部位ごとの算定、できる?できない?【皮膚科の検査と処置】

皮膚科の保険算定

 日々皮膚科の診療をしていると、検査や処置をおこないますが、同じ検査や処置を同日に2か所以上におこなうこともあります。部位ごとに算定できる場合にはもれなく算定したいところです。

  • この検査・処置って部位ごとに算定できたっけ?
  • 真菌検査(KOH)は2か所以上やっても算定できないってほんと?
  • どんな処置なら部位ごとに算定できるの?

 といった疑問をお持ちのかたへ!

 この記事では、皮膚科の検査と処置での同日の部位ごとの算定の可否について説明しています。

※注意

 皮膚科の診療で一般的におこなわれる検査と処置の項目(こちらのページに記載されたもの)に限った記事でそれ以外の検査・処置での部位ごとの算定はこの限りではありません。

 また、最終的な保険算定の判断は審査機関にゆだねられますので地域ごとに差が生じる可能性があります。(保険算定の仕組みはこちらで解説しています。)

部位ごとの算定、できる?できない?【皮膚科の検査と処置】

部位ごとの算定、できる?できない?【皮膚科の検査と処置】

 大前提として、保険算定については

1つの「病名・部位」につき、1つの「検査・部位」・1つの「処置・部位」

 という原則があります。

 また、部位ごとの算定について、検査では決まりが明確なことが多いですが、処置では扱いが曖昧なものもあります。

 皮膚科なら体表面全体に処置をする可能性がありますが、他科は基本的に臓器ごとの処置になるのでやむをえないですね。

 そのため、同日に部位ごとに算定できると断言できる処置はかなり限られています。

皮膚科の検査の部位ごとの算定【部位ごとに算定できる検査は2つ】

皮膚科の検査の部位ごとの算定【部位ごとに算定できる検査は2つ】

同日に部位ごとに算定できる皮膚科の検査【皮膚生検とツァンク試験】

皮膚生検

 一つ目は、皮膚の病理検体を採取する「皮膚生検」の算定です。

 厚生労働省からの通知や通則には明確な記載はされていませんが、部位ごとに算定できない、という決まりはなく、常識的な部位数(審査機関が判断)であれば部位ごとの算定は可能と考えられます。

 ただし、1つの「病名・部位」につき、1つの「検査・部位」という原則があるので、同一部位で2か所生検する場合には症状詳記や再審査等請求が必要になるかもしれません。

 皮膚生検の詳細な算定項目は以下にまとめています。
 皮膚生検の算定は?【蛍光抗体や免疫染色の保険算定も解説】

ツァンク試験

 二つ目は、「天疱瘡」や「ヘルペスウイルス感染症(単純ヘルペスや帯状疱疹)」で保険適応となる「ツァンク試験」です。

 「N004 細胞診 2 穿刺吸引細胞診、体腔洗浄等」で算定することになりますが、「1部位につき」という注釈があり、異なる部位であれば部位ごとに算定が可能です。

 ただし、「同一部位や近接した部位」から複数検体を採取した場合には「1部位」としてしか算定できません。

 さらに、細胞診の判断料である「N006 2 細胞診断料」は、いかなる場合でも月1回しか算定できません。

同日に部位ごとに算定できない皮膚科の検査【KOH、エコーなど】

同日に部位ごとに算定できない皮膚科の検査点数
D017 排泄物、滲出物又は分泌物の細菌顕微鏡検査
 3 その他のもの:真菌検査、KOH
64点
D018 細菌培養同定検査
 5 その他の部位からの検体:真菌培養
170点
D215 超音波検査
 2 断層撮影法(心臓超音波検査を除く。)
  ロ その他の場合
   (2)下肢血管:静脈瘤など
   (3)その他(頭頸部、四肢、体表、末梢血管等):皮膚エコー



450点
350点
D282-4 ダーモスコピー72点

 真菌検査(KOH)、皮膚エコー、ダーモスコピー検査は、同一日に2か所以上検査をすることもありますが、以下の厚生労働省からの通知(読み飛ばしても大丈夫です。)の通り、同一日に部位ごとの算定はできません。

 超音波検査(皮膚エコー)については以下のようにやや算定が複雑です。

  • 部位が変わっても、同じ月の2回目からは×0.9(315点)で算定
  • 1日に複数部位に検査を行った場合でも1回のみ算定可能

D017 排泄物、滲出物又は分泌物の細菌顕微鏡検査(通知)

(4) 症状等から同一起因菌によると判断される場合であって、当該起因菌を検索する目的で異なる複数の部位又は同一部位の複数の箇所から検体を採取した場合は、主たる部位又は1箇所のみの所定点数を算定する。

D018 細菌培養同定検査(通知)

