明日の外来もパンパン。。
明日は金曜日だから、当日駆け込みも結構来そうね
憂鬱だ・・・
一般外来の患者さん多すぎ問題
「なんでこんなに毎日患者さんが来るんだろう」そう思ったことはありませんか?
- あなたが名医だから?
- そこがいい病院だから?
残念ながら、そうとも限りません。
そんなの知ってるよ。日本の医療制度のせいでしょ?
という人もいるかと思いますが、他国と比較するとそれだけではなさそうです。
説1: 「フリーアクセス・国民皆保険・現物給付」のせい説
というわけで、
一般外来の患者さんがパンパンになっている原因の最有力候補の登場です。
デデーン「日本の医療制度」!
「フリーアクセス・国民皆保険・現物給付」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
この 3 つは日本の医療制度の根幹をなす特徴です。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/iryouhoken01/index.html
厚生労働省「我が国の医療保険について」
- フリーアクセス・・・だれでもどこの医療機関を受診しても良い
- 国民皆保険・・・全国民が必ず健康保険に加入する義務がある
- 現物給付・・・後日にお金がではなく現物(医療サービス)で健康保険から支給される
とくに、このフリーアクセスによって自由に医療機関を選んで受診できることで外来患者多すぎ問題が発生しているというのがこの説の推しポイントです。
そりゃ、自由にいつでもどこでも受診できたら、みんな行くでしょ。
ところが、フリーアクセスを認めている国は日本だけではありません。
たとえば、フランス。
フランスは国民皆保険制度・フリーアクセス・現物給付をおこなっている国のひとつです。
G 7 の一員でもありますし、レベル的には日本と同じようなものと考えることができそうです。
ちなみに、
2023 年の GDP は、日本が 3 位でフランスが 7 位
1人当たりの GDP は、日本が 28 位でフランスが 23 位
と経済的にはほぼ同じレベルと考えられなくはありません。(出典:IMF World Economic Outlook database: April 2023)
財務省の資料によると「フランスとドイツはフリーアクセスあり」「イギリスはフリーアクセスなし」と理解されています。(フリーアクセスの定義はお金を払えばかかりつけ以外のどの医療機関でも受診できることとしています。)
令和5年度予算の編成等に関する建議 令和4年11月29日 財政制度等審議会 参考資料(2)
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20221129/04.pdf
ということで、フランスの外来もパンパンなのか?
調べてみました。
ChatGPT に「フランスの外来はパンパンですか?」と聞いてみてもちゃんとした答えは返ってきません。ここは、OECD の統計データを拝借します。
医師一人当たりの年間の診察回数なんてのを出してくれています。
OECD Health Statistics 2021
日本は 3 番目に多い 5011 回、フランスは 3 分の 1 強の 1880 回です。
国の経済レベルや医療制度はあんまり変わらんのに、外来パンパン度は日本の方が 3 倍高そうです。
細かい点を言えば、医療制度も少し違ったり(フランスはフリーアクセスだけど、かかりつけ以外を受診すると 7 割負担ぽい)します。
が、さすがにこのパンパン度は違いすぎます。
ちなみに、フリーアクセスについては日本でも大病院での選定療養費徴収が義務付けられるなど徐々に変化しつつありますよね。(フリーアクセスの定義もあいまいになりつつある)
というか、お隣の国、韓国の外来パンパン度はもっとやばそうで、やばそうで。。。(涙)
説2:日本人が医療機関好きすぎる説
あれやろ、医療制度のせいじゃないんやったら、人のせいやろ、日本人の気質の問題やろ?
あ、関西のかただったんですね。キャラ変わってますよ。
医療制度のせいだと思ってたのに、違いそうやないか、、、ということで、
つづいては「日本人が医療機関好きすぎる説」です。
個人的には、人生の先輩方(患者さん)がクリニックの前で井戸端会議開いてるのを学生時代に目撃して衝撃的でした。
「パイセン、ここは社交場やないんやで」そう思いながら社会保険料を払い続けております。
医者からみた外来パンパン度は先ほど見た通りですが、
患者さんから見た一人当たりの年間外来通院回数というデータも OECD ではご用意されております。
OECD Health Statistics 2021
韓国は断トツの 17.2 回、日本はそれに次ぐ 2 位の 12.5 回を記録しております。
日本人は平均して月 1 回受診しているということで、 OECD 平均(6.8 回)の 2 倍弱という数値をたたき出しています。
繰り返しますが、韓国のお医者さん、お疲れ様です。。
これだけ受診していたら、さぞ健康状態には満足しているのでしょう!
OECD の統計では自身の健康に対する評価に対するデータも取り揃えています。
きっと、韓国や日本ではこれだけ医療機関にかかれて満足している、と思うじゃないですか?
さあ、みてみましょう!
自身の健康状態が良い or とても良いと考える人の割合を。
OECD Health Statistics 2021
え、、、えーーー?
韓国が 33.7% で最下位、日本は 36.6% でブービーになってるじゃないですか。
何かの間違いですか???
医療者こんなに頑張ってるのにぜんぜん満足してもらっていない。。。
韓国と日本だけ異常に不健康な人が多いんでしょうか??確か日本って世界一の長寿ですよね?
