少なく分配し、残りを多く得ているということになります。

人件費を少なくすれば、より多く手元にお金が残ることになります。
分配を一定程度自由に決められる経営者の立場が収入を多さに直結しているともいえます。

開業医と勤務医の年収差は「リスクプレミアム」から「高度医療のやりがい」を引いたもの

勤務医の収入に話を戻します。

確かに開業医の収入は勤務医の給料よりも高いです。
しかし、医師全員が開業をしたがるわけではありません。

診療所でできないような「人手がいる複雑な手術」や
「大学で基礎研究」を極めたい人、「教授や部長職という権威性」が欲しい人は、
「勤務医のやりがい」を大きくとらえているため、開業することはないでしょう。

「開業して経営を考えるのが難しそうで不安だな」というひとも、
「開業時のリスク」を大きくとらえているため、開業しないでしょう。

つまり、収入差の内訳は「開業時のリスク」から「開業で失うやりがい」を引いたものと考えることができます。

開業医と勤務医の平均収入の差は、現状 1500 万円。
若い年次の場合には、その差は 2000 万円を超えるかもしれません。

もちろん、人によって「開業時のリスク」・「開業で失うやりがい」の大きさは変わってきます。
実際には「開業で得られるやりがい」もあるはずですが、勤務医時点でこれを実測することはカンタンではないと思います。

ただ、「病院勤務以外の選択肢を持てなければ、病院から安く買い叩かれてしまう」ということは知っておいて損はありません。

「勤務医としての現状の年収」と「開業医の収入」の差が妥当なものであるかを念頭においていれば、より納得感のある進路選択ができそうです。

専門性をあげても収入にはつながらない【なら、どうするか】

専門性をあげても収入にはつながらない【なら、どうするか】

勤務医には開業の自由があります

その観点からは、勤務医の収入の決定要因には

  • 開業医の年収
  • 開業時のリスク
  • 勤務医のやりがい

が関わっていそうです。

一定以上の医療を診療報酬で評価することができない以上、どれだけエビデンスに基づいた質の高い診療をしても、金銭的な報酬がアップするわけではありません。

つまり、専門性をあげることは、残念ながら収入アップにつながりません。

入院の診療報酬が包括されているため、病院の勤務医は一定以上の質があれば、
その人が存在しているだけで病院にとっての価値になります。
医師であればだれでもよい状況ともいえるのです。

もちろん、それが悪いわけではありません。
かつて先輩から「医師免許は、高学歴者が特権として得られる最低保障の収入だ」とショッキングな説を言われたことがあります。

病院勤務医は、場所を選べば、ほとんど何もしなくても一定以上の収入を得られる立場でもあります。(※「やりがい」と「収入」のバランスも考慮しなければ、やりがいなく、ただお金を稼ぐだけの人生になるのでオススメはしません。)

ただ、その背後では、一部の若手医師やその指導者に不相応なしわ寄せがいっています。

彼らは国が求める以上の高い基準で医療を実践しています。
彼らの水準が高いことは、良い面もあり、悪い面もあります。

確かに、彼らのおかげで医師全体の権威性は一定高いままですし、
国民は健康を意識しなくても一定以上の健康を維持することができます。

一方、過労死問題で明らかになったように「現状の医療は持続可能である」と手放しで言うことは難しいでしょう。

また、専門性をあげることで収入につながらないことに不満を覚える医師も多いかもしれません。

不満があるなら、まずは医師の収入の仕組み(診療報酬・医療制度)を理解するのがオススメです。
国が求める水準を知り、保険診療で評価される医療がどんなものか理解することができます。

そして不満の強さが行動するハードルを超えているなら、

  1. リスクをとって開業する(仕組みをハックする)か
  2. 専門性が評価される環境(基礎研究・自費治療)にいくか
  3. より良い仕組みを作る側(厚生労働省医系技官・起業等で保険診療の質を下げて自費の高度医療の産業をつくる)になる

ことを考えてみてもよいかもしれません。

いずれも勤務医を続けるよりは茨の道ですが、
そこにやりがいを見出せるならそれに越したことはありません。

できるだけ多くの優秀な医師が、不満なくキャリアを歩めることを祈っています。

では、よい医師ライフを!

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