(1)エ 症状等から同一起因菌によると判断される場合であって、当該起因菌を検索する目的で異なった部位から、又は同一部位の数か所から検体を採取した場合は、主たる部位又は1か所のみの所定点数を算定する。ただし、血液を2か所以上から採取した場合に限り、「3」の血液又は穿刺液を2回算定できる。

D215 超音波検査
<通則>
区分番号D215(3のニの場合を除く。)及びD216に掲げる超音波検査等について、同一患者につき同一月において同一検査を2回以上実施した場合における2回目以降の当該検査の費用は、所定点数の100分の90に相当する点数により算定する。

(通知)
(1) 「1」から「5」までに掲げる検査のうち2以上のものを同一月内に同一の部位について行った場合、同一月内に2回以上行った場合の算定方法の適用においては、同一の検査として扱う。
(2) 超音波検査を同一の部位に同時に2以上の方法を併用する場合は、主たる検査方法により1回として算定する。また、同一の方法による場合は、部位数にかかわらず、1回のみの算定とする。

D282-4 ダーモスコピー(通知)

ダーモスコピーは、悪性黒色腫、基底細胞癌、ボーエン病、色素性母斑、老人性色素斑、脂漏性角化症、エクリン汗孔腫、血管腫等の色素性皮膚病変、円形脱毛症若しくは日光角化症の診断又は経過観察の目的で行った場合に、検査の回数又は部位数にかかわらず4月に1回に限り算定する。なお、新たに他の病変で検査を行う場合であって、医学的な必要性から4月に2回以上算定するときは、診療報酬 明細書の摘要欄にその理由を記載することとし、この場合であっても1月に1回を限度とする こと

診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)令和4年3月4日保医発0304第1号別添1

皮膚科の処置の部位ごとの算定【審査機関の判断となる場合もあり】

皮膚科の処置の部位ごとの算定【部位ごとに算定できる処置は3つ】

 処置については、次のきまりがありますが、検査よりも部位の解釈が曖昧なものが多いです。

両側にある器官の場合には、規定がない限り、両側まとめて算定する

第9部 処置 <通則>
6 対称器官に係る処置の各区分の所定点数は、特に規定する場合を除き、両側の器官の処置料に係る点数とする。

診療報酬の算定方法の一部を改正する件(告示) 令和4年厚生労働省告示第54号 別表第1(医科点数表)

 「皮膚は両側にある」というわけではありませんが便宜上、「足は左右であわせて1部位」、「手は左右であわせて1部位」と皮膚科の処置では「四肢=対称器官」とみなされているようです。(記載がある公文書は見つけられませんでした。ご存じのかたがいらっしゃればコメントいただけますと幸いです。)

 ただし、上肢として左右なのか、手と前腕と上腕は区別して左右なのかの定義がなく各審査機関に判断がゆだねられることになります。

同日に部位ごとに算定できる皮膚科の処置(注射を含む)

同日に部位ごとに算定できる皮膚科の処置(注射を含む)点数
G000 皮内、皮下及び筋肉内注射(1回につき)22点
G017 腋窩多汗症注射(片側につき)200点
J054-2 皮膚レーザー照射療法(一連につき)
 2 Qスイッチ付レーザー照射療法
  イ 4平方センチメートル未満
  ロ 4平方センチメートル以上16平方センチメートル未満
  ハ 16平方センチメートル以上64平方センチメートル未満
  ニ 64平方センチメートル以上


2,000点
2,370点
2,900点
3,950点

G000 皮内注射・皮下注射(ケナコルト注射など)

 ケロイドなどの治療に使用されることが多いケナコルト注射が含まれます。

 「頭頸部で1部位なのか、右耳で1部位なのか」といった、部位についての細かい決まりはありませんが、部位ごとに算定できます。どれを1部位とするかの判断は審査機関にゆだねられていると考えられます。

 1つの算定で22点なので部位が分かれている場合には部位ごとに算定してもれなく算定したいところです。

G017 腋窩多汗症のボトックス注射

 脇の多汗症で塗り薬で対応できないなどの難治性のもので保険適応があります。

 たいていの場合、両側に処置をしますが、片側ごとの算定が可能です。ボトックス注射の場合は薬剤料が高額なので忘れずに算定するようにすることが大切です。

J054-2 2 Qスイッチ付レーザー照射療法 

 くわしくは、皮膚科のレーザー治療の算定でまとめています。

 Qスイッチ付レーザーでは「頭頸部、左上肢、左下肢、右上肢、右下肢、胸腹部、背部」の7部位ごとに算定が可能です。

同日に部位ごとに算定できない皮膚科の処置

同日に部位ごとに算定できない皮膚科の処置
(※外来診療料に含まれる項目)
点数
J000 創傷処置
J001 熱傷処置
J001-4 重度褥瘡処置
J003 局所陰圧閉鎖処置(入院)(1日につき)
J003-2 局所陰圧閉鎖処置(入院外)(1日につき)