OECD Health Statistics 2021
よかった~、間違ってなかった~。日本は安定の一位。
自分が忙しくしてる間に、日本の平均寿命が下がってきたのかと思っちゃったよ。
よかったよかった~
完全にキャラ崩れてますよね。
日本人は、たくさん受診して、平均寿命も良いのに、健康への満足度は低いわけです。
その根本にあるのは「健康に対する期待値が高い」説ではないでしょうか?
自身の健康に対する期待値が高いので、それを満たすために受診を沢山する(けど満たされていない)、という可能性は十分にありありそうです。
①健康への期待値が高い
↓
②今の健康状態では満足できない
↓
③健康で満足できないなら、医療機関に行くしかない
↓
④医療を受けても満足はできないけど、それ以外に方法がわからない(結果的に寿命は延びているが不満は残る)
こういう流れができているのではないかと思います。
それにより外来パンパン!、あると思います。
説3:医療機関が患者にやさしすぎる(労働者に厳しすぎる)説
でもさ、受診したいって言っても、そんな数見れないから断る、っていう方法もあるよね?
「断らない医療」というフレーズでよくテレビ番組が組まれてたりしますよね。
緊急性の高いものはもちろん「断らない救急システム」が妥当だと思います。
「心筋梗塞だー」って言ってるのに 2 週間後に来てくださいでは助かりませんから。
医療アクセスが制限されているイギリスだって救急は受診から 4 時間以内に方針決めましょうってしてますし。(出典:Handbook to the NHS Constitution for England)
問題は「2 週間前からの〇〇。」みたいなやつです。日本なら数時間待てば当日に専門医受診できちゃうんですよね。
ここで、さきほども出てきたフランスさんの登場です。日本同様、フリーアクセスと国民皆保険がある国でしたね。
ここでは 2018 年にフランス保健予防省が出している報告を見てみます。受診したいと思ってから専門医を受診するまでにかかる期間がまとめられています。
Millien C., Chaput H., Cavillon M., 2018, ” La moitié des rendez-vous sont obtenus en 2 jours chez le généraliste, en 52 jours chez l’ophtalmologiste”, Études et Résultats, DREES n°1085, octobre.( DeepL で翻訳)
皮膚科医の診察を受けようと思って受診できるまでの時間は「 61 日」です。
61 分じゃなくて、 61 日です。この違い、すごくないですか?
ということで外来パンパン問題の原因がまた 1 つ見えてきました。
緊急性考えるの無視して受診受けちゃう問題です。
これまで見てきたフランスと日本のデータをまとめてみましょう。
日本 | フランス | |
---|---|---|
1人あたりGDP1) | 28位 | 23位 |
平均寿命2) | 84.4 歳 | 82.9 歳 |
医師1人あたりの年間診察数2) | 5011 回 | 1880 回 |
患者1人あたりの年間受診数2) | 12.5 回 | 5.9 回 |
健康自己評価の良いまたはとても良いの割合2) | 36.6 % | 66.6 % |
皮膚科医の診察までの期間3) | < 1 日 | 61 日 |
1)World Economic Outlook database: April 2023
2) OECD Health Statistics 2021
3) Millien C., Chaput H., Cavillon M., 2018, ” La moitié des rendez-vous sont obtenus en 2 jours chez le généraliste, en 52 jours chez l’ophtalmologiste”, Études et Résultats, DREES n°1085, octobre.
フランスの外来も日本と同様に、医療行為をやればやるほど診療報酬が増える出来高制を採用しているんですが、労働に対する考え方が違うようです。
できるだけ決まった時間で決まった人数を診察することでフリーアクセスだけど需給バランスを取るように心がけているわけです。
同じ人数を 1 日で見るのと 3 日で見るのとでは労力が違うというのは当然です。
もちろん、患者さんにとっては便利で助かるのですが受診のハードルを下げているのは間違いありません。
その上日本では、労働法規を遵守しようというマインドが乏しく「患者さんのためであれば医療者はどんなに辛くても頑張れ!」という構図になりがちです。
日本で運営する以上、法律は守って欲しいんですが「医療は聖域」と言わんばかりに法律を守らないというのが問題です。さらには働いている人の中にも「持続可能性という概念が少なく、今ひたすらに頑張ることを良しとする」価値観の方もいて現場が疲弊するという訳です。
日本で暮らしていく以上、「日本の法律を守った上でやりたいことをやる」という考え方は受け入れてもらいたい価値観なのですが、まだ時間がかかりそうです。
2024 年 4 月から始まる「医師の働き方改革」でまずは形から変わっていくことを期待したいです。
結局、制度も人も医療機関も全部関係してるっぽい
一般外来の患者さん多すぎ問題の原因について考察してみました。
僕自身はてっきり、医療制度のせいだけかと思っていたんですが、
数字をみていったり、他国と比較してみるとフリーアクセスのせいだけではなさそうですね。
すぐに受診できるというのは患者さんにとっては一見メリットがありそうですが、
自身の健康について医療者に依存してしまいがちです。
結果的にヘルスリテラシーが養われず、ドクターショッピングを繰り返すことになればあまり幸せとは言えませんよね。
要因はさまざまあれど、結果的に日本では医療に対する期待値が高くなっています。
理想が不合理に高すぎればどんなに最先端の診療でも満足感を得ることはむずかしくなりますよね。
現場の医療者にしてみれば、頑張ってるのに報われない。こんなにつらいことはありません。
医療に対する期待値を事前に調整することが、
患者さんをはじめとした関係者の幸せにつながると思っています。
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