問題39.76 歳の男性.慢性リンパ性白血病でシクロフォスファミド内服中.1 か月前より右手背に皮疹が出現(図7a).病理組織所見(PAS 染色,図7b),培養所見(図7c),スライドカルチャー所見(図7d)を示す.考えられる疾患はどれか.
1. Chromomycosis
2. Cutaneous protothecosis
3. Paracoccidiomycosis
4. Phaeohyphomycosis
5. Sporotrichosis
免疫不全患者の真菌症、ということ以外は画像一発問題です。
菌種ごとにスライドカルチャー像を暗記することはかなり厳しいですが、真菌の形態の雰囲気だけでもなんとか対応できるようにしたいところです。
本問の黒色菌糸症は、日皮会雑誌のセミナリウム(日皮会誌:131(6),1497-1501,2021)で解説されています。
セミナリウム著者の佐藤先生は重要な深在性皮膚真菌症の暗記法として”AC PPPS MD”というゴロを提唱されており2017年に報告しています。(Medical mycology journal 58.2 (2017): E71-E77.)
本問選択肢の1つであるprotothecosisも含まれており、これらの深在性皮膚真菌症は今後とくに出題の可能性がありそうです。
この記事では黒色菌糸症を中心として皮膚科専門医試験での深在性皮膚真菌症の画像について解説しています。スポロトリコーシスはまた別の記事で解説予定です。
第39問 黒色菌糸症【解答:4】
2019年度の第36問で解説したように、黒色菌糸症は黒色真菌症の一型です。
皮膚真菌症診療ガイドライン2019には、黒色菌糸症の菌種はExophiala xenobioticaとE. dermatitidisの2種しか記載されていませんが、上記セミナリウムによるとたくさんあるようです。
これらに含まれる菌種としては
佐藤友隆. “1. 深在性皮膚真菌症の多様性.” 日本皮膚科学会雑誌 131.6 (2021): 1497-1501.
アルテルナリアAlternaria,ビポラリスBipolaris, ワンギエラWangiella ,フォンセケアFonsecaea ,クラドフィアロフォラCladophialophora,クルブラリアCurvalaria ,エクソフィアラExophiala, フィアロフォラPhialohporaなどがある。
全て覚えるのはなんとも厳しいですね。。。
ただ、同セミナリウムにも記載がある通り、臓器移植患者での深在性皮膚真菌症で最も頻度が高いという報告(Journal of the American Academy of Dermatology 83.2 (2020): 455-462.)もあり黒色菌糸症の重要度が伺えます。
とはいえ、今回の診断は画像一発です。
黒色菌糸症の病理画像を種々の教科書から引用しておきます。
また、スライドカルチャーでは菌体内にメラニン顆粒がみられる、という点も鑑別点かもしれません。
専門医試験で重要な深在性皮膚真菌症【AC PPPS MDとは?】
上記のセミナリウムの著者である佐藤先生が独自に考案し報告したAC PPPS MDという重要な深在性皮膚真菌症のゴロ合わせ。
“A Cutaneous lesion of Pustulosis Palmaris et Palantalis Should be examined by MD.”
Sato, Tomotaka. “Practical management of deep cutaneous fungal infections.” Medical mycology journal 58.2 (2017): E71-E77.
「掌蹠膿疱症の皮膚病変は医師が診察すべき」という意味の英文の頭文字なのですが、正直覚えにくい。(掌蹠膿疱症の正しいつづりは”Pustulosis Palmaris et Plantalis“で論文のつづりは誤り。。。)
なぜこれらの疾患が重要なのかも特に記載されておらず、なんともコメントしづらいところですが、セミナリウムでも紹介されていますし、専門医試験対策と割り切って重要だと思い込みましょう。
本問の選択肢2. Cutaneous protothecosisでもAC PPPS MDがでちゃってますし、要注意です。
今回は耳馴染みのない「プロトテコーシス」・「シュードアレッシェリア症」・「菌腫」の菌体の画像をAC PPPS MD論文から引用しておきます。
プロトテコーシス【藻類(そうるい)の感染症 algal infection】
プロトテコーシスは、厳密には真菌症ではなくて藻類に分類されるそうです。
morula(桑実胚)様の細胞と表現されています。丸っこいようですね!(投げやり)
シュードアレッシェリア症【菌腫Mycetomaでの報告が多そうですが。。。】
シュードアレッシェリア症は、菌名変更で現在セドスポリウム症と知られています。(Pseudoallescheria boydiiが主な菌種でしたが、Scedosporium boydiiに名称変更されています。)
AC PPPS MD論文では上のように菌糸の病理画像が記載されていますが、次に説明する菌腫Mycetomaの原因菌としても知られています。
菌腫Mycetoma【顆粒grainsが特徴的】
菌腫Mycetomaは放線菌性菌腫(ノカルジア症)と真菌性菌腫(Scedosporium boydiiなど)に分けられていますが、「顆粒」と呼ばれる排出物が診断に大切なようです。
Mycetoma is an uncommon chronic infective disease of the skin and subcutaneous tissues that is characterized by the triad of tumefaction, draining sinuses, and the presence in the exudate of colonial grains.
Weedon’s skin pathology 5th edition Chapter 26 Mycoses and algal infections
とあるように、「腫脹」・「瘻孔」・「顆粒の排出」が3徴です。
右の病理画像の中央に顆粒がありますが、やや見えにくいのでWeedonから引用しておきます。
「顆粒があれば菌腫Mycetoma」と覚えておくのでよいと思います。
参考文献
いかがでしたか。
正直、画像一発で真菌症の問題は厳しいところです。
マイナーな深在性皮膚真菌症も重要?なものとして記載されているので画像だけでも知っておくと得することがあるかもしれません。
- 佐藤友隆. “1. 深在性皮膚真菌症の多様性.” 日本皮膚科学会雑誌 131.6 (2021): 1497-1501.
- Sato, Tomotaka. “Practical management of deep cutaneous fungal infections.” Medical mycology journal 58.2 (2017): E71-E77.
- Galezowski, Agnès, et al. “Deep cutaneous fungal infections in solid-organ transplant recipients.” Journal of the American Academy of Dermatology 83.2 (2020): 455-462.
- Weedon’s skin pathology 5th edition Chapter 26 Mycoses and algal infections
- McKee’s Pathology of the Skin 4th edition Chapter 18 Infectious diseases of the skin
最後に、こんな風に考えたら答えがかわるかもしれない、というご意見がありましたら、
ぜひコメント・ご意見いただけると嬉しいです。
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