J053 皮膚科軟膏処置
面積による
(詳細はこちら
J054 皮膚科光線療法(1日につき)
 3 中波紫外線療法(308ナノメートル以上313ナノメートル以下)

340点
J054-2 皮膚レーザー照射療法(一連につき)
 1 色素レーザー照射療法

2,170点

 これらの処置は、基本的に部位ごとの算定はできません。

 「創傷処置・熱傷処置・重度褥瘡処置・皮膚科軟膏処置」の中で「部位ごとの算定制限」の記載があるのは、実は「手術後の創傷処置」のみです。

 ただ、実運用上はこれらの処置を部位ごとに算定すると査定されてしまう場合もあるようです。地域の運用上、部位ごとの算定ができる場合はよいのですが、そうでない場合も多いのかもしれません。

 また、色素レーザー照射療法も「部位ごとに算定できない」との記載はありませんが、以下のように考えることが一般的となっています。

色素レーザーは部位の算定については記載がないので、例えば単純性血管腫が右上腕に125㎠、左手背に50㎠ある場合、別々に算定できると考えがちですが、この場合は面積を合算して算定するのが正しい方法です。

第76回日本皮膚科学会 東京支部学術大会 ランチョンセミナー10 皮膚科領域におけるレーザー治療~治療の新時代と疼痛管理~

同日の部位ごとの算定が審査機関の判断となる皮膚科の処置

同日の部位ごとの算定が審査機関の判断となる皮膚科の処置
(※外来診療料に含まれる項目)
点数
J001-7 爪甲除去(麻酔を要しないもの)(※)60点
J055-2 イオントフォレーゼ220点
J056 いぼ等冷凍凝固法
 1 3箇所以下
 2 4箇所以上

210点
270点
J057 軟属腫摘除
 1 10箇所未満
 2 10箇所以上30箇所未満
 3 30箇所以上

120点
220点
350点
J057-2 面皰圧出法49点
J057-3 鶏眼・胼胝処置170点
J057-4 稗粒腫摘除
 1 10箇所未満
 2 10箇所以上

74点
148点

 これらの項目は、部位ごとの算定が「できる」とも「できない」とも記載がありません。

「部位ごとの算定の決まりの記載がない」=「審査機関の判断にゆだねられる」

 と認識しておくべきと考えられます。

 特に記載がない限り「足は左右であわせて1部位」、「手は左右であわせて1部位」と皮膚科の処置では「四肢=対称器官」とみなされているので、

 「右足」と「左足」で別々に算定することはできませんが、「手」と「足」では別々に算定可能な場合もあると考えられます。(それぞれ病名が必要です。)

 例えば、「和歌山県皮膚科医会」のウェブサイトには以下のように記載されています。

爪甲除去(J001-7)は同一手指又は足指に対しては月1回の請求となる。・・・(手指、足指は別々に算定できる )

和歌山県皮膚科医会 保険診療 処置・手術 http://dermatology.xsrv.jp/contents/hokenshinryo/syochi.htmlより

 ただ、地域ごと・審査機関の先生ごとに判断がバラバラとなる可能性が高いです。

 また、いぼへの液体窒素による治療(J056 いぼ等冷凍凝固法)の箇所の数え方についても審査機関ごとに異なる可能性があります。(「部位」の箇所、なのか「いぼの病変」の箇所なのか)

 皮膚科学会としては専門医試験の解答のように、

「いぼの病変」の箇所で「3箇所以下と4箇所以上」を区別したいようですが、現状では厚生労働省の通知や通則がなく地域の事情によって「部位の数」の箇所で算定される可能性もあるかもしれません

 審査機関の判断に再審査を請求できる場合もありますので、状況によっては問い合わせをすることで算定が認められるかもしれず、再審査の請求を考えてみてもよいかもしれません。

まとめ

まとめ

 同日に部位ごとに算定できる検査は、

皮膚生検Tzanck試験 のみ

 同日に部位ごとに算定できる処置は、

皮内注射(ケナコルト注射など)
腋窩ボトックス注射
Qスイッチ付レーザー照射療法
 のみ

 残念ながら、上記以外の

検査(KOH、真菌培養、皮膚エコー検査、ダーモスコピー検査など)

処置(創傷処置、熱傷処置、局所陰圧閉鎖処置、紫外線治療、色素レーザー照射療法など)

同日に部位ごとに算定することができません

 ただし、次の処置は明確な記載がなく、1か月の算定回数とも関連して各審査機関で判断が分かれると考えられます。(症状詳記や再審査等請求で部位ごとの算定が認められる可能性あり

爪甲除去、イオントフォレシス、いぼの液体窒素、軟属腫摘除、面皰圧出法
鶏眼・胼胝処置、稗粒腫摘除

 いかがでしたか?

 せめて算定できる項目だけでも確認して算定漏れがないようにしたいですね!

そのほか皮膚科の保険算定についてはこちらでまとめています。

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